元日にひとり映画館|食費月15万円の自炊日記~贅沢せず、かといって節約もせず~#14
珈琲貴族エジンバラ
私の住んでいる町は喫茶店文化が盛んだ。大きな商業施設はないのに、伝説の喫茶店目当てでわざわざ駅を訪れる人もいるらしい。最近は外でお茶する機会も減り、家でコーヒーか紅茶をのんでいるが、喫茶店は好き。
元旦のおひとりさまを迎い入れてくれた喫茶店は、新宿三丁目の「珈琲貴族エジンバラ」。以前はここでよく仕事したり、本読んだり、なんもしなかったりしていた。今日はちょっとだけ仕事しながら映画の開始まで時間をつぶす。
当然新宿はガラガラだ。昨日までありえないくらいの人が押し寄せた伊勢丹も閉まっている。俳句でうたわれそうなくらい静けさだ。
喫茶店のサンドイッチはおいしい。パンの耳もおいしい。脇役のきゅうりもおいしい。3枚しかないチップスターもおいしい。
周りは夫婦、女子2人組、男性ひとり、女性ひとり、若い人も意外に多い。スターバックスじゃなくて珈琲貴族を選ぶ人いいね。
同じ顔の男たち
珈琲貴族で寛いでいたら上映10分前になってしまった。サンドイッチを一切れ残し歌舞伎町に急ぐ。マスクしたまま小走りしたら息が苦しくなった。
2023年最初の映画に選んだのは『MEN 同じ顔の男たち』。
A24だし、主演のジェシー・バックリーは、『ロスト・ドーター』と『もう終わりにしよう。』を観て気になっていた。
タイトルどおり登場人物の男性はみんな同じ顔をしている。
主人公の抱えている事情、心理状況から「同じに見える」解釈だと思うが、平常時でも男の人の顔を区別できない、しにくい人はいると思う。
私は社会人になりたてのとき会社のオジさんの顔が区別できなかった。同じようなネクタイとスーツで、同じような世間話をして、同じように不機嫌で、同じように愛想笑いをするオジさんたち。名前を顔を一致させるのに長い間苦労した。
でも今は若い女の子の顔が区別できなくなった。肩の落ちたコートやスニーカー、太めのデニムはエフォートレスというか、ジェンダーレスというか、私の目には新鮮だし、同時に画一的にも見える。
エビちゃんOLを見て真似て雑誌を熟読していた時代は、オンでもオフでも疲れる格好をしていたが、その頃はその頃で、みんな同じに見えたんだろう。
私の脳には「若い女子」で一括りにするバイアスがかかっているので、全部一緒に見えるのかもしれない。確かに、同年代や年配の女性はすぐ記憶できる。
予想以上にグロい映画を見終わり映画館を出たら、外国人男性に話かけられた。
「日本人はホラーが嫌いだと聞いたが、どこであなたはこの映画を知ったのですか?」
真面目に回答すべきか、無碍にあしらうべきか、対処法に若干迷いつつも、「えーっと。えーっと」と駅に向かう。
同行する外国人があきらめずに質問を続けるので、「Twitterでみた」と適当に回答した。
「Twitter。日本のホラー映画、ほかにおススメありませんか?」と言われたので「A24ならなんでも」と真面目に答えたら、「そうじゃなくて、日本映画で」と切り返された。
「日本映画は詳しくない」と伝えたら、あっそっ的な反応で、さっと消えた。
電車で考えたのだが、私が勘違いしていただけで、彼は元旦にわざわざひとりでホラー映画を観に来た奇特な日本人をリサーチ対象にしただけだったのではないだろうか。
あの時のおにいさん。期待していた回答が出せなくて、すみませんでした。
鴨肉を焦がす
帰宅したら、昨日の不機嫌を反省したのかしていないのか、ちょっとご機嫌な夫がキッチンにいた。
今日は鴨を焼く。これも昨日伊勢丹で手に入れた戦利品のひとつらしい。
せっかくいいお肉なので、「うちに気の利いた塩はあるかな~?」と探してみたが無かった。沖縄の塩とかどっかにあった気がしたんだけど無かった。
いつまで焼けばいいのか判断に迷い、結果的に……焦がした。
いい肉なのに、身は固く、本来持っていたであろう鴨の風味みたいなのが飛んだ。
生ハムとチーズに救われる
肉は失敗したが、他は調理がいらないので、一緒に食事する人との関係性さえ拗らせなければ美味しくいただける。
最後の生ハムを食べたとか食べないとかで諍いがあったものの、風邪薬とワインで気持ち良くなった夫は大人しかった。
食事のあとラム酒を1杯だけ飲んだ。今日はいい日だった。
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