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全国水族館の旅【31】タツノオトシゴハウス

今年は辰年。我々に最も「辰」をイメージさせてくれる現生動物と言えば、海に棲むタツノオトシゴです。
普通の魚とは形も繁殖生態も大きく異なる彼らは、とても不思議な魅力をまとっています。この度は、辰年にふさわしい「タツノオトシゴ専門の水族展示施設」を訪ねました。


薩摩の南端部に立つタツノオトシゴの家

魅惑のタツノオトシゴハウスが位置するのは、南九州市の薩南海岸県立自然公園の海沿い。旅人の筆者は必然的に鹿児島市内からのスタートになり、鹿児島中央駅前でレンタカーを借りました。
運転すること約2時間。自然公園に到着すると、果てしなく広がる南海が見えてきました。火山活動によって形成された海岸線の向こうには、たくさんの海洋生物が息づいています。波は穏やかだったので、筆者は海際ぎりぎりまで近づいて地球を感じることにしました。

薩南海岸県立自然公園の海。浅くて透明度の高い水域が続いています。
遠くに見える山は開聞岳。ここ一帯の海岸線の景観は、火山活動によって形成されたものです。
公園から海へと続く道。ここから先は公園ではなく海域と見なされるので、事故が起こったら自己責任となります。少しでも海が荒れていたら、先へ進んではいけません。

たっぷりとオーシャンビューを味わったら、いよいよタツノオトシゴハウスへと向かいます。自然公園の植生を観察しながら歩くのも、生き物好きにとっての大きな楽しみです。たくさんの緑と壮大な海に心が洗われますね。

タツノオトシゴハウスの近辺は歩道が整備されており、とても歩きやすいです。緑を感じながら散歩してみるのもいいですね。
木々のトンネル。西洋の童話の中に入ったような気分です。

木立のトンネルを過ぎれば、海沿いの不思議な「家」が眼前に現れます。この建屋こそタツノオトシゴハウス! 日本で唯一のタツノオトシゴ観光養殖施設なのです。
シードラゴンの子供のような姿をしたタツノオトシゴたちの家。いったいどのような展示が待っているのでしょうか。

タツノオトシゴハウスに到着。入口は2階ですので、手前の階段を上がっていきます。
入口の前には、可愛いイラストボードが設置してあります。タツノオトシゴへの深い愛情を感じますね。

タツノオトシゴへの愛と好奇心が芽生える素晴らしき体験 

展示空間にあふれる無数のタツノオトシゴ!

たまに勘違いされている方がいらっしゃるのですが、タツノオトシゴは魚です。典型的な魚類とは形態がかなり異なっているので、他の生き物の仲間だと思われることが少なくありません。この特異な姿こそ、タツノオトシゴの大きなアイデンティティと言えます。
入館すると、内装の至るところでタツノオトシゴを目にすることでしょう。壁面のイラスト、窓辺の飾り、インテリアなど数えきれないほどのタツノオトシゴが館内にいっぱいいますので、観覧しながら探してみると楽しさが増します。

壁面にタツノオトシゴのアートが描かれています。施設全体にタツノオトシゴへの愛情が満ちあふれています。
窓にはタツノオトシゴのガラス細工が吊るされています。館内のタツノオトシゴ探しをしてみるのも楽しそうです。
展示エリアにて、巨大で可愛いタツノオトシゴを発見! 大小様々な模型やインテリアをくまなく見ておきましょう。

展示エリアには休憩用の椅子やソファが設置されていて、来館者はリラックスしながらタツノオトシゴたちの舞を観察することができます。スタッフさんの窓口も近いので、タツノオトシゴにまつわる興味深いお話を聞いてみるのもすごくいいと思います。

本館は今年でオープン14周年。総個体数800匹以上のタツノオトシゴたちが迎えてくれます。
館内では、ショップ・展示水槽・休憩スペースが同エリアにあります。リラックスしながらタツノオトシゴを観察し、スタッフさんとお話しもできるという、とっても素晴らしい施設です。
展示水槽にも様々なタイプがあり、来館者を楽しませてくれます。魅力的なタツノオトシゴと共に、館内で素敵な時間を過ごせます。
たくさんのタツノオトシゴを展示する大型水槽。生き物の健康を守るためにフラッシュ撮影は禁止されています

本館のタツノオトシゴの飼育個体数はかなり多く、これほどの数を一度に展示している施設は他にそうそうないと思われます。本館の飼育技術の高さとタツノオトシゴの生態に関する知識には、心から敬服いたします。大切に育てられたタツノオトシゴたち、様々な角度から観察させていただきました。

ゼブラスノウトシーホース。東南アジアに棲むタツノオトシゴの仲間で、トゲトゲの体がかっこいいです。
クロウミウマ。暖かい海を好むタツノオトシゴであり、もちろん鹿児島にも棲んでいます。
多数飼育されているポットベリーシーホース。大型のタツノオトシゴであり、全長40 cmに達することもあります。
上部がフルオープンの大型飼育容器。至近距離でゼブラスノウトシーホースの体がきれいに見えます。

独特なフォルムをしているタツノオトシゴは、実にユニークで可愛いです。不思議な姿の彼らがどのように暮らしているのか、詳しく知りたくなりますね。
本館では、専門施設ならではのタツノオトシゴの分類・生態についての明瞭な解説を見ることができます。解説パネルには写真や図が多用されているうえに、口語的な説明もわかりやすくて、知識がスムーズに頭に入ってきます。
タツノオトシゴを詳しく知って、もっと彼らを好きになりましょう。筆者が皆様に何よりも知っていただきたいのは、「タツノオトシゴはオスが出産する」ということです。

可愛いキャラクターと鮮やかな写真を多用した、とてもわかりやすい解説。餌の食べ方から繁殖まで、タツノオトシゴの生態が総括的に学べます。
タツノオトシゴはオスが子供を産みます。メスから託された卵をお腹の袋の中で育て、遊泳可能な稚魚を「出産」するのです。
「タツノオトシゴが何の仲間なのか?」を100人に質問したアンケートの結果。一般の方々の大半が、間違った認識を持っているようです。改めて申しますが、タツノオトシゴは魚です

ちなみに、水族館でマニアから大人気のリーフィーシードラゴンやウィーディーシードラゴンは(近い種類ではありますが)タツノオトシゴではありません。タツノオトシゴに近縁な魚たちは「ヨウジウオ科」というグループに属しており、種類によって体型も生態もかなり異なっています。
館内のイラスト展示や剥製展示を参考に、タツノオトシゴの仲間にはどのような魚たちがいるのかを学びましょう。

タツノオトシゴと近縁種の仲間たちをイラストで紹介。みんなヨウジウオ科に属しています。
タツノオトシゴと同じヨウジウオ科のリーフィーシードラゴンのイラスト。海藻に擬態するために独特な形態をしており、まさしく小さなシードラゴンといった感じの外見です。
隣の壁面には、タツノオトシゴの剥製が展示されています。種類ごとの細かな形態や大きさの違いを見比べて見ましょう。
クロウミウマの剥製。種類によっては、オスとメスの両方が展示されています。

知れば知るほど、タツノオトシゴの魅力に引き込まれていきます。硬骨魚類の一種でありながら、他の魚たちとは大きく異なる姿や産卵様式を獲得した摩訶不思議な海洋生物。彼らの謎を探究していくと、無限なる生命の神秘に出会えます。

タツノオトシゴの魚体に触れる体験展示。実際に触ってみたらわかりますが、彼らの体は骨板で構成されているのでとっても硬いです

海洋生物への関心が高まる生体・標本展示

タツノオトシゴの可愛さに萌えるのは、まだまだこれからです。本館には、最高にキュートな幼魚たちが飼育展示されています。
みんな、パパのお腹で孵って産まれてきた子たち。これからすくすくと育って、タツノオトシゴハウスをどんどん盛り上げてほしいと思います。

ポットベリーシーホースの幼魚。成魚も魅力的ですが、子供たちはちっちゃくて細くて可愛いです。
ゼブラスノウトシーホースの赤ちゃん。周囲に漂っているのは、餌のプランクトンです。細長い口で、上手に吸い込んで食べていました。

水族展示には、タツノオトシゴ以外のメンバーもいます。カクレクマノミやハリセンボンといった愛嬌満点の面々が、本館をさらに賑やかに盛り上げています。彼らを観察していると、暖かく豊かな九州の海への関心が高まってきますね。

カクレクマノミ。今や水族展示のアイドル的存在ですね。
人懐っこいハリセンボン。飼育容器は上部オープンとなっていますが、危険ですので絶対にハリセンボンに手を近づけてはいけません

生体展示に続いて、生き物好きとして強く関心を持ったのは種々の生物標本展示です。タツノオトシゴをはじめとする多くの海洋生物たちが、骨格標本・透明骨格標本・液浸標本として保存されています。
個人的な推しはリュウグウノツカイの幼魚。巨大な成魚はどこか妖しく怖さすら感じますが、子供の個体はとても可愛く見えます。これほど愛らしい子が全長10 mクラスにまで成長することを想像すると、深海魚の神秘性に驚きを禁じえません。

標本展示室。博物館好きなので、立ち並ぶ標本瓶を見るとワクワクします(笑)。
タツノオトシゴをはじめとする魚たちの透明骨格標本や液浸標本。透明骨格標本は筋肉を透明化し、骨を染色して作るので、生き物の骨格を観察するのに最適な方式です。
ハリセンボンの骨格標本。頑丈な頭骨を見ればわかるように、物を噛む力はかなり強いです。
シビレエイの幼魚の液浸標本。彼らはサメと同じ軟骨魚類です。
深海魚リュウグウノツカイの幼魚! 鹿児島県の笠沙沖にて捕獲された個体です。

一連の展示を学び終えたら、海を眺めてリラックスしましょう。ここでも癒しをくれるのはタツノオトシゴです。愛くるしいタツノオトシゴグッズに囲まれながら、海岸の景観を味わえる幸せは本館だけの特別な贅沢です。

ソファにて休憩しつつ、南方の海の景色を満喫。ショップではコーヒーなどのドリンクが販売されていますので、ぜひホッと一息入れましょう。
タツノオトシゴのクッション、タツノオトシゴのぬいぐるみ。最高すぎます!

タツノオトシゴの魅力を伝える本館は、生き物好きには本当にたまらない施設です。改めて、水族館とは生き物との出会いと学びを楽しむ場所なのだと再認識いたしました。
そして、壮麗な鹿児島の大海原には、タツノオトシゴをはじめたくさんの生命が暮らしています。タツノオトシゴハウスで高まった海洋生物への好奇心を原動力にして、ぜひ自然界へ生物探索に繰り出してみてください。

タツノオトシゴハウス 総合レビュー

所在地:鹿児島県南九州市頴娃町別府5202-2

強み:タツノオトシゴへの強く関心をそそる生体展示と解説資料、ゆったりと生体観察しながらオーシャンビューを味える癒しの展示空間、タツノオトシゴ系のインテリアやハンドメイド装飾で彩られた楽しさあふれる館内の雰囲気

アクセス面:薩摩半島の南端地域ですので、レンタカーか自家用車で行くのが最適です。鹿児島市内からスタートすると2時間以内に辿り着けると思いますので、途中で休憩を挟みつつゆったりドライブしましょう。事情があって車を運転できない方は、観光タクシーを貸し切るなどの対策が必要です。

日本唯一のタツノオトシゴ観光養殖施設! タツノオトシゴへの愛情に満ちた専門展示なら、本館の右に出る者はいないと思われます。水族館ファンや魚マニアだけでなく、全ての生き物好きにオススメしたい飼育展示施設です。観覧しているうちに、来館者もいつの間にかタツノオトシゴに大きな関心を抱くことになるでしょう。
水族展示の海洋生物はどれも可愛く魅力的であり、特にポットベリーシーホースは成魚・幼魚を合わせて超多数が展示されていますので、本館だけのタツノオトシゴの大乱舞に心が踊ります。解説資料は万人向けでとってもわかりやすく、タツノオトシゴたちの不思議な生態をドラマティックに伝えてくれています。さらに、幅広い魚種の様々なタイプの生物標本が見られるのも、生物マニアには嬉しいところです。
生き物への深い愛情が感じられるタツノオトシゴハウス。辰年の今だからこそ、ぜひ訪れておきたい鹿児島県の特別スポットです。

焼酎の瓶で作られたタツノオトシゴのアート。タツノオトシゴハウスは、たくさんの方々の愛が詰まった施設なのです。

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