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最近飲んだナチュラルワイン-73

自宅のエレベーター前でボタンを押さずに突っ立って18秒ほどが経過してから気付いてボタンを押した時にああなんて美しいひと時だったのだろうと思ったのは、移動を前提とせず、どこにも行けない状態に魅せられたからでしょうか?いいえ、イヤフォンから流れていたThe Weekndの歌声が美しすぎたからに違いありません。


・ヴェネト
・コスタディラ
・ぐるぐる モツ/モスカート、グレラ

でもその18秒間に聴いてた曲が時間が無いことを意味する「Out of Time」だったのも感慨深かったり。

いつも生き急いでいるフリをしているだけなんですよね結局。もうどうせある意味では時間切れなんだから、日常の些細な十数秒間を無駄にしたと嘆くよりも、美しいひと時だったと突き放す方が、自分を健やかに守れているということなのでしょう。

そうやって健やかに穏やかな光を放つ瞬間というのはもちろんワインを飲んでいても訪れるわけでございます。こちらの「ぐるぐる」もそんな瞬間を映すワインでありました。

なんと言っても、特筆すべきは10分で豆ったこと(ナチュラルワインに特徴的な劣化の一つ)。

私は好きなワインを秒で売るのと相手の優しさに依存した突き放すようなコミュニケーションを武器に幡ヶ谷のワインバーで働いているのですが、このワインを5杯瞬時に売るのも朝飯前でございました。

しかし、その後少し目を離したすきに豆っていて、あと2杯売ることができずにthrow it away。

まぁ豆る前は本当に美味だったので、その時の舌の記憶を頼りに今後を力強く生きることは勿論可能なのです!!生き抜こうぜ!!


・スロヴェニア/プリモルスカ
・クメティヤ・ナンド
・マ・ヤンタル ベロ・スーホ・ヴィノ2018/マルヴァジア100%

バッチバチに明るく華やか。酸味もしっかりとあって存在感がとにかく強い。

まるでスロヴェニア出身のNBA選手ルカ・ドンチッチの華麗なオフェンス力を彷彿とさせる。でも、テクニカルファウルの多いルカ・ドンチッチの事が少しだけ苦手だったりする私は、この例えを絶妙と思いつつも、彼の赤ら訴え顔を思い出し、少しだけ後悔している。


少しだけって言い重ねる時の程度は大体少しじゃないよね

それにしても圧倒的な「これぞオレンジ感」に満ちたワインで大満足。自分一人で永遠に飲んでいられるが、人にも薦めまくりたい一杯。こういうオレンジワインを飲み続けるためにワインを飲み始めたような気もするし、ともするとこういうワインを飲むために生まれてきたと錯覚しそうになるも、自分が成し遂げるべきことを健やかに成し遂げられる状態を作るためにこのワインはあるのだと、酔った頭で真っ当なことを考えたりした。


・スペイン、カタルーニャ
・オリオル・アルティガス
・SOS NO.10 セバスチャン・ピエ 2020/チャレロ100%

パーティの小休止に飲んだワイン。

味わいは覚えていないけど、抱いた感情(怒り)については忘れない。

自分が何に苛立つのかはしっかり把握しておきたいタイプなのだ。でなくては後の自分に成長を感じづらく不憫ではないか。

端的にいうとパーティで「自分は縦社会で生きているから口の利き方に気をつけろ」と一歳上の鹿児島出身者に言われ、「あなたは縦社会で生きているかもしれないが私はそのような社会に生きてはいない」と青森出身の私は軽快に言い放って会場を飛び出し、行きつけの店でこのワインを飲んだ。

捨て台詞こそ軽快に放てたが、心中は穏やかではなく、自分のことを稚拙だと感じていた。そんな中でこのワインに救われた、というお話だったら綺麗で良かったのだが、本当に味に関しては覚えていない。

ただ、このワインを飲んだ行きつけの店先の小さなベンチは、確実に一人の酔い人を受け入れる空間となっていた。そのような気分でなかったら、カウンターに行って誰かと話していたかもしれないが、頭を冷やすためには自分一人の小さな空間と夜風と酒が必要であったのだ。

お酒とはしばしばその液体の内容ではなく、その液体を取り巻く環境にこそ救いがあるものだが、それを常々前提にすると味覚を疎かにしかねないため、しかばねになりそうな時にしか、そんな飲み方を強調しないように、私は努めるつもりである。

ちなみに本記事のサムネは、私の怒りが収まった後に飲んだラディコンである。ふふ

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