「ありふれた愛、ありふれた世界」6
シーン6 浩二のマンション(夜)
弘一、修一、今日子(愛を抱いてる)、浩二、麗子(世界を抱いてる)。
弘一 「ふーん」
麗子 「理解した?」
弘一 「わかった」
麗子 「良かった」
弘一 「要するに俺にドッキリを仕掛けようと」
麗子 「違ーう!」
弘一 「大体無理だろ。そんなこと信じろなんて言われても」
今日子 「お義兄さん、本当なんです。私たち本当に困ってるんです」
弘一 「今日子がそんな喋り方って、調子狂うわ」
今日子 「すいません」
浩二 「キョン姉なんでこの人呼んだの?意味ないじゃん」
麗子 「他の誰に相談するのよ」
浩二 「え?」
麗子 「他人にはできないでしょ!」
浩二 「他にも家族いるだろ」
麗子 「こんなことお父さんお母さんに話したらどうなると思う?」
浩二 「確かに・・・明日香は?・・・バカだからなあ」
麗子 「ヒロ兄しかいないんだよ!」
弘一 「たしかこんな映画あったよね」
修一 「転校生です。男と女が入れ替わっちゃう。大林監督の」
弘一 「それ!修ちゃんよく知ってるね。世代じゃないでしょ」
修一 「まあ。結構映画好きなんです」
弘一 「そうなんだ。じゃあさ」
麗子 「待て待て。そんなことじゃなくて」
弘一 「何だよ折角義理の弟と絆を深めようとしてるのに。ねえ」
修一 「はい」
麗子 「別の機会にしてくれる?」
弘一 「だって信じられるわけないじゃん」
麗子 「私だって信じられないわよ。でも事実なんだからしょうがないでしょ」
弘一 「そんなこと言われてもなあ、ねえ修ちゃん」
修一 「ヒロ兄、本当なんです信じてください」
弘一 「つまり麗子ちゃんの中身が『今日子』で、今日子の中身が『麗子ちゃん』だと」
今・麗 「そう(です)」
弘一 「ふーん」
麗子 「信じてないでしょ」
弘一 「うん」
麗子 「信じてよ!」
弘一 「じゃあさ・・・クイズやろう」
浩二 「何がクイズだ。ふざけてんなら帰れよ」
弘一 「ふざけてねーよ。お前たちが入れ替わったってことを信じたいから言ってんだ」
麗子 「どういうこと?」
弘一 「俺は麗子ちゃんとはほぼ初対面だし、君は俺の存在自体知らなかったんだよね?」
今日子 「はい」
弘一 「あ、そっちか・・・なんだよね?」
今日子 「はい」
弘一 「てことは、君は今日子だから勿論俺の事は知ってるよね?」
麗子 「当たり前でしょ」
浩二 「だからなんなんだよ」
弘一 「だから今日子しか知らないことをこの子が答えられれば、俺は信じるしかない」
浩二 「なるほど」
修一 「ヒロ兄、頭良いですね」
弘一 「だろ?じゃあ行くぞ。俺の生年月日は?」
麗子 「昭和五十三年五月十一日」
弘一 「正解!血液型は?」
麗子 「自分勝手なB型」
弘一 「・・・正解」
今日子 「私もB型です」
麗子 「あ、ごめん」
弘一 「好きな食べ物は?」
麗子 「もやしナムルと枝豆」
弘一 「・・・正解。うーん」
浩二 「相変わらず安い男だな」
弘一 「好きなんだからいいだろ。好きにさせろ」
麗子 「どう?信じた?」
弘一 「なんか決め手に欠けるなあ」
麗子 「じゃあこの話はどう?」
弘一 「何だよ」
麗子 「真由美さん覚えてる?中学のときのヒロ兄の同級生」
弘一 「ああ、いたな」
麗子 「(弘一役本人の恥ずかしいエピソードを話し始める)」
弘一 「やめろ!人の傷口に塩を塗りやがって!」
麗子 「そういえばあの子結婚したよ」
弘一 「マジか」
麗子 「子供三人。一番上は中学生・・・」
弘一 「そうか」
麗子 「どう?これで信じた?」
弘一 「参りました」
世界が泣き出す。
麗子 「あら、おなかすいたのー。よしよし」
釣られて愛も泣き出す。
今日子 「愛もなの(おっぱいをあげようとする)よしよし・・・あれ飲まないの?」
麗子 「こっちも飲んでくれないみたい・・・」
弘一 「もしかして、逆じゃないか?」
麗子 「逆?」
弘一 「母親のことは感覚で感じてるんだよ。お母さんのおっぱいしか飲まないんじゃない?」
麗子 「え?」
今日子 「なるほど。試してみます?」
麗子 「そうね」
愛と世界を取り替える。
二人ともガンガン飲んでいる。
今日子 「すごい力」
麗子 「よっぱどおなかが空いてたのね」
今日子 「世界ちゃん、かわいい」
麗子 「愛ちゃんも」
男たち 「おお」
麗子 「何見てんのよ!」
麗子、三人を引っ叩いて。
麗子 「あっち!」
男たち 「すいません」
弘一 「しかしどうするかな」
修一 「どうするって?」
弘一 「直す方法あるのかな」
修一 「え?」
弘一 「だってこんな映画みたいなこと、ありえないだろ」
修一 「そうですよね・・・」
浩二 「ちょっと!そのためにあんたを呼んだんだろ」
弘一 「そうなの?」
浩二 「そりゃそうだろ。少しは役に立てよ」
弘一 「そう言われてもねえ・・・」
修一 「ずっとこのままなんでしょうか?」
弘一 「え?」
修一 「ずっとこのままなんて嫌です」
浩二 「俺だってやだよ。中身がキョン姉の麗子なんて」
修一 「僕も嫌ですね」
弘一 「ま、何とかなるだろ」
浩二 「何とかってなんだよ」
弘一 「入れ替れたんだから戻ることだってできるはずだろ?」
浩二 「適当だな」
弘一 「だってこんなの見たことねえもん」
浩二 「相談する相手を間違えたな」
弘一 「誰に相談したって分かるわけねーだろ」
浩二 「キョン姉どうする?」
今日子 「私、麗子」
浩二 「あ、そうか」
弘一 「問題はそれだな」
みんな 「(そうだな、など)」
ピンポーン!
今日子 「はーい」
弘一 「待て待て待て。それなんだって!」
今日子 「え?」
弘一 「君は今日子なんだからね」
今日子 「あ!」
浩二 「誰?」
ゆず声 「麗子!麗子!」
浩二 「ゆずさん・・・何でこんなときに」
弘一 「誰?」
今日子 「私の姉です」
弘一 「いいか。入れ替わってることは俺たちだけの秘密にしとこう」
浩二 「何であんたに指図されなきゃなんねーんだよ」
弘一 「頭おかしいと思われるだろ」
浩二 「そうか・・・」
麗子 「浩二!」
浩二 「分かったよ。その顔で怒んなよ」
弘一 「浩二、お前が行って来い」
浩二 「だから指図すんなって」
浩二、玄関へ。ゆずが入ってくる。
ゆず 「何ですぐに開けないの!・・・あ、お客さん」
弘・修・麗「こんばんは」
弘一 「おい」
麗子 「あ」
今日子 「お久しぶりです。確か結婚式以来ですよね」
ゆず 「ああ!浩二くんのお姉さん。久しぶりじゃないですかー」
今日子 「ねえ」
ゆず 「また飲もうって約束したのに全然連絡くれないんだから」
今日子 「え?ああ、そうでしたっけ」
修一 「こんばんは。覚えてます?」
ゆず 「覚えてますよ、今日子さんの旦那さん。明神さん」
修一 「正解」
ゆず 「お姉さんたちの赤ちゃん?」
修一 「はい」
今日子 「ええ、そうです」
ゆず 「可愛いですねー。お名前は?」
今日子 「世界です」
ゆず 「世界ちゃんですか。いい子ですねー」
今日子 「可愛いよね」
修一 「可愛いでしょう」
麗子 「ありがとうございます」
ゆず 「あ?」
弘一 「ねえ!可愛いですよねー」
ゆず、弘一を発見する。会釈する弘一。
ゆず 「えーと、そちらは?」
弘一 「はじめまして。浩二の兄の弘一です」
ゆず 「ああ、弘一さん!はじめまして。麗子の姉の森田ゆずです。妹がお世話になってます」
弘一 「こちらこそ」
ゆず 「あれ?結婚式いらしてました?」
弘一 「いや」
ゆず 「来てないですよね」
麗子 「ずっと海外に行ってて先日やっと帰ってきたんです」
ゆず 「ん?」
弘一 「そうなんですよ。今丁度その話をしてたとこなんです」
麗子 「(ごめん)」
浩二 「この人、突然家を飛び出して十五年何の音沙汰もなかったのに、急に帰ってきて。ほんといい迷惑ですよ」
ゆず 「そうなんですか?」
弘一 「そうなんです」
ゆず 「ステキ!そういうのカッコいいです」
浩二 「カッコよくないでしょ」
ゆず 「カッコいいじゃない。ねえ」
弘一 「ありがとうございます」
今日子 「で、今日は?」
ゆず 「今日は愛ちゃんに癒されたくて来ちゃったんです」
今日子 「そうだったんですね」
麗子 「ほら、ゆずさん」
ゆず 「ゆずさん?」
弘一 「ゴホン」
麗子 「ほら、ゆずオバさんですよー」
ゆず 「あらー愛ちゃんおいでおいでー」
麗子 「はい(と抱かせる)」
ゆず 「(抱いて)あら愛ちゃん!いい子ですねー」
今日子 「首のとこちゃんと持って!」
浩二 「そうそうそうそう首をね」
麗子 「もっと丁寧に抱っこしないと」
ゆず 「大丈夫大丈夫。私だって女なんだから、ねえ愛ちゃん大丈夫ですよねー。ゆずお姉ちゃんだよー。オバちゃんじゃないですよー。ああ可愛い。私も早く結婚して子供ほしいー」
今日子 「タカシさんとはどうなってんの?」
ゆず 「あいつ最低なの。タカシのやつ携帯にロックかけてんのよ・・・って何で今日子さんが知ってるの?」
麗子 「あ、ごめん!さっきその話しちゃった」
今日子 「さっき聞いたばっかりでつい・・・タカシさんそんな感じなんですか?ダメですね」
ゆず 「でしょう?最悪。今日子さん聞いてくれる?あ、今日飲んじゃう?」
周り、首を振ってる。
ゆず、振り返ると、みんな知らん顔。
今日子 「あのー、飲みに行きたいのはヤマヤマなんですけど・・・今日はこれから・・・なんだっけ?」
浩二 「あれなんです。あ!バカ兄貴が帰って来たんでそのお祝いで」
弘・ゆ 「そうなの?」
浩二 「そんなわけねえだろ」
弘一 「そうか」
ゆず 「じゃあ私も行く!」
浩二 「おおお。そうなりますか・・・しかし」
麗子 「もうお店予約しちゃってるから、ね」
修一 「完全予約制なんで今から人数増やせないんですよ、ね」
弘一 「そうらしいです」
ゆず 「なんだ・・・残念」
今日子 「また今度ということで今日は」
ゆず 「・・・・・・帰る?」
みんな 「いやー残念残念」
ゆず 「もっと癒されたかったのになー。ねえ愛ちゃん」
浩二 「あ、時間が時間が!(ゆずを取り戻して)お義姉さんまた!電話ください」
ゆず 「何なになに。行くんなら一緒に行こうよ」
浩二 「いや大丈夫です大丈夫ですまた今度!」
ゆず 「何よ。何か変じゃない?」
麗子 「それじゃお姉ちゃんまたね」
ゆず、何故か帰らされていく。
一同 「はあああ(ぐったり)」
修一 「何とか誤魔化せたみたいですね」
弘一 「誤魔化せてたか?」
麗子 「ギリセーフってとこじゃない?」
今日子 「疲れました」
浩二 「無理だろこんなの」
弘一 「無理ったってしょうがねえだろ。こんなこと誰も信じちゃくれないよ」
麗子 「これからどうするのよ」
弘一 「まずなるべく人と会わないようにしよう」
麗子 「そうだね・・・」
今日子 「生活はどうしたらいいんでしょう?」
弘一 「お前たちのことを考えると一緒に暮らしたほうがいいとは思うけど、赤ちゃんのことを考えるとなあ」
麗子 「別々のほうがいいってこと?」
弘一 「さっきのおっぱいのこともあるし、ここはおっぱい中心に考えよう・・・何言ってんだ俺?」
浩二 「えー!じゃあ俺、キョン姉と一緒に生活するってことかよ」
弘一 「仕方ねえだろ。世界のおっぱいは麗子ちゃん、愛のおっぱいは今日子なんだから」
浩二 「いい年したオッサンがおっぱいおっぱいって」
弘一 「お前たちのことを考えて言ってんだよ。こっちだって頭がおっぱいおっぱいなんだから仕方ねえだろ」
麗子 「仕方ないね。分かったそうしよう。麗子ちゃんもいいね?」
今日子 「はい」
浩二 「俺は麗子と暮らせないってことかよ」
弘一 「まあ精神的にはそういうことになるな」
浩二 「マジで?」
修一 「あの」
弘一 「修ちゃんもいいね」
修一 「仕方ないのは分かってるんですけど」
弘一 「どうした」
修一 「浩二くんは今日子ちゃんの実の弟だから一緒に生活したこともあるわけじゃないですか。僕の場合、麗子ちゃんは・・・ごめんね、正直他人じゃないですか。どう暮らしたらいいか途方に暮れます」
弘一 「そうだよなあ。家族とはいえ血は繋がってないもんなあ」
今日子 「・・・すいません」
麗子 「ちょっと!男二人がわがまま言わない!麗子ちゃん困ってるじゃないの!仕方ないでしょこうなっちゃったんだから。全ては世界と愛のため」
今日子 「でもいつまでこのままなんでしょう?もしずっとこのままだったら・・・」
浩二 「え、ずっとって?」
修一 「戻る保証はないんですよね・・・」
麗子 「どうしようヒロ兄!」
弘一 「そのときは・・・みんなで一緒に住もう!」
みんな 「うーん・・・」
弘一 「いいじゃんなあ、世界、愛」
うーん・・・のまま、暗転。
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公演台本「ありふれた愛、ありふれた世界」
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