見出し画像

【殺人企業~実録・裏社会の人間との闘いの日々~】第三章:暗雲③使い勝手がいいキャスト??



第三節:使い勝手がいいキャスト??



この頃、私は莉愛の件以外にも他にも頭を抱えるがあった。


昨年から度々あった事だが、店長の伊能君にしても、たまにホールに入る瀬名君にしても女の子が余っているのに私を使う傾向があった。


私を使う機会としては、手癖が悪くて女の子もゲンナリするお客様、あとは気難しいお客様、太っている女の子が嫌なお客様などなど。


基本、何処のキャバクラでもそうだが上位ランカーは指名がいる事が多いので新規・フリーに中々付かない。


だから、新規やフリーで来て可愛い子や会話が上手い子が付くのは運だと私は思う。


夜職の人間の本音としては、フリーで来て良い子が付かないとか文句言うなら見た目でも良いから指名した方が有意義ゆういぎに飲めると思う。



だけど、それはお客さんに通じない事なので…


そこで、客の機嫌が悪くなった時に「社長」である私がつく事で客を気分良くさせる手法を彼らは取ったのだと思う。


けれど、経営者として思っていたのが、それでは女の子の会話スキルも上がらないし、このままでいい訳ない。


私も現役時代に嫌な客に当たった時もあった。


それが嫌だったから嫌なものは嫌と意思表示し、指名客で優しい人をいっぱい作っていった。


そのおかげで、基本的には優しい指名客がいっぱい指名で来てくれて楽しく仕事を出来ていた。



それを、ただ女の子側が嫌だからと言う理由で待機席に座らせると言うのは違うなと思っていた。



そんな時に事件は起きた。


その日は元々、私を指名していたお客様を美咲ちゃん指名で案内した後…


美咲ちゃんのお客様で手癖が悪いお客様、ゲロ救が来店した。


ゲロ救と言うのは、年末、酔っぱらった結果、ゲロを吐いて救急車に運ばれた事から、スタッフの間でゲロ救と呼ばれていた。


ゲロ救はいつもの様にベロベロに酔っていてヘルプの女の子に「愛してる」を連発。


そして、キスをしようとしていた。


女の子達はヘルプが順番に回って来てはゲンナリしていた。


「凛華さん、ちょっとゲロ救について貰っていい??」


「ん?分かった~」


伊能君は女の子側からクレームが出るぐらいなら自分のお店、会社の代表である私をゲロ救に付ける事にしたのだろう。


私はちょっとのつもりでヘルプを承諾した。



ところが、客席に付いてからと言うものの、いつまで経っても女の子を変える気配はなかった。


その間、ゲロ救の手癖の悪さはエスカレート。


胸を触られたり、手にキスをされたり…


私は上手く交わしつつ、伊能君が呼ぶのを待っていたが一向に呼ばれない。


(女の子も余ってるのに、何で??)


「森さん、ダメですよ~美咲ちゃんに怒られちゃいますよww」


森さんとはゲロ救の本名だ。

流石にお客様を前にしてゲロ救なんて呼べない(笑)


私の制止を酔っている事からゲロ救は全く聞かず…


「愛してる。ちゅ~」


私のなだめを無視するかの様にゲロ救はキスをおねだり。


唇をすぼめて私に近寄って来る。


(ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!やめてー!!心の声)



身の危険を感じた私は「立つと危ないので座ってくださいね(笑)」と言って力技でどうにかゲロ救を席に座らせた。


(自分の腕力が強くて助かった……)


顔はどうにか笑顔を作っていたが私は焦っていた。


何故、私がこんなに焦っていたのかと言うと、ゲロ救が手を出して来たからだけではなかった。


美咲ちゃんに指名を付けていたお客様は、元々、私の指名だった。


また、そのお客様の席がゲロ救の席からすごく見える所にあったからだ。


確かに社長になって自分の指名客を女の子達に付けていたのだが…


実際、お客様は私を指名していたので隣に私が付いて欲しいのが本音だった。



「凛華ちゃん、何で社長になっちゃったの?」


「凛華ちゃんにいて欲しいな~」と言う元々の指名のお客様が多かった。


だけど、私がお店を持って社長として頑張っていたので応援として私がお願いした女の子を指名してくれた。


美咲ちゃんも、それは分かっていたみたいで、ずっとそのお客様に謝っていた。


ただ、私にも我慢の限界があって…


私は上手く理由を付けて、ゲロ救の席を抜けた後、伊能君に話し掛けた。


「伊能君、そろそろヘルプ変えれないの?あと、いくらなんでも注意はしてよ」


「厳しいよ~。もう一巡してるし」


「それでも、ずっと付いてる訳にもいかないし。見える席に●●さんもいるし、流石に●●さんも良い気分しないでしょ?」


「えー。凛華さん、上手くやってよ~と言うか凛華さんが我慢すればいいじゃん」


その一言に私は納得がいかなかった。


「えっ?私にずっと我慢してろって言うの?」

「自分の会社の事でしょ。社長なんだから!!」


都合良い時ばっか社長って…


「社長なんだから!!」と言う言葉が私の中で冷静な判断を失わせた。


「そんなに言うなら自分がつきなよ!!」



ついカッとなって言ってしまった一言…


だけど、その瞬間、伊能君は私に敵意を見せた。


「分かったよ!!じゃあ、俺の付け回しの仕事、凛華さんがやれよ!!」


伊能君の仕事放棄とも言えるその態度。


だけど、それをさせてしまったのは私だった。


(何で、もっと上手くやれないんだろう…)


私は自分に対して怒りをどうぶつけていいのか分からずにブロックの壁を殴った。


伊能君と衝突したくなかったし、それを女の子の前で見せたくなかった。


手の甲は赤かったが、それ以上に自分への怒りから痛みは分からなかった。


何にしても、一番気まずいのは美咲ちゃんだっただろう。


美咲ちゃんの気持ちもんであげられなかった自分の浅はかさにも頭に来ていた。



だけど、ずっとこのまま問題があるお客様が来た場合、
私が基本的に相手しないといけないシステムなのも理解出来なかった。

店側として出来る限り手癖の悪い客を注意したり、女の子を守るのは勿論そうだが…
キャストは嫌なお客様に付きたくないなら自分のお客様を指名で呼ぶなり、お客様を教育するなどして身を守るしかないと思う。


それをキャストにさせないと技術の向上にならない訳で…


ただ、それは理想論なのかもしれない。


実際に私もキャスト時代に嫌なお客様に当たった事もある。

その時はついつい不満を言っていた。


けれど、「自分が変わらなければ何も変わらない」と言う言葉から不満を言うよりもお客様との人間関係作りの方に力を注いだ結果、
最終的には性格の良いお客様に指名を頂ける事が多かった。

今振り返って見ても、本当にお客様に恵まれていたと思う。



今回のゲロ救の件でもお客様は自分の気持ちよりも私の立場を考えてくれた。

「本当は頭に来たから、あの手癖悪いお客さんを止めようと思ったけど…凛華ちゃんの立場もあるし、話がややこしくなると思ったから我慢したよ…大丈夫だった??」


後でそのお客様が私を心配して言ってくれた言葉。


その時に改めて私はキャストだった時にお客様に守って貰っていたのだと再認識した。


キャストは商品。

ましてやナンバークラスはお店からしたら金がなる木。


だから、私はキャストの時、ボーイは私を守ってくれた。


けれど、今はキャストではない私は自分の身は自分で守らなければいけない。


だからこそ、今後の事も考え、私は伊能君としっかり話しておく必要があった。



その日の営業終了後。

今後の事も兼ねて、再び、伊能君とゲロ救の席の出来事について話をした。


「伊能君、何で全然抜かなかったの??しかも止めてくれても良かったんじゃない??」


「いや、あの状況じゃ無理だって」


「それでも手癖が悪いお客様を自由にすると秩序が崩れるから、注意するのも大事だと私は思うんだけど」


「ゲロ救に何言っても無駄だって」


「それか、美咲ちゃんにお客様を教育して貰うしかないね」


「美咲さんに言っても難しいと思うよ~だから、凛華さんが付くのが一番問題起きないって。自分の会社なんだから当然でしょ!!」


その一言にカチンと来た。


だけど、感情的になっては元も子もない。


「それでも、いつでも私がいるとは限らないじゃない?それと、女の子が余っているのに使わないのは、おかしいよね?時給払っているんだし」

「皆、一巡したし、嫌がってる女の子も多いから」


「そうかもしれないけど…嫌なお客さんについた場合でも、上手く交わせる技術を習得したりしないとスキルが伸びないと思う」


「皆、凛華さんとは違うんだって。それに俺は使えるものは何だって使う」



伊能君は私の事、きっと久我さんに雇われた社長にしか思ってないのだろう。


人はトップや圧倒的に力がある人間には逆らわない…


だけど、彼ら…社員や女の子から見て…


問題があったり不満がある場合は私より上の久我さんに言えば良いのだから私には反抗しやすい。


それでも、それを納得させる力や経験が私にあれば何かが変わったのかもしれない…


その後、二人の話は平行線を辿った。


この事から私は自分の身は自分で守るしかないと再確認する。


女の子が全然いないなら分かるけれど、いつもいつも女の子が余っているのに私が気難しいお客さん、手癖の悪いお客さんばっか対応していたらキリがないと思った。


その日から、かつての上位ランカーの力をフルに発動して4階にお客さんをいっぱい来客させる様にした。


キャスト時代の時と同じ量をお客さんにメールしたら、あっと言う間に予定が埋まった。


売上も上げれるし、平日ちゃんと2階で会計もするし、手塚さんと瀬名君に業務を押し付けている訳ではないからOKだよねと考えていた。


ところが週末を全部、お客様で予定を埋めた事が手塚さんの癇に障る事となった。

「来週の土曜日ってお客さんの予定ある?」


「もしかしたら、予定入っちゃうと思います」


「それ、ずらせない?」


「ちょっと難しいかもしれないです。まだ分からないのですが…」


この時、私は予定が立つか微妙だった。


だけど、週末はまた伊能君が女の子が余っているのに私を変に活用するのではないかと心配だったから私は必死で営業していた。


翌週の水曜日。

「土曜日、大丈夫だよね?」


「予定入っています」と言った途端、手塚さんの目の色が変わった。


「はぁ!?何で予定入れるの??入れるなって言ったじゃん!!」


「でも、予定入ったら仕方ないですよね?」


「あのさ、送りの負担とか考えてる?瀬名君は会計の後に送りもあるんだよ?
まだ●●様とか太いお客様が来るなら分かるけど、最近…4階で決まったお客様と食事してるに過ぎないじゃない。
そんな凛華さんを見て、女の子達だって良く思わないでしょ?皆、凛華さんを社長だって認めてる?」


すごく痛い所を突かれた……。


確かに女の子と距離があるのは私も感じていた。



私自身、社長となってから、女の子にどの様に接したら良いのか分からない部分もあった。


元キャストだった事から出来る限り女の子の要望に応えてあげたい半面…


共同経営から私の一存では決めれない部分もあって対応出来ない事も多くあった。


けれど、今まで以上にお客様に多く来店して貰って売上を上げたり、
女の子にお客様を指名で付けてあげていれば、きっと立場は違っても通じるものはあるって思っていた。


手塚さんに色々言われた後、私は考えてしまった。


私は逃げていたのかな?

確かに伊能君から女の子が余っているのに皆が行きたくない所に付けられる事が嫌だったから指名客を呼んでいた。


瀬名君の送りの負担を考えられない自分の視野の狭さも恥かしくなった。


だけど、このまま折れると、ずっと同じ事の繰り返しになるので私は条件をつけた。


「分かりました。
確かに皆、私について来ている訳ではないみたいですし、まだまだ勉強不足な所もあるので一回、会計に入って色々と勉強します。ただ、一つだけ条件があります。絶対、私をキャストとして使わない事」


「分かった」と手塚さんは一言言うと帰って行った。


今思うと私は全てにおいて此処でも判断を間違っていた。


この時に会計に入ると言わなければ、あんなに仕事の殆どを押し付けられてフラフラで仕事しなければならない状況にならなかっただろう。



せめて、この時に謝って次から気を付けますと言って予定をずらせば、平日のみ会計で、そこまで仕事量は増えなかっただろう。


此処がもう一つの運命の別れ道だったのかもしれない。


←前へ 次へ→

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?