見出し画像

酔いどれ雑記 77 修行


子供の頃読んだ『おしゃかさま』というタイトルの本に載っていた、忘れられない話があります。内容を正確には覚えていないのですが、大筋では合っていると思います。それはこんな話でした......

ある男が修行をしていると、向こう側の崖から経が聴こえてきた。大変素晴らしい経だったので、姿の見えぬ声の主に「どうか最後までその経を聴かせてください」とお願いすると「ではお前の命と引き換えに聴かせてやろう、それでよいか」と返ってきた。男は喜び、経を有難く聴きながら自分の血で地にそれを書きつけ、経を聴き終わると男は息絶えていたーー声の主は鬼だったのだ。

どうです、幼心にかなり強烈だったのですが、むしろこんな今だからこそこの話が猛烈に読みたいです(検索が下手なのか出てきません......)。

命を懸けてでも聴きたい音楽、読みたい書物、たどり着きたい風景、欲しい言葉が私にはあるでしょうか。この世には数多の美しいものや醜いあれこれがあふれていますが、自分が有難く感じるものと引き換えに命を奪われるだなんてなんともうらやましいです。私のそばにも鬼が現れないものでしょうか......。徳を積んでいない私には縁がなさそうですーー無意味な修行は沢山した気がするのですが......。

私はただこうして日がな一日、雑文を書くくらいしか今は出来ませんが、私の文章をこれからも熱烈に読みたいという方がいらっしゃっても命を頂戴しようだなんて思いません。そのうち文章で生活できたらなくらいには思っていますが......。