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『一人称単数』(村上春樹)「品川猿の告白」を読んで。⑦

 村上春樹、6年ぶりの8作品からなる短編集です。自分は村上春樹好きで、本書を1作品ずつ紹介しています。ネタバレあり、閲覧注意です。今回は7作目の『品川猿の告白』。

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【あらすじ】
 僕は群馬県の温泉に旅行に行き、小さな旅館に泊まることになる。その夜温泉に「人の言葉をしゃべる猿」が背中を流しに来る。猿は品川に住む教授から言葉を教わったと言う。

 猿は温泉宿の従業員で、会話が盛り上がったこともあり、終業後に、僕の部屋に招いて身の上話を聞くことにした。

 猿は、人間と猿と両方の社会に馴染めず、また、恋した相手は人間の女性であった。しかし恋心は叶わず、代わりに「名前を盗む」ことをする。

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【解説】
 油断していました。これは面白いです。8作の短編うち、4作目がメインだと思っていたので嬉しい誤算です。村上春樹的SFの良さが出ています。

 自分は村上作品の中では、『海辺のカフカ』が一番好きなのですが、今回の品川猿を含め、村上春樹作品にはSF要素は欠かせず、

『羊をめぐる冒険』(1982年)
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)
『海辺のカフカ』(2002年)
『1Q84』(2009年) など、これらの4作品は特に好きな作品です。  

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【感想】
 感想は深く語るまでもない気がします。これは読んだ方がわかりやすい。おもしろいから。面白いと思う理由は、①世界観に入り込めること、②先が気になる展開であること、の二つです。

 面白い作品だと、文字を読んでることを忘れて、全ての場面が映像化されます。これは東野圭吾や宮部みゆき、京極夏彦の世界もそうです。

 物語中での「言葉を盗まれた」女性は、数分間、自分の名前が言えなくなります。猿が説明するには「名前の厚みが少し薄くなる」とのこと。

 この物語を読んだなら、この先、自分の名前を忘れてしまった女性を見かける機会があれば、「猿に盗まれたのかな?」と思ってしまうでしょう。


【読書感想文31冊目】


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