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社長の始末書 24 枚目〜人生はマンガだ!〜

いつだってあなたが主人公

B社との契約解除を受けての、どんちゃんとの緊急ミーティング。私は落ち込んでいるのをなるべく悟られないように振る舞いましたが、声は震えていたかもしれません。

どんちゃんはいつもの通り立ったまま、最後まで私の話を聞いてくれました。

ど「状況は理解した。で、どうする?」

私「…まず、今回は先行投資をした分、かなりの損害が出てしまいました。これはすべて私の責任です。本当に申し訳ありません。」

ど「まぁ、みんなそれぞれの立場があるし、思惑もある。誰も悪くないよ。で、サトシはどうしたいの?」

私「…チームのみんなが私に失望していると思います。B案件もそうですが、ウォンツでもこれからどうしていったらいいのか、私には正直…」

ここで私は不覚にも声を詰まらせてしまいました。

するとどんちゃんは私に向かい、ダンボの耳も疑うような一言を発したのです。

ど「サトシ。悩むな。マジになるな。」

私は弾かれたように顔を上げました。

この期に及んで、マジになるな? なにを言っているんだこのヒトは? 

どんちゃんはそこでイスをくるっと反対向きにしてまたがり、腕を組んでこう言いました。

ど「サトシ、人生なんてマンガだと思え。」

私「ま、マンガですか?」

ど「そう。順風満帆なマンガなんて誰が面白がる?

たとえば、連戦連敗だった弱小野球部が、めっちゃ練習して強くなった。だけど県大会の決勝でものすごい強敵があらわれて負けそうになるとするじゃん。そのキャプテンがサトシだよね。

甲子園への出場をかけた試合は絶対絶命のピンチ。みんなはもう試合を諦めかけている。

その時、サトシがスックと立ち上がり、仲間に向かってどんなセリフを言うか。それ次第でマンガは一気に面白くなるし、逆に面白くなくなるときもある。

人生も同じだよ。ワクワクする物語は、ピンチがあってこそ。

それこそ将来、サトシのお子さんがドキドキして読み進めたくなるような、ドラマチックなマンガ人生を自分で作れば良いのよ。

だから結論として、サトシの心のままに進めばいいってことだね。」

…なんという例え、そしてなんという結論でしょうか。この表現はおかしいかもしれませんが、どんちゃんの言葉こそ、マンガそのものです。

私「…お気持ちは嬉しいのですが、でも会社としてはとんでもないレベルの大損害です。マンガだなんてとても…」

どんちゃんは背伸びをしながらこう返します。

ど「まぁ、これで会社がヤバくなったらバイトしようや。で、そのお金でみんなに給料払おう。俺とサトシならいくらでもやり直せるよ。キミもド貧乏だったクチじゃん? ま、俺の方が貧乏だったけどね(笑)。元に戻るだけじゃん。」

もう、なんて言っていいか分かりません。

溢れる涙を手で拭いながら、ありがとうございます、と、なんとか口に出しました。

私の常識を吹き飛ばす、どんちゃんの優しくてクレイジーな言葉に、心と身体がふっと軽くなったのは事実です。最悪の状況を真っ先に受け入れ、一緒に前を向こうと言ってくれる人がいる。これほど有り難いことはありません。

私のやりたいようにやれば良い。

その言葉を受けて私がまず思ったのは、チームメンバーに心から謝りたい、ということです。私はすぐにそれぞれの会社に伺い、ことの成り行きを包み隠さず伝え、全てが私の不徳の致すところだと謝罪しました。

あるパートナー企業の社長は、そんな私を許すどころか、言葉の端々に私への思いやりが溢れるメッセージを送ってくださいました。その社長も大きな損失を被ったのにも関わらずです。私のせいでこんなことになってしまったのが本当に悔しくて、申し訳なくて、有り難くて、そのメッセージを読みながら車の中で一人泣きました。

私はその時誓いました。今回のチームメンバーには一生かかってもご恩を返そうと。そしていつの日か、そのご恩以上のハッピーをお返ししよう。もちろん、ご迷惑をかけたB社に対しても同じく、いつかまたお役に立てる日を夢見て頑張ろう。

この気持ちはいまも片時も忘れたことはありません。

さて、それから続く私のマンガ的失敗談は枚挙に暇がないのと、ひとつひとつの案件を詳しく書き出すとそれぞれ本が一冊ずつ書けるくらいの密度があります。紙面と私の失敗をさらけ出す勇気には限りがありますので、その一部をダイジェストでご紹介します。

なお、これらはすべてEC代行案件となります。

<失敗事例:C案件>

結果:1 年で頓挫
理由:クライアントがアイテムの完成度に納得がいかないとのこと。ご要望通りに作り直したが、それも受け入れてもらえず。
損害:ページ作りやマーケティング、商品開発全般
失敗の原因その1:私の統率力不足
失敗の原因その2:クライアントとのコミュニケーション不全

<失敗事例:D案件>

結果:3 年で撤退
理由:赤字とリソース不足
損害:物流メインでの累積赤字
失敗の原因その1:設定していた事業の撤退ラインを超えてもずるずると続けてしまった。事業のブレイクを期待し、赤字を長く垂れ流してしまった。
失敗の原因その2:こちらもクライアントとのコミュニケーション不全があった。

<失敗事例:E案件>

結果:半年で撤退
理由:最高のアイテムを製造できたが、販売後に不良品が少なからず発生し、クレームが殺到。継続を断念した。
損害:ページ作り、マーケティング全般。相当の先行投資を行った。
失敗の原因:不良率が高いと分かった時点で、即刻販売停止を取引先に提案するも、議論は平行線。代替の新製品に期待したが、結局出すことが出来ずに撤退。私の危機管理不足。

いやあ、書いていて本当に情けないです。恥ずかしいです。

これらの失敗にもどんちゃんは毎回「良い勉強させてもらったじゃん!」と前向きに励ましてくれるのが救いでした。

でもこう書くと、どんちゃんはまるで仏様のような方かとみなさん思われるかもしれませんね。ここで断っておきますが、すみません、どんちゃんは仏様ではありません。

今までリアルでお会いされた方はお分かりかもしれませんが、普段から発しているなんとも言えないコワモテオーラを裏切らず、怒らせたら鬼以上に怖いです。でもいつもはとんでもなく優しいのです。悩み苦しむ者の味方です。

どんちゃんだけではありません。失敗だらけの私を常に支え続けてくれた人がいます。それがくまさん、どんちゃんの妹さんである、みっこちゃんです。

長男くまさんはみっこちゃんを溺愛しており「みっこは何をしても可愛いんだよね〜♡」と私にのろけます。あのどんちゃんも「みっこだけには頭が上がらない」と言うほど尊敬しています。実は私も3 人兄弟の末っ子なのですが、どうやったらあんな仲が良い兄弟になれるのか、いつもうらやましく見ています。

私が思う、彼らの仲良しの秘密はやっぱり、みっこちゃんの存在です。

くまさん、どんちゃんは人の役に立つことを命がけで行うという志を除けば、見た目も性格も、全てが正反対。ある意味、水と油ですね。でも、みっこちゃんがいればひとつになれる。そう、みっこちゃんは兄妹の中の界面活性剤(水と油を混ぜる成分)なのです。「かすがい」とも言えますね。

そんなみっこちゃんは常に、スタッフと私とのかすがい役に徹してくれていました。コミュニケーションがヘタな私が、彼女のきめ細やかな気遣いと思いやりにどれだけ助けられてきたか、数えるときりがありません。

そしてもうひとり、いつも陰に日向に私を助けてくれていたのが、副社長である伊藤敦子です。

彼女ほど論理的に物事を捉え、スマートに実行に落とせる人はいません。プログラマー出身というのもすごく頷けます。さらに驚くのは、その賢さと同時に深い母性も兼ね備えているということ。とにかく、優しいのです。信じられないくらい自然に、人の心にすっと寄り添うことができます。

そんなウルトラ級の芸当ができる理由は、彼女には常人離れした「観察眼」があるからです。そしてその観察眼は、みっこちゃんと同じく「深い思いやり」から湧き出ているのを強く感じます。

二人はまさに、私にないもの全てを持っている存在で、本当に尊敬、いや畏敬、そして感謝しかありません。しかし、それだけに私はいつも彼女たちに甘えがちで、そこも反省の毎日なのですが…。

こうやって、周囲に支えられながらデコボコ道をなんとか進んでいた私ですが、はい、またやらかしてしまうのです。次に待っていた落とし穴は「スタッフの大量離職」でした。その種を蒔いたのは、他ならぬ私です。


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