episode36 運命の2日間
電話ではどうしても聞き取れなくて「天王座、入ルですか?」と、謎の京風な地名を連呼する僕を見かねて、石田さんがテーブルにあったティッシュの箱の側面に「天王洲アイル」と書いて僕の前に出してくれた。僕は必死で笑いをこらえ、「すみません」というジェスチャーをしながらその電話相手と話し、東京モノレールの天王洲アイル駅で待ち合わせる約束をした。
石田さんが「とても強い会社だ」と言ってくださった会社の方との面談だった。ものすごく人気のある歌手の方がやっているミュージカル公演を観せて下さるのだという。
小学生の時に、学校公演で僕が通っていた大阪市立平野小学校に来てくれた劇団四季の『キャッツ』を観て以来の舞台観劇だった。アートスフィアというその劇場はとても大きく、僕はその男性と一緒に最後列に用意された関係者席に座ってそのミュージカルを観た。素晴らしい作品だったけど、自分がそこに立つ側に回るというのは、まだどうしても想像できなかった。
劇場を出ると近くの喫茶店へと移り、その方が働いている事務所で請け負っている他の仕事の話をたくさん聞かせてもらった。どれも今みんなが学校で話題にしているドラマや映画の数々だった。僕がかなり感じ入っていることに手応えを掴んだのか、席を立った瞬間に僕の手をとり「私なら、君をスターに出来るよ」と言ってくださった。僕はすごく嬉しかったけど、そのことをあまり顔には出さないようにして、「ありがとうございます」とだけ伝え、その店を出た。
駅の改札に上がるエスカレーターに乗っている時に、その男性がふいに言った。
「その、いつも笑っているような瞳をしてるの
は演技?それとも自然に?」
いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨