古本をめぐる冒険 宮沢賢治「風の又三郎」
本棚の中から、装丁が魅力的な書籍を紹介。今回は「宮沢賢治 風の又三郎」の復刻版です。装丁と挿絵を手がけたのは、小穴隆一氏。
函つきの豪華な装丁です。「柿色」と「朱色」の中間といえばよいのでしょうか。昭和という時代をそのまま取り込んだかのような、繊細で力強い色合いです。
裏側。表紙では白馬だけでしたが、こちらでは二頭の馬が「顔をならべて」駆けています。姿勢や脚の位置などから疾走感が伝わってきますね。
背と挿絵。佐太郎が妹かよの鉛筆をふところの中に入れ、机の上にうつぶせになっている場面。挿絵は他にも数点収録されているのですが、個人的にはこの絵が印象に残っています。
スピンは水玉でした。細やかな工夫が楽しいです。
坪田譲治氏の解説より
本作に収録されている坪田譲治氏の解説の中で、装丁について触れている部分を引用します。
この本の箱から表紙から、中のさしえ一切、小穴隆一先生にかいて貰うことになつたのは、それだけで、本を出してもいい理由になると思ひます。きっときれいな良い本になって、皆さんの机の上に開かれるでせう。
小穴先生は今頃東京からわざわざ岩手県へ出かけて居ります。そこで山を見たり、子供を見たり、動物を見たりして、この本の中に出て来るもの、みんな写生してくると言つて出かけました。
以前紹介した「グスコーブドリの伝記」の装丁を手掛けられた横井弘三氏も「汽車で上野から12時間かけて花巻まで取材に行った」そうですが、小穴氏も岩手で取材を行っていたのでした。
それらの時間と労力を費やして制作された「きれいな良い本」は、今でもこうやって私たちに楽しさを与えてくれます。このような仕事をしていきたいものだ、と最近つくづく思うようになってきました。私も、今まで吸収してきたことを形にして表現していこう。ていねいにがんばろう。あらためて、そう考えたのでした。
ちなみに、小穴氏が岩手で出会った男のエピソードが「又三郎の学校」に書かれていますので興味がある方は、読んでみてください。「馬」つながりの内容になっています・・・。
※引用部分は、一部現代かなづかいへ変更しています。
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