全国自然博物館の旅【47】四万十川学遊館あきついお
日本最後の清流と呼ばれる四万十川の流域には、魅力的な生き物がたくさん棲んでいます。人間を含めたあらゆる生命に恵みをもたらす流れは、まさしく地球の財産です。
四万十市には、当地の自然環境について深く学べる博物館があります。清流の秘密と現地の生態系を理解するため、テンション爆上がりで来館しました。
清流・四万十川の恵みを受ける生命たち
全国民が知る高知県の清流・四万十川。豊かな自然環境があふれる生物マニア憧れの地です。当地には、生き物好き(特に昆虫マニアと魚マニア)にぜひ訪れていただきたい素晴らしい博物館施設があります。
筆者も予てより絶対行きたいと思っていたので、空港の近くでレンタカーを借りてワクワクしながらスタート。四万十市は高知県の南西部に位置しており、地域内を効率よく観光するなら車が必須となります。旅人の方は、四国旅行に際してレンタカーの予約をお忘れなく。
長いドライブを経て、四万十川にたどり着いた瞬間は感動の極み。壮麗な眺めと神秘的な雰囲気に圧倒され、心が奪われてしまいました。これほど神聖な環境は、大自然の財産として永遠に守らなくてはなりません。
四万十川に来て叶えたい夢と言えば、生き物の観察と、ご当地の淡水魚の料理を食べることです! 最高の川の幸を味わうべく、リバーサイドに立つ料亭「四万十屋」に入店しました。
筆者が注文したのは「ごり丼」。淡水魚に詳しい人は「ごり」と聞いたらすぐおわかりだと思いますが、四万十川産のハゼ科淡水魚がたくさん入った料理です。噛めば噛むほど、口の中でおいしさが広がって、幸せの極みでした。
ぜひ現地を訪れた際には、清流で育った淡水魚を味わってください。
四万十川の幸をたっぷり味わったら、またゆったりドライブしながら、四万十川学遊館あきついおを目指します。あきついおの周辺には、昆虫マニアが涎を垂らして大喜びする生物保護区・トンボ王国(四万十市トンボ自然公園)があります。
水と緑が織り成す景観は、トンボを愛する人々が協力し、休耕田を改良して生み出した新環境です。スイレンやハナショウブが栽培されている誘致池をはじめ、トンボ王国の水環境には、年間を通して約70種類ものトンボたちが集まってきます。自然を尊ぶ人の手で築かれた聖域にて、野生のトンボをたっぷり観察しましょう!
トンボたちとの楽しい時間を満喫したら、満を持してあきついおへと向かいます。トンボ(あきつ)と魚(いお)の2つの単語からわかるように、世界中のトンボと四万十川の淡水生物をメイン展示とする高知の偉大な自然博物館です。地域から地球全土へとつながる大自然の学習のスタートです。
四万十川と地球の尊さを伝える地域の学術基地
昆虫マニア大注目! 日本屈指のトンボ専門展示!!
あきついおの展示エリアは、超濃密な生物学習ができる2つの棟で構成されています。トンボ類についての国内最高峰レベルの超専門的な解説が味わえる「とんぼ館」、多種多様な淡水魚を中心に四万十川の水域生態系が学べる「さかな館」。どちらも生物マニアが熱狂すること間違いなしです。
まず筆者は、とんぼ館から観覧開始。本館の標本や資料の展示は筆舌に尽くせないほど素晴らしく、昆虫マニアの方々に心から来館をオススメします。
それでは専門展示室へと移動し、昆虫マニア垂涎のトンボ学習をしたいと思います。四国のみならず全国のトンボ標本が一堂に会する様は、まさに壮観の極み。
四万十川流域に棲むトンボたちの多様性は驚異的! アジア大陸との共通種もいれば、北方系の種類や南方系の種類もいます。温暖化による気候変動により、四国でも通年生息できる飛来種が確認されており、トンボを含めた四万十川の生物相の変化がかなり気になります。
本館はトンボ専門博物館として、日本全国の超膨大なトンボ標本を有しています。この記事ではとても紹介しきれないほどの数ですので、昆虫マニアの方は絶対来館してたっぷりと見てください。
各地のトンボのかっこいい展翅標本を眺めていると、生き物好きはほぼ間違いなくトンボにハマります。解説キャプションにも探究心をそそられる情報が盛りだくさんで、とてつもなく深いトンボへの愛が伝わってきます。筆者も観覧を進めていくうちに、どんどんトンボの魅力にハマっていきました!
超強力なトンボ展示はさらに続きます。なんと、世界中のトンボの標本までもお目にかかれます!
多くの生命と同様に、それぞれの地域や大陸でトンボの特徴は大きく異なっています。めっちゃ大きくて力強いアフリカのヤンマ類、神秘的な翅の輝きを誇る東南アジアのカワトンボなど、彼らの多様性はとても言葉では表せません。
記事に載せられきれないほど多様すぎる世界のトンボ類。1つ1つの標本を見ていると、とても胸があつくなります!
本館はトンボ展示では間違いなく最強クラス。展翅標本のみならず、ユニークなトンボに関する資料の展示が目を引きます。1つ残らずチェックして、トンボへの愛と理解をさらに深めましょう。
トンボ展示が神レベル(それ以上!)に素晴らしいので、いろいろな昆虫たちとの出会いにも期待してしまいます。その期待をはるかに超えるクオリティの展示が、本館の2階に待っています。
あらゆる種類の魅力的な昆虫たち。彼らとの邂逅こそ博物館の醍醐味。どこまでもテンションが上がります。
国内の昆虫標本がとっても豊富な本館。鉄板人気のカブトムシやクワガタもたくさんいますが、本記事では敢えてマニアが好きそうな影の主役たちを紹介していきたいと思います。
筆者の推しはオオキノコムシ。キノコ(菌類)を食べる鞘翅目の昆虫、とってもマニア心をくすぐられます。ぜひ野外でも出会いたいですね。
ここからは日本を飛び出し、世界の昆虫たちと対面。前述の通り、標本数は超膨大であり、全ての昆虫たちを拝むには実際に本館を観覧しなくてはなりません。
実際に肉眼で見る世界の昆虫標本は、格別の感動を与えてくれます。あらゆる国の、あらゆる種類の昆虫たちとの出会いは生き物好きにとってかけがえのない幸福となるはずです。
最高以上に最高すぎる昆虫展示を満喫したら、脳の情報整理も兼ねて、休憩コーナーで一息入れましょう。一般の方々が撮影されたたくさんのトンボの生態写真、赴深いトンボのアートなどを眺めながら、まったりとした時間を過ごせます。
あっという間に本館の魅力にハマり、トンボが大好きになってしまいました!
四万十川から学ぶ生命・地球環境保全
とんぼ館で最高の満足感を得たら、お次は生体展示メインの「さかな館」へ移動します。文字通り、四万十川の淡水生物と出会える素敵な水族館施設。清流の生命との出会いが始まります。
来館者がまず驚くのは、意表を突く下流域の海水魚の展示ラッシュ。「四万十川には、アジやカレイやタツノオトシゴが棲んでるって本当?」と仰天すること必至です!
多くの河川と同様、四万十川にも海水と淡水の混じり合う汽水域が存在し、下流域の広い範囲で海水魚の遡上が確認されています。淡水魚と海水魚が共に生きる、独特かつ魅力的な環境。四万十川の生態系の壮大さ・緻密さが強く感じられます。
続いて中流域です。我々の考える四万十川のイメージに最も近い水域と言っても過言ではなく、四万十川の大半は中流域が占めています。蛇行を続けながら、ゆっくりと流れる四万十川の中には、現地の食文化を支える淡水魚たちがたくさん棲んでいます。河川環境と人間のつながりを想像しながら、生き物たちの姿を観察してみてください。
さらに観覧を進めると、四万十川の源にたどり着きます。はるかな不入山から源流が始まり、船戸まで約10 kmにわたって上流域が続いています。岩の多い渓流には、アマゴやタカハヤなどの冷水性の淡水魚がいっぱい!
あらゆる生命に恵みを与え、人々の暮らしを支える四万十川。その源流の近くに棲む生き物たちの清らかと美しさ、生体展示でたっぷりと堪能してください。
続いては、四国を飛び出して世界の淡水環境を見に行きましょう。次なる展示も区画「世界の魚コーナー」では、文字通り海外の多種多様な淡水魚と出会うことができます。
巨大なピラルクやかっこよさ満点のアリゲーターガーをはじめ、魚マニアが燃える豪華スターの大共演。迫力とカラフルな美に満ちた魚たちの世界へ飛び込みましょう。
魚たちはとても愛情深い生き物です。我が子を大切に育てる子煩悩な種類も、たくさん存在しています。シクリッドやエンゼルフィッシュは懸命に育児を行うことで、次世代の生存率を高めています。敬愛の念を持って、彼らの姿をじっくりと観察させていただきました。
海外の淡水魚の個性豊かな形態には、本当に惚れ惚れします。奇抜な姿をした種類、怖そうでめちゃくちゃ強そうな種類、丸くて可愛いフォルムの種類などバリエーション豊かであり、とても一言では語れません。本館の魅力全開の展示にて、神秘に満ちた淡水魚の世界を、さらに深く覗いてみたいと思います。
四万十川以外の在来淡水魚の展示も、誠に素晴らしいです。本館では、特別天然記念物のミヤコタナゴやレッドリスト種のシナイモツゴの飼育繁殖に取り組まれていて、生物種の保全に大きく貢献されています。貴重な我が国の淡水魚を観察しつつ、彼らが置かれている現状を理解していただきたいと思います。
メイン展示室にも、希少な淡水魚の展示水槽があります。四万十川を含めて、地球全域の水域で生物・環境保全が重要なテーマとなっています。人類による環境破壊が全ての原因であり、今なお苦しんでいる生き物が世界中にたくさんいます。
本館では、生体展示や資料展示で生態系保全の意義と方法について教示してくれています。尊い自然環境のために、1つ1つの展示をしっかり見て学びたいと思います。
さかな館では、魚類の他にも様々な生物の標本が展示されています。鳥類の剥製や昆虫の巣など、陸域の生命にもたくさんお目にかかれます。全ての展示をくまなく見て、四国の生態系についての理解を深めましょう。
全てにおいて最高峰のトンボ類の学術展示、四万十川の流域環境を理解できる卓越した水族展示、そして意義深い学びを与えてくれる環境教育資料。全ての生物マニアにとって最高の学習の場と言っても過言ではなく、筆者にとっても極めて思い出深い博物館です。
多くの生命を育み、古来より人々に恵みを与える四万十川。日本屈指の清流の尊さを、あきついおが教えてくれました。環境保全の意義を学ぶうえでも、ぜひとも多くの人々に本館を訪れていただきたいと思います。
四万十川学遊館あきついお 総合レビュー
住所:高知県四万十市具同8055-5
強み:質も量も最強クラスのトンボ類の展翅標本と学術資料、四万十川の流域をイメージしながら観覧学習ができる水棲生物の生体展示、四万十川流域を中心に展開される意義深く濃密な環境教育
アクセス面:施設の手前までアクセスするには車が必要です。高知県内で宿泊される方は、駅やホテルの近くでレンタカーを借りて向かいましょう。あきついおの周辺道路は住宅街の路ですので、他の車や歩行者に注意しながら運転しましょう。なお、かなりピンポイントだと思いますが、もし自転車で四国をお遍路されている方がいましたら、少しルートからそれて、ぜひあきついおを訪れてみてください。
トンボについての全国トップクラスの濃密学習ができるうえに、四万十川の水域生態系が総合的に学べる自然博物館。先述の通り、トンボの専門学術展示が圧倒的であり、さらに同エリアにトンボの保護区を有しているので、昆虫マニアなら絶対訪れておきたい学術施設と言えます。
水族展示も大ボリュームかつ超ハイクオリティであり、四万十川の流域の生態系を学びながら、美しい生体を観察できます。遡上する海水魚も含めて、予想以上に多様で複雑な四万十川の生物相にはきっと誰もが驚くはずです。
館のすぐ近くに生物保護区があるのも、本館の大きな強みです。あきついおでトンボの学術的知識を得て、トンボ王国で野生の個体を観察するという、超濃密な自然学習が来館者をワクワクさせてくれます。身近でフィールドワークが楽しめる博物館、生物マニアにはとてつもなく魅力的に感じられます。
あきついおの展示観覧も、自然保護区でのトンボ観察体験も、全てが尊く素晴らしい! 四万十川の魅力と地域の自然環境を濃く深く学べるうえ、生物・環境保全の大切さも改めて実感できるので、全ての生き物好きの人々に訪れていただきたいミラクルな博物館です。
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