見出し画像

小説からわかる日本経済史(なぜデフレ?なぜ不良債権?対処法は?)

web小説『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』を読んだことで、経済学、金融論について非常に興味を持ったので、関連付けておく。

あらすじ
現代世界をモチーフにした乙女ゲームの悪役令嬢に転生。けど、現代世界だからこそ悪役令嬢のスローライフにはいろいろと苦労があって、NAISEIするにも日本近代史と現代経済史とグローバル経済が主人公に襲いかかる。
頑張れ悪役令嬢!負けるな悪役令嬢!!ちょっと太平洋戦争に負けたり、バブルが崩壊したり、フィナンシャルクライシスが襲いかかるけど、ちゃんとスローライフを送るために主人公とイケメンを放置して歴史改ざんとマネーウォーズに身を投じる悪役令嬢桂華院瑠奈の奮闘記

戦後に財財閥解体がなされず、残った桂華院財閥。そこに生まれた瑠奈は、自身の日本近代史の知識を使って大儲け。そのお金を使ってバブル後に動乱を巻き起こした不良債権問題に苦しむ金融機関を助けていくというのが1章だ。この物語ではバブル崩壊後、失われたと言われた日本経済衰退期から描かれたものだ。

バブルと崩壊の要因

〇バブルの傾向
日本のバブルでは株と不動産の価格だけが異常に高騰した現象である。

〇バブル崩壊の原因
このバブル崩壊原因として最も会計しているものは「金融行政の誤り」である。大蔵省(現財務省)の総量規制と日本銀行(以後「日銀」)の度重なる金融引き締め(公定歩合の引き上げ)が行われた結果起こった人災である。

この時の日銀の思想として、「インフレは過度に警戒し、デフレは懸念なく。引き締めは早く大胆に、緩和は遅く、慎重に」という思想であった。当時大蔵省官僚だった高橋洋一氏(嘉悦大学教授、数量政策学者)は「金融引き締めはやる必要がなかった」と語る。つまり、日銀は日本経済そっちのけでとにかく金利を上げたかったということだ。その兆候が優良企業向け長期貸出金利が上昇にも表れている。

不良債権の対処法

小説の中でも瑠奈を悩ませた不良債権問題。不良債権とは金融機関が貸したお金の回収が不可能になる状況のことを言い、この不良債権が原因で数々の金融機関が破綻に追い込まれ、日本経済は大混乱に陥ってしまった。

脱却の対処法として経済学者岩田規久男は大きく分けて4つ挙げている。

①デフレから脱却する。
②金融機関は利益の逃走を防ぐために強固な柵を作り、自己資本を増強する。
③過剰な投資と維持費を抑えるために、金融機関の逃げ道(ペイオフ、公的資金注入)を塞ぐ。
④プロジェクトごとに厳密な審査をする。

作中の瑠奈は自分で稼いだファンドを使って金融機関救済に乗り出している。だが、ここでもの申したいのは、「デフレをまず解決せんか!」ということだ。当時もっともバカだったのが、日銀である。政府と繋がれるなら、日銀の人事に介入し、まずデフレを脱殻するべきだったのだ。岩田規久男の同書では「デフレが解消されなければ、不良債権問題を解決しようとしても意味がない。不良債権問題が悪化していくだけだ」と書いている。

作中の中では公的資金の注入(大蔵省が税金を使って金融機関に資金を注入すること。これで金融機関は一時的に助けられる)も描かれている。

ではどうすればデフレ脱却、デフレ解決ができるのか。それはものすごく簡単。政府と日銀が協力して金融政策と財政政策をするということである。マクロ経済政策の常識を着実に実行すればこんな不況何とでもない。金融政策では、金利を極限まで下げ、お金を刷って国債を発行する。財政政策では、どんどん公共事業にお金を出す。この2つの政策連携は必須である。

日銀をむしばんでいた悪魔

当時から政治・経済界をむしばんでいた悪魔は3つある。デフレ構造問題原因論、良いデフレ論(清算主義)、ダム論だ。

①デフレ構造問題原因論
「現在のデフレは、グローバリーゼーションの進展など「構造的な要因」が原因である。「構造的な要因」が原因で生じているデフレは、財政政策や金融政策などのマクロ経済政策では対応できない。」という主張。

つまり、「デフレの原因はグローバル化という構造だ。だから経済政策でどうにかできる問題ではない」ということ。

構造問題原因論が主張する対策として「問題は『構造』なのだから根本的かつ一挙に変革する以外にない』。相手は『構造』なのだから耐え忍ぶしかない」と主張している。

これについてわれらがリフレ派は「見ているところが限定的だ」と批判

ちなみに小説でいうところの2章小泉政権の前半政策、がもっとも分かりやすいだろう。「財閥解体」(作品中では財閥は解体されずに残っているという設定)という構造改革を打ち出している。それで日本経済良くなると思っていたのだろうが・・・。

②良いデフレ論(清算主義)
「資本主義において不況が生じるのは避けられない。不況という「経済産業破壊」を通して非効率的な企業や雇用の切り崩しが進み、新たな成長の基礎が準備される。」という主張。

つまり、「企業をわざと破壊し、国民をわざと不幸にさせることで、本当の資本主義ができる」と言っている。なんか、全体主義(個人よりも国が大事という思想)ですな。実際、現日銀審議員、専修大学教授の野口旭は「マルクス主義者(社会主義者)はよく清算主義を主張しているよね」と言っている。

良いデフレ論(清算主義)が主張する対策として、「真の資本主義を目指すためには日本を追い込まなければならない。だからもっと日本経済をどん底に落とそうぜ」という主張。

「跳躍口に苦し」というような思想もあって、この思想は日本国民に受け入れられたとか。びっくりですな。ですが、経済評論家上念司に言わせてみれば、「科学的根拠なし」だそう。

ちなみに、小説と重ね合わせるなら、瑠奈が1章で活躍している時代は、この理論を信じていた速水日銀総裁(当時)の時期である。瑠奈のすべきことはこの総裁を引きずり下ろすことだったのかもしれない。

③ダム論
「企業収益の増加による家庭所得と個人消費への影響は遅れて徐々にやってくる」という主張。これも上念に言わせれば「科学的根拠なし」という。この理論を信じていたのは山口副総裁(当時)であった。

・リフレ派(マクロ経済学)の反論
構造問題原因論→デフレの原因はデフレギャップ(総需要と総供給の差)である。これには供給側の要因と需要側の要因の両方が影響を与えている。マクロ経済政策は構造要因(総供給にではなく、総需要)に働きかけることで、総供給と総需要のギャップを縮小させ、物価や雇用の適切な水準を達成し維持しようとする政策である。たとえデフレギャップの原因が供給側であったとしても、マクロ政策を用いてデフレギャップを縮小させ、デフレを阻止することは可能である。(野口旭)
経済的な成功はあったが、構造など変わっていない。変わったのは経済政策(金融政策と総量規制)だ。(上念司)
・良いデフレ論→デフレは物価の下落から始まり、最後は失業率の増加に行きつく。デフレは社会に少なくない悪影響を及ぼしている。そんなデフレがいいのか?それは科学的根拠はないぞ。(上念)
経済回復自体を否定する考え方だからね。どうしようもなく呆れるよ。彼らは無知か利害で動いているのさ。(野口)
・ダム論→実際はそれで放置した結果、経済が悪化しただけだった。いつまで待てばいいんだよ。100年後か?w。それに科学的根拠もない

今回は瑠奈をたくさんしかりつけてしまいましたが、おそらく作成されるであろう次回では、小説の時系列に沿って日本経済史を振り返っていきたいなと思っております。ではまた!

参考書籍
『経済で読み解く日本史 平成編』上念司 飛鳥新社
『デフレの経済学』岩田規久男 東洋経済
『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』野口旭 東洋経済
『たった1つの図でわかる! 図解経済学入門』高橋洋一 あさ出版

※なおこの視点は一般的に言う「リフレ派」の意見で構成されていますが、マクロ経済学において「リフレ派」は圧倒的多数派であり、日本のマクロ経済学会、世界の経済学会においては「常識」です。(『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』より)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?