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全国自然博物館の旅⑰豊橋市自然史博物館

世の中には不条理と不平等というものがあります。化石標本とて例外ではないと筆者は考えています。たとえ学術的に貴重な新種の無脊椎動物の化石を100種類取り揃えても、集客力においては、たった1体のティラノサウルスに負けてしまいます。
やはり、人間にとって恐竜は永遠の憧れでありロマンなのです。本物のドラゴンのような動物が太古の地球を闊歩していたという事実に人々は惹かれ、心を踊らせます。
今回は、最高にかっこいい恐竜たちと出会える愛知県の博物館を訪ねました。


豊橋市にジュラシック・パーク出現!

多くの人は、愛知県の旅を始めるなら名古屋駅スタートだと思います。豊橋市は名古屋市から少し離れているので、レンタカーで向かうのも大いにありだと思います。しかし、博物館の最寄り駅にも古代の生き物たちがいるので、愛知県のジュラシック・パークを味わうためにも筆者は電車で行ってみることにしました。

名古屋駅からJR東海道線に揺られて、二川駅に到着。駅を出ると、すぐに恐竜や多くの動物たちが出迎えてくれました。

JR二川駅を出て遭遇するのは、ティラノサウルスのオブジェ。いざ、ジュラシック・パークへ!
時計台の上にプテラノドン。楽しい駅前広場です。
博物館へ向かう橋には、恐竜や動物の石像が配置されています。ちょっとずんぐりしたステゴサウルス可愛い。

恐竜や動物たちの造形物を楽しみながら歩き、豊橋総合動植物公園のんほいパークへ向かいます。豊橋市自然史博物館は園内に位置しており、入園すれば博物館と他の施設をセットで楽しめます。

のんほいパークに到着。入園料を払えば、博物館・動物園・植物園などを合わせて楽しめます。

博物館の方面へ歩いていくと、まさかのジュラシック・パークが出現!
現れし恐竜たちはほぼ旧復元ですが、迫力のある大型模型です。フォトスポットとして最適ですので、ぜひ記念に恐竜たちと写真撮影しましょう。

のんほいパーク内には恐竜模型ゾーンがあります。博物館へ入る前に、ジュラシック・パークの世界(?)を味わいましょう。
造られた時期が古いので、恐竜の姿勢は旧復元のままです。最近の若い人は、こういうゴジラ型の復元に慣れていないのでは?
巨大なブラキオサウルスの模型。当然ですが、危険なので登ったりしてはいけません!

存分に恐竜たちと触れ合ったら、いよいよお目当ての豊橋市自然史博物館へ突撃しましょう。恐竜の骨格をはじめとする素晴らしい標本が目白押しです。

豊橋市自然史博物館。かっこいい恐竜たちが待っています!

現代に甦る恐竜たちとの出会い

膨大な展示で学ぶ地球と生命の創世記

いざ入館。エントランスホールの奥へ進むと、さっそく大スターが登場します。
迫力満点のティラノサウルスとトリケラトプス! 大人も子供も、男の子も女の子も、視線は釘付けです。太古の地球の支配者にふさわしい強さを感じますね。

かっこよさ満点のティラノサウルス。最強の肉食恐竜と謳われる風格はすさまじいです。
パワフルで力強いトリケラトプス。強大な恐竜の王・ティラノサウルスに立ち向かう勇敢な姿にシビれます!
睨み合う両雄。永遠のライバルといった感じですね。

ティラノとトリケラに感動をもらったら、観覧順路を進みましょう。これより、地球の歴史を黎明期から辿っていくことになります。
46億年にも及ぶ地球の創世記の始まりです。初期の生命はいかにして生まれ、いかにして私たちの住める地球環境を作ってくれたのでしょうか。

地球の形成、生命の誕生と進化ーーその過程を展示で追体験していきます。たくさんの学びがあるのでワクワクしますね。
約40億年前に起こった生命誕生について、4コマ漫画風のイラストで解説。大人も子供もすぐに内容を理解できるので、誠に素晴らしい工夫だと思います。
地球初の光合成微生物シアノバクテリアによって形成された岩石・ストロマトライト。彼らシアノバクテリアのおかげで、地球に酸素が満ちあふれたのです。

やがて生命は単細胞生物から多細胞生物へと進化。留まることなく地球に拡散し、種類を広げていきます。生き物たちが多様化し、様々な形態へ発展していく過程を学べます。

約6億年前に始まった「エディアカラ動物群」の時代のジオラマ。レバーを回して引っくり返すと……。
カンブリア紀のバージェス動物群のジオラマが出現。エディアカラ動物群と比較して、複雑な形をしているのがわかります。
バージェス動物群のカナダスピス。化石標本と模型を同時に展示することで、来館者に実像を詳しく伝えています。

本館の素晴らしい工夫は、イラストストーリー仕立てのわかりやすい解説パネルです。大半の展示区画に設置されており、読むだけで来館者は相当な量の知識を得ることができます。
カンブリア紀からオルドビス紀へ。時代が進むにつれて複雑化する生命。その進化の道程も、本館の明瞭な展示によって容易に理解できるのです。

軟体動物の展示への導入解説。こういったパネルが全ての動物群に配されています。
先ほどと同様のイラストストーリー仕立ての解説が、各時代の各動物群に用意されています。軟体動物が殻を獲得した過程の解説も丁寧で明瞭ですね。
古生代の軟体動物の殻。その形態には様々なバリエーションがあるとわかります。

デボン紀、シルル紀、石炭紀と続いて生命は地球全土へと広がっていきます。海洋生態系においては、三葉虫やアンモナイトのような有名古生物はもちろん、クラゲのような現代に通じる生き物も大いに繁栄しました。
本館には、刺胞動物も三葉虫も豊富に標本が展示されています。ここまで幅広く古生物をフォローしている学術施設は超すごいと思います。

デボン紀の三葉虫たち。大きさも形態も様々で、とても興味深いです。
石炭紀に生きていたクラゲの仲間。刺胞動物そのものは、カンブリア紀から生存していたと考えられています。

脊椎動物の進化についても、本館の展示で詳細に学べます。古代の魚類・両生類はどれもユニークでかっこいいです。化石標本のみならず、復元図やリアルな模型によって、我々の遠い祖先の姿を目に焼きつけられます。

リアルな模型と復元図が各展示区画に配されています。彼ら魚類はカンブリア紀に生まれ、古生代の流れと共に爆発的に進化しました。
魚類から両生類が進化し、脊椎動物は陸へと進出します。古代の両生類たちも模型で見ると可愛いですね!

陸上へ進んだ脊椎動物は、さらに新環境に適応していきます。
本館では単弓類の展示が多いので、個人的にはとても嬉しかったです。我々の祖先に近い動物たちの真実を学びましょう。

哺乳類への道。ディメトロドンは我々哺乳類と縁の深い単弓類の一種です。
爬虫類への道。胴の丸いスクトサウルス可愛い。

ここまで、ようやく中生代前期までの旅が終わりました。ですが、ここからが本番です。三畳紀の後半から、地球最強と呼ばれる恐竜たちの王国が築かれていきます。

各時代ごとに地球儀が用意されています。大陸の形を理解できるだけでなく、中を除くと当時の生き物たちの生活が見られます。

大迫力の恐竜たちが来館者に襲いかかる!

いよいよ時代は中生代へ。地球最強を誇った恐竜たちの世界が始まります。展示ホールにひしめき合う巨大な骨格を目の当たりにすると、彼らの底知れぬ強さに見惚れてしまいます。

大恐竜時代の到来。無限なる竜たちの伝説が幕を開けます。
ジュラ紀の名ハンター、肉食恐竜アロサウルス。戦闘力の高さを伺える骨格が人気の秘密。
アロサウルスと同時期に生きてい植物食恐竜たステゴサウルス。尾の先端の突起を振って、肉食恐竜と戦いました。

強烈な存在感を放つのは、展示ホールの中央に座すユアンモウサウルス! おそらく国内で全身骨格が見られるのは本館だけですので、ぜひその巨体を拝みにきてください。
なお、ユアンモウサウルスは全長17 mありますが、これでも竜脚類としては中型サイズです。彼らよりずっと大きさな種類が山ほどいたとは、本当に恐竜は最強すぎますね。

ユアンモウサウルスの全身骨格。ワンショットでは収まりきらない巨体です。繰り返しますが、この大きさでも、まだ中型です
階段下の通路では、ユアンモウサウルスの胴体を下から覗けます。頑強な胴体と四肢に圧倒されます。

この展示ホールのすごいギミックは、定期的に恐竜たちが「復活」することです。ホール内の照明が落ちたとき、壁面を見上げてみましょう。そこには、きっとジュラシック・パークが広がっているはずです。

ホールの照明が落ちると、壁面のスクリーンが起動。恐竜たちが次々に甦ります。ティラノかっこいい!
ユアンモウサウルス、復活。化石とCG映像を同時に見られるとは、本当に素晴らしい仕掛けです。
恐竜だけではなく、海棲爬虫類のモササウルスも登場。中生代の生命の躍動を堪能しましょう。

鳥へと進化した恐竜たち。その過程で、多様な羽毛をまとう恐竜が生まれました。数々の羽毛恐竜に加え、鳥に近縁な恐竜たちの骨格標本も、この展示ホールで見ることができます。生前の姿をイメージしながら、羽毛の痕跡に目を凝らしてください。

小型の羽毛恐竜ミクロラプトル。よく見ると、四肢や尻尾に羽毛の痕跡が確認できます。
始祖鳥アルカエオプテリクスの骨格・模型展示。後ろのスクリーンでは飛行シーンが描かれています。
羽毛が生えていたと思われる小型恐竜オヴィラプトル。鳥のように前足の羽毛を使って、卵を抱いて暖めていました。

展示ホールの天井から吊り下げられているのは、恐竜と同じ時代を生きた翼竜や海洋爬虫類。彼らの姿も優雅で美しく、目を奪われてしまいます。展示ホールの下からも上からも、余すことなく見て、中生代のスケールを体感しましょう。

翼竜プテラノドンの骨格。翼を広げたときの幅は7 m以上にもなりました。
首長竜やモササウルス類などの海棲爬虫類の骨格。どの子もかっこいい。
上から見た展示ホール。中生代の生物たちの超スケールがわかります。

次なる展示ホールでは、全長7 m近いエドモントサウルスが佇んでいます。この骨格は、はるかなアメリカからやってきたものです。
豊橋市自然史博物館は、アメリカのデンバー自然史博物館と友好関係を結んでいます。今や、恐竜研究の発展のためには世界各国の協力が必要不可欠です。これからも古生物学のネットワークはさらに広がり、恐竜の実像がどんどん明らかになっていくことでしょう。

植物食恐竜エドモントサウルスの全身骨格。デンバー自然史博物館より、友好の証として譲渡された実物化石です。
エドモントサウルスのミイラ化石のレプリカ。皮膚の状態なども研究できるので、極めて貴重な発見であると言えます。
白亜紀後期の北アメリカの環境復元図。これを描いた画家さんの技術はすごいですね。

哺乳類の時代、新生代から現代へ

最強の恐竜たちは、中生代の終焉と共に王座から退きました。代わって大繁栄したのが哺乳類です。ここからは、新生代の動物王国の展示が始まります。

哺乳類の時代が開幕。新生代のホールの中央には、ゾウの仲間がメインに展示されています。
骨格に加え、リアルな模型展示も魅力です。こちらのナウマンゾウは皮膚の質感にもこだわりが見られます。

展示対象の哺乳類の種類は幅広く、あらゆる動物たちの進化について解説されています。太古のゾウやウマがどのような姿であったのか、骨格や模型、キャプションを通して体系的に学べます。

初期のゾウの仲間、モエリテリウムの頭骨。見ての通り、今のゾウのような長い鼻を備えていません。
寒冷地に適応した古代のサイ、コエロドンタ。サイの角は皮膚の角質なので化石に残りにくいですが、本種の場合は永久凍土の中で保存されていることがあります。
迫力がすごいホラアナグマ。現生のヒグマよりも大型です。人間に狩猟されて絶滅したと考えられています。

新生代で栄えた哺乳類は多くの環境激変を乗り越え、完新世(現代)へと命脈をつなぎます。そして今、愛知県にはたくさんの動植物が生きているのです。

愛知の海は三河湾・伊勢湾・外海の遠州灘で構成されており、多様な海洋環境を擁していると言えます。ときにやってくるウミガメが示唆するように、当該海域はとても生命豊かなエリアなのです。

魚の剥製や甲殻類の標本。3つの海に面する愛知県には、とてもたくさんの生命が息づいています。
アオウミガメの骨格。渥美半島から御前崎にかけては広い砂浜があり、ウミガメたちが産卵にやってきます。
干潟に生きるカニたちの展示。砂中の巣の構造をジオラマで再現し、カニたちの生活を来館者にイメージさせてくれます。

海だけでなく、淡水域の生き物も魅力的です。特に豊川は、全長77 kmに達する東三河最大の河川です。この大河には上流から下流までの幅広い環境があり、とても多くの生命で満ちあふれています。

豊川に生きる魚たちの剥製標本。淡水魚にも地域性があるので、当地の魚の生息状況を知るのもマニアの楽しみ方です。
豊川には多くの水生昆虫が生息しています。筆者のお気に入りは、サナエトンボ類のヤゴ。

次に陸域環境に目を向けてみましょう。
愛知県にはカタツムリ類などの陸棲貝類、そして昆虫類の多様性が花開いています。地域性を見るのが楽しい生物群ですので、種類や個体群の広がりを学ぶのなら当地の博物館は最適の場所です。本館が蓄積していたデータをもとに、地域に生きる無脊椎動物たちの固有性を頭の中にインプットできるのです。

カタツムリの8倍拡大模型。内臓の位置や構造を見せて解説してくれています。愛知県は陸棲貝類の多産地域であり、約150種類の陸貝が生息しています。
昆虫標本とキャプションを合わせて展示。交尾器をもとにオサムシの種類を同定し、各種の分布を調査しています。
愛知県・長野県・兵庫県のチョウ類ヒメヒカゲの比較。地域によって翅の模様が異なっています。

脊椎動物についても、独自の固有性が認められます。愛知県はちょうど東日本と西日本の中央付近に位置しているので、生物の地理的な変異に中庸的な特徴が見られるケースもあります。博物館で標本を見る際には、爬虫類や哺乳類の地域性にも注目しましょう。

普通種のヘビ、ヤマカガシの地理的変異についての解説展示。愛知県に棲むヤマカガシは、西日本産個体と東日本産個体の両方の特徴を備えています。
愛知県に生息する哺乳類の剥製・骨格標本。こちらは日本の代表的な植物食動物たちですね。
コウモリ類の剥製。指の骨を長く伸ばして、そこに膜を張って翼としています。

筆者の来館時、豊橋市内の小中学生の自由研究資料が特別展示されていました。博物館の学芸員さんが太鼓判を押す素晴らしいものであり、拝読してみると、「そのへんの大学生の卒業研究よりおもしろいんじゃね?」と思うほどハイクオリティな研究もありました。
豊橋市に優秀な科学少年・科学少女が生まれたのは、博物館の長期的な教育の賜物だと思います。恐竜をはじめとする自然科学の拠点として、本館は極めて重要な役割を果たしているのです。

豊橋市の小中学生の研究報告書を特別展示。アイディアや実験方法が素晴らしく、とても勉強になります。感服いたしました!
こちらは中学生の方のオカヤドカリ研究。ハイレベルな内容であり、大学生の卒業研究にも負けないほど完成度が高いです。大人になったら、すごい研究者になっていそうですね!

豊橋市自然史博物館 総合レビュー

所在地:愛知県豊橋市大岩町字大穴1-238

強み:恐竜の迫力と学術的魅力を全面に押し出した展示の工夫、地球史の各時代の各生物について深く掘り下げた網羅的な展示、イラストストーリーや造形物を多用した理解しやすい各種解説展示

アクセス面:駅前から恐竜たちのオブジェを楽しんでいただきたいので、電車での来館をオススメします。JR名古屋駅から東海道線の快速に乗って豊橋駅へ→各停に乗り換えて二川駅へ、というルートになります。駅から恐竜や動物たちの造形物に沿って歩いていけば、のんほいパークの方角まで導いてくれます。園内の移動を含めて徒歩20分以上かかりますが、恐竜たちとの出会いを楽しみながら向かえるので、まったく苦になりませんでした。

恐竜かっこいい、恐竜最高!
子供から大人まで誰もが大満足できる、万人向けの博物館です。様々な展示方法によって、恐竜の迫力と学術的な魅力が遺憾なく引き出されています。子供の頃、巨大な恐竜の化石を見てワクワクした至上の体験ーーあの感動を思い出させてくれる素晴らしい学術施設だと思います。
地球の各時代における動植物について幅広く学べるので、本館の展示を通して、来館者の古生物学の知識は大幅に増強されます。エディアカラ動物群やコケムシ類といったマイナーな生き物たちにも個々にわかりやすい展示解説区画が用意されており、今まで気づかなかった生命の魅力を感じることができます。
個人的に嬉しかったのが、特別展示されていた小中学生の方々の研究資料。こちらが吸収させていただける知識も多く、とても勉強になりました。豊橋市自然史博物館の教育を受けた子の中から、いずれ優秀な恐竜学者・自然科学者が出てくることでしょう。

エントランスホールにあるプシッタコサウルスの復元模型。ある時刻になると、卵に変化があります。ぜひ現地でご覧ください。

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