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社長の始末書 1 枚目〜奇跡の出会いは必然に〜
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「おー、サトシ久しぶり! 15 年ぶりだって〜?」
大きな声で、ノックもなしに会議室に入ってきたのは「鈴木洋(すずきひろし)」。当時32 歳。
短髪を金色に染め上げ、薄い青色のサングラス。細身ですこし猫背。だのにスーツ着用というなんとも形容し難い独特のワイルドファッションですが、コワモテのわりに笑顔は子どものように屈託がありません。
彼は当時、パソコン教室経営およびITソフトの映像教材を製作販売する、株式会社ウォンツの社長でした。
実兄のメイン講師「くまひげ先生」とともに、自らも「どんまい先生」という芸名で教材に出演している彼は、地元でも珍しいIT系ベンチャー社長ということでニュースにもよく取り上げられ、ちょっとした有名人でした。
私自身、彼の活躍を知ったのは地元のテレビ局に取材された番組を偶然見たからです。
「お久しぶりです! はい! 僕も会えて嬉しいです!」
私は当時29 歳。どんまい(以下どんちゃん)とはじつに15 年ぶりの再会となります。
私が初めてどんちゃんと会ったのは、1989 年。ベルリンの壁が崩壊した年ですね。
私が14 歳、中学2 年生のときでした。実はどんちゃんは私の4 歳上の兄と同級生で、二人は大親友だったのです。彼らの共通の趣味は音楽で、一緒にバンドもしていました。
私は中学生当時、自分で言うのもなんですが、結構マジメなほうでした。というのも、兄がなかなかのリアルヤンキーで、両親がいろいろと苦労をしてきたのを見てきた反動があったからです。
「自分はなるべく心配をかけず、安心させよう」
そんな思いをモチベーションに、国公立大学への進学を目指し、自分なりに勉強を頑張っていました。
家にお金がないことも知っていたので、塾には行かず、学校でもらった問題集に鉛筆でうす〜く答えを書き込み、消しては何度も繰り返し使うという、エコ極まりない勉強法を編み出しました。それを友達に真剣に教えたところ、真剣に同情された記憶があります。
そんな私がある夕方、いつものように自分の部屋で勉強をしていると、階上にあった兄の部屋からギターをかき鳴らしながら楽しそうに歌う声が聞こえてきました。
今までも何回か、兄の部屋から歌声や音楽が聞こえてきたことはありました。そんな時は耳栓をするか、逆に大音量で音楽をかけるかして全力で無視していた私ですが、この日は違いました。
なにせ、歌声が異常なくらい大きいのです。まさに常人離れした声量だと感じました。しかも上手。兄の声ではないようです。そう思うと、いったい誰が歌っているのか、ものすごく興味が湧いてきます。
さらに、時折交じる爆笑の声にも心惹かれてしまい、もうじっとしていられません。
勉強は一旦休止! 私は意を決し、静かに階段を上り、忍び足で兄の部屋に近づきました。部屋のドアは少しだけ空いています。気配を消しながら覗いてみると、兄ともうひとりの青年が向かいで座椅子に座り、ギターを抱えて歌っていました。
兄の部屋なのに、まるで自分の部屋のように我が物オーラを放ちつつ熱唱する青年の正体は、、、そう、彼に違いありません。
兄の同級生「すっちゃん」。その存在は兄からよく聞いていました。その人となりは兄いわく、
「めちゃくちゃだけど、優しいヤツ」
ということで、これほどイメージが湧きづらい人物評も珍しく、個人的に昔から興味津々でした。
その「すっちゃん」こそ、現「どんちゃん」です。
すっちゃんはあたかもミュージシャン然とした長髪をなびかせ、おしゃれなロック兄さんといった印象ではありましたが、眼光だけはやたら鋭かったのを覚えています。
「おー、キミがサトシか?」
と私に気がついたすっちゃんが声をかけてくれました。私がドアの影に立っていたことを、特に驚いてはいないようです。
私は幼い頃から「超」がつく人見知りですし、こっそり覗いていたこともあって、その時は一瞬ドギマギしましたが、不思議とすんなり、すっちゃんとにこやかに話ができました。
「いま何歳なの〜? 得意科目はなんなの〜?」などの質問に答えていると、突然すっちゃんが大声で言いました。
「あ! 俺、天っ才! めっちゃいいこと思いついた。
サトシ、バイオリン持ってきてよ。一緒にやろう!」
私は驚きました。実は当時、私は父親からバイオリンを習っていたのですが、すっちゃんは何故かそのことを知っていたようです。
そしてもっと驚いたのが、自分のことを「天才!」と堂々と言い放つ人が存在する、ということ。しかも初対面で。こんな人は初めて見たので、内心ビックリでした。
でも、私が参加するというアイデアを天才的だと思ってくれたことが嬉しくて、ダッシュで階段を駆け降り、バイオリンを取りに行きました。
そこからビートルズの「Let It Be」、ベン・e・キングの「Stand By Me」、かぐや姫の「なごり雪」などなど、歌詞とコード譜が付いている歌本に掲載されている楽曲を片っ端から演奏し、歌っていきました。
当時、私の実家はわりと大きめなコンクリート製の一軒家でしたから、大声を出しても隣近所に迷惑がかかることはありません。
三人だけの演奏会は深夜まで続きました。弾いて、歌って、笑って、喋って、また歌って。音楽、特に歌うことが大好きだった私は「人生って、こんなに楽しい瞬間があるのか!」本気でそう思いました。
大げさではなく、心、いや、魂からの爆発的な喜びを感じたのです。
ああ、僕はいま、生きている!!!
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