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全国自然博物館の旅㊴城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリー

大都市・東京はとても魅力的な街ですが、生き物好きの人はあまり東京には旅行しないと思います。23区内は生物観察スポットや化石産出地が少なく、国立科学博物館を観覧したら自然科学マニアは「千葉か埼玉の自然博物館に行こうぜ」という気持ちになるのです。
ですが、ぜひ見たいただきたい無料の博物館が日本の中枢である千代田区に立っています。古生物ファンの方々には、必ず「来てよかった!」と思える素敵な場所になると断言します。


首都の中心部に美麗なる化石博物館あり!

今回訪ねるのは大都会の中心部に位置する大学博物館。マニア垂涎の超美麗な化石の展示に加えて、一般向けの教育イベントを定期的に開催されているという、古生物学の扉としての役割を担う素敵な学術施設です。
未知の世界を探検する気分で、ぜひ都心の博物館探索の旅に出てみましょう。

スタートは東京メトロの永田町駅。この駅では複数の路線がクロスするので、都心の多方面からアクセスが容易です。9a出口から地上に出て向かうのがもっとも近いルートとなります。

東京メトロの永田町駅が化石ギャラリーの最寄り駅。9a出口から地上に上がりましょう。
周囲を見渡せば大都市・東京の摩天楼が目に入ります。個人的には、新宿や池袋よりも千代田区や中央区のビジネス街の方が好みです。
筆者は都会よりも自然の風景が好きですが、たまには都心の街歩きも楽しいです。永田町には全国都市会館などが位置しており、我が国の行政の中枢と言えます。

ここで気をつけていただきたいのは、化石ギャラリーの所在地はキャンパスの3号棟ということです。付近には城西大学の各学棟が点在しており、確認不十分の場合はビル街を彷徨い歩くことになるかもしれません。スマートフォンのナビアプリがあるとはいえ、初見の方は油断せずに慎重に東京の街を歩いていただきたいと思います。

全国都市会館を通り過ぎて、次の門を右に曲がりましょう。そこから次の角を右折、さらに次の角を左折すれば博物館に辿り着けます。
城西大学の建屋ですが、博物館はここではありません。うっかり2号棟や4号棟に入ってしまわないように、しっかり現在地を確認しながら3号棟へ向かいましょう。

駅から徒歩5分ほどで紀尾井町キャンパスの3号棟に到着。本館の地下1階に無料の公開博物館「水田記念博物館大石化石ギャラリー」が築かれています。
日本と中国の古生物学の権威から寄託・寄贈を受けた素晴らしい化石標本が展示されているうえに、素晴らしい研究成果をあげられている学術施設です。本館の展示を通して、来館者の心には地球生命と自然科学への探究心が芽生えることでしょう。

3号棟に到着。本棟の地下1階が化石ギャラリーとなっています。
化石ギャラリーには外側から直接アクセスできます。どんな標本が見られるのか、とてもワクワクしますね。

アートのごとき標本のラッシュ! 化石マニア大興奮!!

学舎の中で開かれる太古の世界への扉

博物館の展示エリアに入館する前に、まずは奥の階段ホールへ。ここは公開された区画なので、大学構内の入館証なしでも観覧できます。
光の差し込む神殿のような空間には、勇ましい肉食恐竜の骨格が立っています。本個体は中国産の初期のティラノサウルス類であり、城西大学と学術交流協定を結んでいる清陽師範大学遼寧古生物博物館より寄贈された標本です。
超かっこいい太古の上位捕食者。在りし日の活躍を想像しながら、洗練されたハンターの姿を目に焼きつけてください。

たなだらかな階段の続くホール。柱の奥には、肉食恐竜の骨格が佇んでいます。
初期のティラノサウルス上科の骨格。中国の古生物博物館より寄贈された記念すべき標本です。
鋭い歯牙の生えた顎。当時の植物食恐竜にとって、本種は極めて恐ろしい捕食者だったと思われます。
後代のティラノサウルスと比べると前足は相対的に大きいです。獲物を押さえつけながら、鋭い爪で切り裂いたことでしょう。

それでは、来た道を戻り、化石ギャラリーへと向かいましょう。自動ドアをくぐると、細長い通路に出ます。壁面には地球史の年表が綴られており、生命進化と地球環境に関わる歴史的ビッグイベントを学ぶことができます。永い時の流れの中で生命がどのように発展してきたのかを詳しく知れば、この先に待ち受けるたくさんの化石たちと出会いが、さらに楽しくなります!

ギャラリーへと続く通路。壁面に綴られた資料は、地球と生命の歩んできた歴史の年表です。
どんな時代にどんな古生物が生息していたのか、写真とキャプションで解説。生命の永い進化の旅路が体系的に理解できます。
太古の世界地図の資料もあって、当時の生命の生息環境を強くイメージできます。中生代の三畳紀には、とてつもなく大きな超大陸パンゲアが存在していました。

通路奥の自動ドアを抜けると、化石ギャラリーへと本格入館。展示ケースに並べられた多数の化石たちを見ると、マニアは興奮を抑えきれなくなるでしょう。この不思議な展示空間に佇んでいると、時を超えて太古の生命の声が聞こえてきそうです。

化石マニア大歓喜! たくさんの展示ケースに様々な時代の古生物の標本が展示されています。
ギャラリーの入口にて展示されているのは、リャオニンゴティタンの実物化石。中国で発見された植物食恐竜です。
入口近くの壁面には、シーラカンスのイラストが飾られています。「生きた化石」と呼ばれる彼らは、本館の研究と関係の深い魚なのです。
魚類化石研究のポスター展示。白亜紀のレバノンの魚類相解明において、本館はとても大きな貢献をされています。

まずはイカした古代魚たちとの出会い。多くの古生物ファンにとって、かっこよさに定評のある魚は古生代に繁栄した甲冑魚かっちゅうぎょです。鎧をまとったような重厚感抜群の姿は、化石のマニアの心を強く惹きつけています。
本館の甲冑魚化石も、めちゃくちゃかっこいいです。マッシヴなフォルムと力強いボディを見て、彼らの魅力に酔いしれてください。

デボン紀の甲冑魚アステロレピスの化石。写真の左側が頭部にあたり、強固な骨性の装甲に覆われているのがわかります。
コッコステウス。頭部の骨質板はいかにも頑強そうでかっこいいです。
複数個体のドレパナスピス。甲冑魚は種類によって形態がかなり異なっており、姿形のバリエーションの豊かさも大きな魅力です。

古代の魚類と聞いて、多くの方が連想するのはシーラカンスではないでしょうか。本館では多くのシーラカンス類の化石を展示していると共に、なんと新種の記載を成し遂げています。
化石種も現生種も調査研究が進むシーラカンス類。ミステリアスな彼らの実像を学んでいきましょう。

2016年に新種記載されたワイティア・オオイシィ。三畳紀後期に生きていたシーラカンス類です。
アクセルロディクティス。白亜紀のシーラカンス類であり、魚食性の恐竜たちの獲物になっていたと考えられます。
ディプルルス。中生代の生物相において、シーラカンス類はメジャーな魚であったと思われます。
現生のシーラカンスを生態映像で紹介。祖先の血脈を継いで、現代まで生き残ってきた彼らは本当にすごいですね。

美と多様性を兼ね備えた魅惑の化石標本展示

本館の展示で驚くのは、化石たちの多様性と美しさです。丁寧かつ綿密なクリーニング(化石についた岩石を落とす作業)が施された標本は、まさに太古のアートと言えます。これほど美麗な化石の姿を見せてくれるスタッフの技術力には、敬服するしかありません。
これぞまさしくプロの技。素晴らしすぎる本館の標本を、余すところなく見ていただきたいと思います。

裸子植物ブラキフィルムの化石。葉などの植物体がくっきりわかるほど、細かくクリーニングされています。
白亜紀のミズウオ類ハスティクティス。頭部の形態や骨の形が明瞭にわかる標本に、化石マニアは大感激です。
プリオノレピス(写真左)。超繊細なクリーニング作業によってお腹の中も一目瞭然であり、胃の付近には呑み込まれた小魚の姿がはっきり見えます

続いて、節足動物の化石を見ていきましょう。昆虫やクモやサソリは他の動物よりもずっと小さく、クリーニング作業はとても大変だと思います。本館では様々な種類の節足動物化石を超繊細にクリーニングされていて、小さな生き物たちの細い肢や翅脈が明瞭に見て取れます。
これほど美しい節足動物の化石展示を見られるのは本当に素敵な体験です。直に拝んでみたら、化石マニアも昆虫マニアも声を出して感動することでしょう。

クモ類の化石。改めて見ると、とても美しい姿の節足動物だと思います。
白亜紀のブラジル産のサソリ類。サソリやクモは鋏角類という節足動物であり、昆虫ではありません
昆虫化石も超丁寧にクリーニングされています。このキリギリス類は、翅脈の筋がくっきりと見えます。
アミメカゲロウ類の化石。この美しさ、化石マニアも昆虫マニアも大歓喜です!
白亜紀のコオロギ類。小型肉食恐竜や翼竜の重要な獲物であったと思われます。

地上の節足動物の次は、水に中いる親戚へと目を向けましょう。甲殻類や鋏角類などの節足動物は、古生代から現代に至るまで長く血脈をつないでいます。はるか昔の種類の多くは現生種とほとんど姿が変わっておらず、この事実は彼らの卓越した生存能力を示唆しています。
エビもカニもカブトガニも、地球生命の大先輩。化石を眺めていると、海洋での彼らの生き様が目に浮かんできます。

白亜紀の甲殻類アントリモプスの化石。現代のクルマエビよりも大きく、他の海洋生物にとっては重要な獲物であったと思われます。
ドイツで発見されたジュラ紀の甲殻類メコキルス。同じ地域からは翼竜の化石が発見されており、小型翼竜たちはメコキルスを食べていたのかもしれません。
白亜紀のカブトガニ類。カブトガニはカニではなく、クモやサソリに近い節足動物です

古代のメジャーな水棲生物として、多様な軟骨魚類が知られています。現代の軟骨魚類はもっぱらサメやエイですが、古生代では実に様々な種類が海水・淡水を問わず幅広い環境に適応していました。
本館の軟骨魚類の化石はどれも魅力的ですが、一際異彩を放って見えるのがヘリコプリオンの歯です。独特な形態の歯はとても摩訶不思議であり、彼らの実像については、研究者の間でも多くの議論が交わされています。謎のベールに包まれた太古の軟骨魚類と出会い、進化のミステリーを感じてください。

ペルム紀に生きていた軟骨魚類ヘリコプリオンの歯。このような形状の歯を備えた生き物は他に存在せず、食性については謎が多く残されています。
ヘリコプリオンの解説資料。いったい彼らは、この独特な歯をどのように使って暮らしてたのでしょうか。
ペルム紀の古代魚オルタカントゥス。サメと同じ軟骨魚類ですが、淡水環境で暮らしていたと考えられています。
ネズミザメ類の一種。分類学的には、ホオジロザメやアオザメと同じグループです。
サカタザメ類の絶滅種。厳密には、サメではなくエイの仲間の軟骨魚類です。

軟骨魚とくれば、お次は硬骨魚です。中生代において爆発的に進化した硬骨魚類は、現代に通じる先進的タイプの魚たちを数多く生み出しました。
本館の化石標本の中では硬骨魚類の展示が最も多く、サイズも種類もバラエティに富んでいます。かっこいい魚も可愛い魚も目白押しで、観覧を通して化石魚類への関心が一気に高まると思います。太古の水族館の神秘的な出会い、ぜひ楽しんでください。

展示ケースに並ぶ多数の硬骨魚類。まさに太古の水族館ですね!
白亜紀ブラジル産のケイロソリックスの化石。サケの仲間の硬骨魚です。
リンコデルケティス。ダツのように長い吻部が特徴的です。
超美麗にクリーニングされたソルビニクティス。なお、博物館によってはクリーニング技師として勤務されているプロの職人さんがいらっしゃいます。
とっても大きなヴィンクティフアー。大型硬骨魚の化石も多数展示されており、圧倒的な見ごたえがあります。

本館には大型脊椎動物の化石も展示されています。魚が豊富に生息する環境には、彼らを食べる大型捕食動物が数多く集まってきます。ワニやカメはもちろん、天空から獲物を狙う翼竜までもやって来ます。
水棲爬虫類や翼竜の勇ましい骨格は、何度見ても惚れ惚れします。大河の岸辺でワニやカメたちがのんびりと日光浴し、その頭上を翼竜たちが飛び交う大スケールの光景ーーその未知なる世界のパノラマを想像してみると、観覧がさらに楽しくなってきますね。

白亜紀のワニであるイタスクス。対比として、現生種のワニの頭骨が展示ケースの上に添えられています。
アラリペミスの甲羅。白亜紀の淡水性カメであり、学名は発見地のブラジル・アラリペ盆地にちなんでいます。
翼竜アンハングエラの頭骨。翼開長5 mに達する中型翼竜であり、主に魚を食べていたと考えられています。

あまりの展示クオリティの高さに、筆者は終始脱帽しておりました。マニアにとって美しい化石標本は最上の目の保養となり、よく深く太古の世界へと精神を没頭できます。未知なるロマンとの遭遇が満載の化石ギャラリーにて、この感動をたくさんの方々に体感していただきたいと思います。

城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリー 総合レビュー

所在地:東京都千代田区平河町2-3-20 城西大学東京紀尾井町キャンパス3号棟地下1階

強み:徹底的なクリーニングが施された美麗かつ貴重な化石標本、キャプションや大型の図表を駆使して地球生命の歴史を伝える解説展示の工夫、国内外の学術権威のバックアップによって獲得された古生物学研究の膨大な知見

アクセス面:最寄り駅は東京メトロの永田町駅。路線は南北線・半蔵門線・有楽町線となっており、都心の様々な方角からアクセスできます。そこからはナビアプリなどを参考に徒歩移動すれば、5分程度で到着すると思います。ただし、国会議事堂や最高裁判所に近い日本の中枢エリアなので、平日の朝夕は電車がものすごく混みます。経験者の方はおわかりだと思いますが、大都市・東京の通勤ラッシュは超苛烈です! ですので、電車移動の時間はラッシュアワーを回避して設定してください。

まさに「ギャラリー」と呼ぶのにふさわしい化石の美術館。古生物の姿形がくっきりと見て取れる素晴らしい標本のラッシュに、マニアは大興奮必至です! 加えて、ホールのティラノサウルス類も大きな
美しさのみならず大学博物館ならではの学術性の高さも大きな魅力であり、各展示ケースの標本解説を読みながら観覧することで、着実に古生物学への理解が深まります。壁面をいっぱいに使った地球史・生命史の年表も見ごたえ抜群であり、謎に満ちた太古の世界へ来館者をぐいぐい引き込んでいきます。
大都市・東京にこれほど素敵な化石ギャラリーがあるという事実を、たくさんの人々に知っていただきたいと筆者は強く思っております。本館では古生物学のイベントやワークショップが定期的に開催されていますので、ぜひとも積極的に参加してプロの研究者の方々から太古の神秘を学んでください。

入口カウンターでは、本館の展示と関わりの深い内容の書籍が販売されています。生命の神秘を太古のロマンが感じられる素敵な本なので、この機会にぜひともゲットしましょう。

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