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#SF
銀河皇帝のいない八月 ⑥
9. 決断
翌朝……
顔だけ洗った空里は、校庭に出てスター・コルベットに向かった。
今日もいい天気……
ランプウェイの手前では、銅像のようなチーフ・ゴンドロウワが空里を迎えるように立っていた。
「おはよう」
「オハヨウ」
「!」
「おうむ返ししているだけですよ」
ランプウェイの奥からネープが言った。
「ああ、びっくりした……」
「もう少し経験値が上がれば、他のこともしゃべるようにな
銀河皇帝のいない八月 ⑩
第二章
1. レディ・ユリイラ
身長二メートル。女性である。
漆黒のローブをなびかせ、謁見ホールに続く廊下を歩む細身の姿は、優雅さと同時にとてつもない危険も感じさせた。ローブの下から見え隠れする、レザースーツの赤いラインが、浮き出した血管のようにも、獲物の返り血の流れたあとにも見えるのだ。
長い黒髪。透き通るような白磁の肌。鼻筋、口元、頬から顎にかけての線は、銀河系文明に属する多くの種族
銀河皇帝のいない八月 ⑪
2. 爆心地の浜辺
東京が消滅して一週間が経った。
破滅的な〈白い嵐〉によって首都とともに政府を失った日本の政治家たちは、県知事連を中心に連絡網を構築し、国体の維持になんとか動き出していた。
そして、大阪に置かれた暫定政府によって、状況を把握するために自衛隊が派遣され、東京が半径数十キロに渡って広がる砂漠に近い荒野と化したことがわかった。その中心域は「爆心地」と呼ばれ、大きく広がった東京
銀河皇帝のいない八月 ⑰
1. 下層区のギャングたち
落ちる……落ちる……
奈落の底へと落下するリパルシング・デッキの上で、遠藤空里は今度こそ最期かもしれないという覚悟を決めようとした。
破壊された校舎や惑星改造船の上からの落下でも生還したが、今度はそれらとは決定的に違う。
ネープがいない。
この事実は大きい。大き過ぎる。
今まで自分を護っていた彼の力が、いかに大きなものだったか。それと切り離された途端、こ
銀河皇帝のいない八月 ⑱
2. サロウ城の虜
薄紅色の液体で満たされた透明な球体の中に、全裸の少年が漂っている。
エンザ=コウ・ラは、確かにネープが美しい生き物であることは否定出来ないと考えた。この美しさに惑わされ、何とか完全人間を自分の慰みものにしようと試みた者も少なくない。だが彼らは皆、それがあまりにも引き合わぬ行為だと思い知らされることになったのだ。
こうして完全に自由を奪った状態でネープを捕らえることが
銀河皇帝のいない八月 ⑲
4. 完全人間の脱走
その若い医務官は、緊張に疲れ切っていた。
ラ家への仕官をへて帝国軍に属して以来、こんなに勤務で緊張が続いたことはなかった。目の前の液体檻に閉じ込められた美少年が、見た目とはかけ離れた危険な存在であることは重々承知の上だ。理屈ではわかっているが、その理解がかえって目に見えているものとの落差に戸惑いを生じさせていた。
「サンプルの様子はどうだ?」
上官が部屋に入って来
銀河皇帝のいない八月 ⑳
6. 宇宙海賊ハル・レガ
重い沈黙が仕切り壁の中を包む。
ややあって、シェンガがようやく口を開いた。
「なあアサト……気持ちはわかるが、無駄だと思うぜ。俺は見たんだ。俺たちがデッキごと墜落する寸前、あいつは……背後から迫って来た機動衛兵に撃たれてたよ……」
「それは私も見た。でも、死んだと決まったわけじゃないでしょ?」
そう言いながら、空里は撃たれたネープの姿を思い出して、喉の奥がヒリヒ
銀河皇帝のいない八月 ㉒
8. 銀河皇帝あらわる
サロウ城内の逃亡者をめぐる騒ぎは、ますます大きなものになっていた。
ようやくセキュリティ・ドロメックがフロア間の狭いスペースに潜むネープの姿を捉え、機動衛兵たちがそれを追って包囲網を作ろうとしていた……が、肝心の位置がまるでつかめない。
ドロメックから送られてくる映像には、どれにもネープの姿が映っていたのだ。あり得ないほど、たくさんのネープの姿……まるで何人もの