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全国自然博物館の旅【42】京都大学総合博物館

京都大学。東大と並び、日本が世界に誇るべき国内最高学府です。古くから自然科学の発展を支えてきた名誉ある大学であり、生物学の研究者を目指す学生にはすさまじい人気があります。
国内屈指の難関大学ではありますが、そのぶん夢と可能性が広がる希望のフィールドでもある京都大学。自然科学の道を志す学生の方々は、ぜひとも大学の博物館を訪れていただきたいと思います。


京大のアカデミズムを肌で体感しよう!

私は京都大学の出身ではありませんが、学部生時代の知人が数多く京大の大学院に進学しています。日本最高クラスの研究環境が整った学舎はやはり大人気であり、京大の大学院は他大学出身の学生さんがとても多いのです。筆者の知人は京大の大学院進学で大きく成長し、今では自然科学系のプロとして働いています。
ですので、研究者志望の方は、大学受験に失敗しても決して夢を諦めないでください。大学院の受験は対策さえしっかりとしていれば、十分にトップクラスの研究室を狙えます

冒頭で熱く京大への敬意を表させていただきましたが、ここからは大学博物館のレポートをしていきたいと思います。
京大の最寄り駅は京阪電車の出町柳駅です。駅を出てから大学まで徒歩移動するわけですが、京大生と思しき青年たちがたくさん歩いているので、彼らの背中を追っていけば、スムーズに京大へとたどり着けるでしょう。

京阪電車は大阪からも通じています。京大に行くのが目的ならば、大阪市内の駅から乗ってくるのも大いにありです
京大の最寄り駅・出町柳駅。本駅からはリュックを背負った京大生の青年たちが歩いているので、彼らの後ろについていけば京大へたどり着けるでしょう。

徒歩10分足らずで京大に到着ーーですが、一般人が観覧できるのは博物館のみです。学祭やオープンキャンパスなどのイベントを除き、講義棟や学部棟には学外の人物は無許可で入れません。ですので、一般公開エリア以外の大学構内には入らないように気をつけましょう。

京都大学は一般公開エリア以外は無許可で入れません。学祭やオープンキャンパスを利用して、学内の雰囲気を味わいましょう。

百万遍交差点を渡り、東大路通を南へ歩いていくと、京都大学総合博物館はすぐそこです。
自然科学において世界的な業績を成し遂げ、今も研究の最前線に立ち続ける京大。日本屈指の大学の博物館では、どのような学びが待っているのでしょうか。

東大路通に面した大学博物館。誰もが憧れる京大の研究成果を学べるとは、本当にワクワクします。

自然科学のフロンティアを体感できる刺激的な大学博物館

発展し続ける京大の古生物学

「古生物学を極めたい」とお考えの学生さんには、京大が有力な進路の1つになると思います。本学は並々ならぬ知見を有しているだけでなく、現場での学術教育を重視しておられます。古生物学は特にフィールドワークの比重が大きな学問であり、化石の産状などの証拠から太古の世界に迫る能力が必要なのです。

エントランスホールには本物の化石に触れる体験展示があります。左側の大きな子は、メソプゾシアという白亜紀の大型アンモナイトです。
フィールドワークを重視する京大の教育・研究理念。生態学においても古生物学においても、本学は現場調査に重きを置いているのです。
古生物学展示の観覧スタート。京大のフィールドワークによって紐解かれた、太古の世界の研究成果を見に行きましょう。

多くの生物の進化には、いまだに多くの謎が残されています。それは決して秘境の珍しい生き物だけでなく、我々にとって身近な生き物も同じです。
代表的な事例がカキ類です。カキ類の適応戦略はとても多様であり、砂に深く潜る種類、岩に固着している種類などバラエティに富んでいます。京大のフィールド調査によって得られた多くの化石標本を観覧しつつ、カキ類の進化と多様性の秘密に迫ってみましょう。

長大な殻を備えるコンボウガキの化石。一口にカキ類と言っても、その形態や生存戦略は多様なのです。
グラビテスタガキの化石。とても分厚そうに見えますが、殻はチョーク層でできていてとても軽く、この軽さを利用して泥の上に浮いていたと考えられます。
白亜紀のマガキ類の化石。グラビテスタガキと同様の生存戦略を取っていたと考えられています。
カキの進化を図表と化石標本で解説。最古のカキの誕生は、なんと古生代のペルム紀まで遡るのです。

京大は哺乳類の進化研究においても、膨大な功績を積み上げています。本区画ではゾウ類をはじめとした哺乳類の化石標本や模型が展示されており、マニアも家族連れも大興奮できると思います。これらの展示で知的好奇心を刺激された子供たちはきっと大勢いらっしゃると思われ、いつか彼らが学徒として京大の門をくぐるかもしれません。

ゾウ類の進化に関する展示。キャプションも標本も、とても充実しています。
ナウマンゾウと現生アジアゾウの頭骨の比較。両者は系統的に近い種類同士だと考えられています。
ナウマンゾウの牙(切歯)の化石。島根県浜田市の沖合の底から引き上げられた標本です。
マンモスの体毛。シベリアの永久凍土の中からは、良好な保存状態の古生物の肉体が発見されることもあります。
彫物や模型などの立体物も多数展示。このナウマンゾウのアートからは、製作者の情熱が伝わってきます。

化石マニアの方は「京大に来たからにはコアな古生物の標本を見たい!」と思うかもしれません。大丈夫、本館には日本産の単弓類(哺乳類の祖先を含む動物群)の展示コーナーがあり、目利きの玄人たちのハートをしっかりと射止めてくれるでしょう。
単弓類の中でも、哺乳類に極めて近い特徴を有するトリティロドン類。マニア心をくすぐる古生物の標本展示に、筆者もとてもテンションが上がりました。珍しい生き物たちの化石を眺めていると、京大の研究室でどのような分析が行われているのか知りたくなりますね。

トリティロドン類の化石コーナー。対比として、哺乳類の歯や恐竜の歯も同時に展示されています。単弓類のように一般的にはマイナーな動物群に、コアな古生物マニアは熱狂するのです。
トリティロドン類の下顎の歯。このグループは三畳紀に絶滅したものと思われていたので、白亜紀の地層から化石が発見されたのは、古生物学界の革命的な事件となりました。
日本の脊椎動物化石の調査についての解説パネル。トリティロドン類が発見された手取層群の地層の年代解説に加えて、「共進化」の概念もわかりやすく説いてくれています。

大学で古生物学を研究するからには、授業カリキュラムの中で化石に触れる機会がたくさんあります。本学ではどのような教育が実施されているのか、展示内容から想像することができます。授業で扱われる「教材」としての化石を拝むと、ますます京大への憧れが強まるのではないでしょうか。

化石の発掘調査に必要な道具や服装についても、展示でしっかりと説明。京大の学生さんたちも、最初は教員の方々のもとみっちりフィールド修行するんだろうなぁとイメージしてしまいました(笑)。
大学では、学生への教育が重要なミッション。このケースの化石標本は、開設当初から教材として古生物学の授業で使用されています

冒険する大学! いざ自然科学のフィールドへ

京大は生態学のフィールド研究の世界的権威。世界中に繰り出し、ジャングルや海洋で偉大なる研究を成し遂げてこられました。その活躍ぶりは、「自然科学のインディジョーンズ」と呼ぶべきかもしれません。

アジアやアフリカの大自然に飛び込み、思いきり研究する京大の学風。その成果は生態学の分野で現れており、霊長類研究では間違いなく世界の先端を走っています。1つ言わせていただくなら、霊長類学者になりたいのであれば、進学するかどうかは別にして必ず京大の先生のお話を聴きに行きましょう。それほどまでに、京大はサルに関してプロ中のプロなのです!
現生動物の生態学展示でトップを飾るのは、魅力的な世界中のサルたち。京大が世界に誇る分野の魅力に触れたら、きっと霊長類に強い関心が湧くはずです。

霊長類の生態の解説キャプションは超充実。親から子へと知識が受け継がれる点は、人間とまったく同じでとても興味深いです。
野生の霊長類の生態映像記録。霊長類学を志す者にとって、ニホンザルの生態研究は登竜門と言えます。
チンパンジーが「道具」として使用していた木の枝。食糧となるシロアリなどを釣るために使われており、彼らの知能の高さが改めてわかります。
霊長類の進化に関しても、模型などの資料で多面的に理解することができます。こちらのダーウィニウスは約4700万年前に生きていた原始的な霊長類です。
チンパンジーの知性実験をゲーム型の展示で解説。野外フィールド調査と施設内での実験、どちらもハイレベルな京大の研究には脱帽いたします。

筆者も学生の頃、京都大学で学ばれている優秀な方々と話したことがありますが、やはり皆さん筋金入りの生物マニアです。京大では生き物たちの不思議な生態の秘密が次々と解明されており、我々が予想だにしなかった生き物同士の複雑な相互関係も明らかにされています。
京大の博物館に来たら、マニアックな知識をゲットしたいと誰もが思うはず! 本展示から謎めいた生命の神秘に触れて、自然科学の奥深さを感じてください。

生態系の中での植物と動物について、濃密かつ明瞭なキャプションでしっかり理解できます。花粉を動物に運んでもらうため、芳香性の物質を分泌する植物もいます。
模型による生態解説。こちらはカタクリの種子を運ぶトゲアリ類。植物は特殊な化学物質の効果でアリたちをコントロールし、種子を土の中へ運んでもらうのです。
美しい生態写真によって、さらに学習がスムーズに進みます。イタドリは蜜腺からおいしい蜜を分泌することで、強いアリたちをガードマンとして雇い、植物にとって厄介なチョウの幼虫などを撃退してもらうのです。
標本とキャプションによる学習で、シロアリの社会の秘密を詳しく理解できます。シロアリの社会進化の仕組みは、京大の研究者によって解明されています
共生関係にある植物と昆虫のライフサイクルをイラストで同時解説。生態学の教科書のごとく、とても洗練された展示です。

先述の通り、京大は冒険する大学。霊長類や昆虫や植物を研究するために、ジャングルの奥地へ分け入って真理を追究します。
本館で大々的にピックアップされているのは、マレーシアのサラワク州が擁するランビルの森です。ランビルの大森林を成す植物は、動物たちとの共生関係を結んであり、互いに関わり合って複雑で美しい生態系を築いているのです。
本館の1階と2階にわたって再現されたランビルの森の巨大ジオラマは必見! 京大のフィールドワークのスケールを感じつつ、森林生態学について深く学んでいきましょう。

京大の探究フィールドの1つ、ランビルの森の一部を再現した大型ジオラマ。生物観察用のツリータワーも、現地のものとそっくりに造られています。
階段で2階へ上がっていくと、ツリータワーと観察用ウォーキングウェイでジャングルジオラマの上部を観覧できます。子供たちもワクワクして、京大への関心が高まるのではないでしょうか。
2階の巨大ジオラマ上部には、オナガサイチョウの実物大模型があります。ランビルの森において、果実や昆虫を食べて暮らしています。
ミニチュアのジオラマでもランビルの森を再現。樹間にかけられた橋は、生き物を観察するためのウォーキングウェイシステムです。
ランビルの森の解説キャプション。この超壮大なフィールドにはどのような生命が息づいているのか、じっくりと学んでみましょう。

さて、ランビルの森の植物が多様だと理解したのなら、次に期待してしまうのは昆虫標本です。2階の展示エリアにズラリと並ぶのは、熱帯ジャングルに棲まう魅力的な昆虫たち。本展示ではランビルの生物多様性の高さを知れると同時に、フィールド研究にかける京大の力強い探究心も感じ取れます。

アジアの熱帯ジャングルに棲む昆虫たちの標本。ランビルにはどのような種類が棲んでいるのか、とってもとっても気になります。
ランビルの森に棲むナナフシたち。大小様々な種類の樹木があふれる大森林では、擬態の場所となる枝葉はたくさんあります。
クロツヤムシ類の標本。彼らはクワガタに近い仲間の昆虫であり、湿潤な熱帯に分布しています。
ドイツ箱の中に標本とキャプションを入れて、チョウ類の種間の擬態について解説。実物を見ながら学べば、理解度は一気にアップするのです。
熱帯性の昆虫に関するキャプションも、余さず目を通しておきましょう。昆虫たちの不思議な世界へと引き込まれるはずです。

京都大学での学びは、本当に夢にあふれています。筆者は今でも、京大の研究環境に憧れており、活き活きと学ぶ京大生の皆さんが本当にうらやましいです。現在の京大生の青年たちは優秀な研究者となり、彼らの研究成果によって京都大学総合博物館はどんどんアップグレードされていくことでしょう。

京大受験・大学院進学を考えておられる学生の方々は、ぜひ臆せず京大にチャレンジしてください。他大学から京大の大学院に進学し、京大生に負けない研究を成し遂げている先輩は大勢いらっしゃいます
若い頭脳を持つ学生の皆さんは、これからいくらでも天才になれます。ぜひとも京都大学総合博物館を訪れ、大学受験へのモチベーションを高めていただきたいと思います。

エントランス前のコーナーでは、デジタル資料の閲覧もできます。あらゆる展示に目を通し、日本最高クラスの大学の魅力を徹底的に味わいましょう。

京都大学総合博物館 総合レビュー

所在地:京都府京都市左京区吉田本町(京都大学の本部キャンパスと同じ)

強み:フィールドワーク重視の京都大学の特色を活かした展示のテーマ性、子供もマニアも深く理解できる生態学の真理の明瞭な解説展示、自然科学研究への憧れを強く抱かせてくれる大学博物館ならではのアカデミズム

アクセス面:京都市内に位置しているので、公共交通機関の利用が望ましいと思います。路線バスに乗って「百万遍」停車所で下車するか、京阪電車の出町柳駅から徒歩で向かいましょう。ただし、京都駅に京阪電車は通っていません。もしJR京都駅からスタートする場合は、百万遍に向かう路線バスを利用するか、JR奈良線で東福寺駅まで移動してから京阪電車に乗り換えてください。

生物マニアが歓喜するコアでハイレベルな各種学術展示と、大学施設らしい教育性の高さを併せ持つ総合博物館。京大の卓越した研究成果や、生態学や古生物学の理論を濃密に学ぶことができます。加えて、多数の化石標本や生物標本、そして巨大ジオラマ展示を擁しているので、家族連れの方々にとっても魅力的な博物館であると思います。
京大ならではの専門的な知識もふんだんに盛り込まれており、生き物たちの思わぬ秘密や驚異的な生態にマニアは熱狂すること間違いなし! さらに、数々の野外研究の学習を通して、フィールドワークへの憧れも一気に強まると思います。
学生の方々は、博物館で探究心と好奇心を刺激的されたなら、ぜひそのモチベーションを受験にぶつけてください。大学からでも大学院からでも京大に入ることができれば、世界のトップランナーのもとで研究生活が送れます。未来の偉大な研究者の皆さんには画期的な業績をあげていただき、京都大学総合博物館をさらに発展させていただきたいと思います。

本館には人文科学の資料も多数展示されています。京都大学は、あらゆる学問を極められる場所なのです。


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