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【長編SF小説】銀河皇帝のいない八月

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宇宙を支配する銀河帝国が地球に襲来。 軍団を率いる銀河皇帝は堅固なシールドに守られていたが、何故か弓道部員の女子高生、遠藤アサトが放った一本の矢により射殺されてしまう。 しかも〈…
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#SF

銀河皇帝のいない八月 ②

銀河皇帝のいない八月 ②

4. 完全人間

「おい、ネープ……」

 足を引きずりながら戻ってきた人猫が言った。
「!」
 人猫の言葉がわかる! その声はやや甲高いが、大人びた男性の物言いだった。
「お前も見てたろ? 皇帝は死んじまったぜ。あるじがいなくなっちまったら、お前もお役御免だろ。とっとと引き揚げろよ」
 ネープと呼ばれた少年は人猫に向き直った。
「そうはいかない。お前たちが奪った種子を取り戻すのも、自分の使命だ」

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銀河皇帝のいない八月 ③

銀河皇帝のいない八月 ③

6. ネープの戦い

「乗って!」

 ネープが叫んだ。
 見ると、少年はすでにキャリベックと再び合体していた。
 腰に繋がった機械の馬を叩き、空里に乗れとうながす。空里はキャリベックに駆け寄ると、一瞬またがるか横すわりするか迷ってから、足を上げてまたがった。安全第一だ……
「待って、シェンガも……」
 空里は、迫る飛行物体を睨め付けて立ち尽くすミン・ガン戦士を指さした。ネープが首を振ると、キャリ

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銀河皇帝のいない八月 ④

銀河皇帝のいない八月 ④

7. コンビニにて

 夏の夜の街を、少女と少年と人猫が歩いてゆく。
 その後ろから、主人と分離した機械の馬がついていった。

 食料などを集めるため学校の敷地を出たはいいが、街は人影が消え完全な闇に包まれていた。
 ネープの肩に取り付けられた強力な小型投光器だけが、あたりを照らす光源だった。

 いったん帰宅したいという空里の希望は、ネープに却下されていた。もし帝国の奇襲があったら、空里の家族や

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銀河皇帝のいない八月 ⑤

銀河皇帝のいない八月 ⑤

8.ゴンドロウワ

 会計を済ませた空里たちが外へ出ると同時に、コンビニは再び闇に包まれた。

「早く帰りましょう。やはり、コルベットの中が一番安全だ」
 ネープがドアを閉めると、突然一条の光が一行を照らし出した。
 ネープとシェンガが身構える。
「君たち! そこで何をしてる」
 交差点の反対側から、二人の警察官がフラッシュライトをこちらに向けていた。面倒なことに……
「シェンガ、ニャアって言って

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銀河皇帝のいない八月 ⑥

銀河皇帝のいない八月 ⑥

9. 決断

 翌朝……

 顔だけ洗った空里は、校庭に出てスター・コルベットに向かった。
 今日もいい天気……

 ランプウェイの手前では、銅像のようなチーフ・ゴンドロウワが空里を迎えるように立っていた。
「おはよう」
「オハヨウ」
「!」
「おうむ返ししているだけですよ」
 ランプウェイの奥からネープが言った。
「ああ、びっくりした……」
「もう少し経験値が上がれば、他のこともしゃべるようにな

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銀河皇帝のいない八月 ⑧

銀河皇帝のいない八月 ⑧

11. ジアレギ将軍の挑戦

 シェンガは呆れこそしたが、反対はしなかった。
 他に手がないのは確かだし、完全人間が「やる」と言ったらやるのだ。

 ネープはゴンドロウワに命令した。
「お前はミン・ガンと協力して、船を守れ。私が戻って再度命令するまでミン・ガンの指示にだけ従い、他の者の命令には従うな」
「これでこのデカブツは完全に味方だ。どれだけの役に立つかは知らんが……」
 戦闘種族の本性を出し

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銀河皇帝のいない八月 ⑨

銀河皇帝のいない八月 ⑨

12. 約束

 半壊した部室棟の屋上に、二つの影が立っている……

 空里とシェンガは、夕日と自分たちの間に広がった、奇妙な景色を飽くことなく眺めていた。

 戦闘中に移動していた惑星改造船は、消滅した東京の西側に落下し、スター・コルベットとシールドに守られた部室棟の一部は墜落の被害をまぬがれていた。
 完全な荒野と化した地上には、巨大な構造物や船体の残骸が突き立ち、金属製の神々が眠る墓場か、発

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銀河皇帝のいない八月 ⑩

銀河皇帝のいない八月 ⑩

第二章

1. レディ・ユリイラ

身長二メートル。女性である。

 漆黒のローブをなびかせ、謁見ホールに続く廊下を歩む細身の姿は、優雅さと同時にとてつもない危険も感じさせた。ローブの下から見え隠れする、レザースーツの赤いラインが、浮き出した血管のようにも、獲物の返り血の流れたあとにも見えるのだ。
 長い黒髪。透き通るような白磁の肌。鼻筋、口元、頬から顎にかけての線は、銀河系文明に属する多くの種族

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銀河皇帝のいない八月 ⑪

銀河皇帝のいない八月 ⑪

2. 爆心地の浜辺

 東京が消滅して一週間が経った。

 破滅的な〈白い嵐〉によって首都とともに政府を失った日本の政治家たちは、県知事連を中心に連絡網を構築し、国体の維持になんとか動き出していた。
 そして、大阪に置かれた暫定政府によって、状況を把握するために自衛隊が派遣され、東京が半径数十キロに渡って広がる砂漠に近い荒野と化したことがわかった。その中心域は「爆心地」と呼ばれ、大きく広がった東京

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銀河皇帝のいない八月 ⑰

銀河皇帝のいない八月 ⑰

1. 下層区のギャングたち

 落ちる……落ちる……

奈落の底へと落下するリパルシング・デッキの上で、遠藤空里は今度こそ最期かもしれないという覚悟を決めようとした。
 破壊された校舎や惑星改造船の上からの落下でも生還したが、今度はそれらとは決定的に違う。
 ネープがいない。
 この事実は大きい。大き過ぎる。
 今まで自分を護っていた彼の力が、いかに大きなものだったか。それと切り離された途端、こ

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銀河皇帝のいない八月 ⑱

銀河皇帝のいない八月 ⑱

2. サロウ城の虜

 薄紅色の液体で満たされた透明な球体の中に、全裸の少年が漂っている。

 エンザ=コウ・ラは、確かにネープが美しい生き物であることは否定出来ないと考えた。この美しさに惑わされ、何とか完全人間を自分の慰みものにしようと試みた者も少なくない。だが彼らは皆、それがあまりにも引き合わぬ行為だと思い知らされることになったのだ。

 こうして完全に自由を奪った状態でネープを捕らえることが

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銀河皇帝のいない八月 ⑲

銀河皇帝のいない八月 ⑲

4. 完全人間の脱走

 その若い医務官は、緊張に疲れ切っていた。

 ラ家への仕官をへて帝国軍に属して以来、こんなに勤務で緊張が続いたことはなかった。目の前の液体檻に閉じ込められた美少年が、見た目とはかけ離れた危険な存在であることは重々承知の上だ。理屈ではわかっているが、その理解がかえって目に見えているものとの落差に戸惑いを生じさせていた。

「サンプルの様子はどうだ?」
 上官が部屋に入って来

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銀河皇帝のいない八月 ⑳

銀河皇帝のいない八月 ⑳

6. 宇宙海賊ハル・レガ

 重い沈黙が仕切り壁の中を包む。

 ややあって、シェンガがようやく口を開いた。
「なあアサト……気持ちはわかるが、無駄だと思うぜ。俺は見たんだ。俺たちがデッキごと墜落する寸前、あいつは……背後から迫って来た機動衛兵に撃たれてたよ……」
「それは私も見た。でも、死んだと決まったわけじゃないでしょ?」
 そう言いながら、空里は撃たれたネープの姿を思い出して、喉の奥がヒリヒ

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銀河皇帝のいない八月 ㉒

銀河皇帝のいない八月 ㉒

8. 銀河皇帝あらわる

 サロウ城内の逃亡者をめぐる騒ぎは、ますます大きなものになっていた。

 ようやくセキュリティ・ドロメックがフロア間の狭いスペースに潜むネープの姿を捉え、機動衛兵たちがそれを追って包囲網を作ろうとしていた……が、肝心の位置がまるでつかめない。

 ドロメックから送られてくる映像には、どれにもネープの姿が映っていたのだ。あり得ないほど、たくさんのネープの姿……まるで何人もの

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