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猫舌の人にたこ焼きの食べ方をエラそうに指南した結果得られたいくつかの気づき

サービスデザインを考える人間として、
日常生活はヒントの宝庫である。
オフモードの中でつづった一編として、
ご笑覧いただけると幸いです。


熱い食べ物は、おいしいよ

熱い食べ物が好きだ。
「好きな食べ物は何?」と聞かれたら、
「とにかく熱いもん」と答えるぐらい好きだ。

だから猫舌の人と一緒に食事する時、なんとも言えない表情で熱々ラーメンが冷めるのを待っている彼らを前にすると、どうにかしてあげたくなってしまう。
まったくもって、余計なお世話だけど。


たこ焼きの食べ方を言語化する

ある日、友達と一緒にたこ焼きを食べようとしたところ、
彼女は「自分は猫舌だから…」と待ちの姿勢をとった。

そこで何がそんなに熱いのか?ヒアリングしてみたところ、
「たこ焼き口に入れた瞬間、舌熱すぎて無理」
という発言があり、
「えっ、たこ焼きを舌の上にベタッと乗せてるのん?」
と聞いたら、そうだと言う。

そんなの熱いに決まっとるやろ。
猫舌じゃなくても誰でも熱いわそんなもん。
と、いきりたち、
正しいたこ焼きの食べ方を説明することに。

・お口に入れたらダイレクトに舌の上へ乗せない。
・唾液を出してたこ焼きと舌の間に中間層をつくって熱による侵襲をやわらげる。
・ほっぺたを丸めてたこ焼きの表面が口内組織と一定時間接触することがないよう、転がすというか、ほふほふする。
・口は閉じきらず少し開けて、エントロピーの法則に従い、たこ焼きの熱を外へ逃がす。
・そうしている間に少しずつたこ焼きの温度が下がってくるので、自分が食べられるギリギリの温度になったら噛んで食す。

という「たこ焼き五箇条」を示して友達に試してもらったところ、
「本当だ!こうやったら熱いままでも食べられる!!」
かくして、猫舌を乗り越えるブレイクスルーがもたらされた。


「自分は猫舌だから」は思い込みか?

そのことがあってから、
私は猫舌人と出会うと、すきあらば「たこ焼き五箇条」を強制する「猫舌警察」として活動した。
「自分は猫舌だから」というのは君の思い込みであり、舌の構造は普通の人と同じで、食べ方によって乗り越えられるはずだ!という信念のもとに(めんどくさい奴ですよね)。

実際のところ、猫舌が全部思い込みであるとは限らない。
調べてみると「猫舌の人は本当に舌の構造が常人とは異なり、熱さを感じやすいのか?」に対する明確なエビデンスは見当たらない。見当たらないが、科学的に立証されていないだけで「真の猫舌人」が存在する可能性は、充分にある。
そういう人は、どうぞ無理せず冷ましてから食べてください。

でもトライしてみたくなった人は、ぜひやってみてほしい。
熱いものを食せるのは火を扱う人類の特権だし、料理人たちも、自分たちがつくった一皿を最適な温度で提供しようと心を砕いている。
今まで食べられなかった熱さで味わってみれば、かつてないおいしさを見つけたり、食べることが好きになって、人生がすこし楽しくなるかもしれない。
われわれ猫舌警察の活動が、そんな体験のサポートになればうれしい。


「誰も教えてくれなかったこと」を見直すおもしろさ

考えてみると、親や先生から「よく噛んで食べなさい」とは言われるものの、どうやって噛んで飲み込んでいるのか、お口の中の動きは教えてもらえない。
噛む回数やお箸の持ち方、テーブルマナーは教わっても、咀嚼と嚥下は本能的な働きだから、意識的に変えることは難しい。

クチャクチャ音を立てながら食べる「クチャラー」の中には、舌の形や長さの兼ね合いで、どうしても口が開いてしまうケースがあると知った。
口腔内のアレコレは、「親知らず」レベルに極めて個人的な体験なので、まだまだ理解が進んでいないこともあるのだろう。

この「お口のお作法」のように、
今まで誰からも教わらなかったことについて、
あらためて考えてみることはおもしろい。
無意識の行為を分析することは、サービスの向上や潜在的なニーズ探索のヒントになる。


たとえば「読む」こと。
文字の読み方は教わるけれど、「これこれこのように視線を動かして文字を追う」と、「読むという行為」を教わることはない。
目の機能や脳の機能、普段読んでいるもの、認知バイアス、読む姿勢や体力、集中力などの超・個人的なファクターによって、千差万別な「読む」体験が広がっているはずだ。

「読む」ことは知的活動の源泉なので、
仕組みや個人差がわかって読解力の向上方法などが確立されれば、社会へ与えるインパクトが大きそう。
これについては脳科学的な研究を蚊帳の外からキャッチアップしながら、「読む速さと深さの相関性」「読む上で負荷となる要因」などをヒアリングや行動観察から考察するような、自分なりの定性リサーチも進めてみたいとおもっている。


おまけ

本稿では猫舌を「悪しきもの」「改善すべきもの」かのごとく書いてしまったが、まったくそんなことはなく。
「猫舌なので」と熱い食べ物を辞する人の中には、「本当は熱い物を食べて人前で汗をかきたくないんだよね…」と本音を教えてくれる人もいた。

あと、振舞われた料理が何かの事情で冷めてしまった時、ホストが「あら、温め直してお出しするわね」と言ってバタつくのを制して、
「自分、猫舌なんで、ちょうどいいです!」
とフォローしているシーン。

猫舌も方便。
そんな細やかな価値も後世に伝えていきたいと思う今日この頃。

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