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新米院長奮闘記 Dental Tendency 金パラ色の波紋疾走〜その3

患者さんが来ないと、次第に気分も落ち込んでくる。

些細な事でイライラし、怒りっぽくなる。

スタッフのちょっとした行動や、どうでも良い事が目につき、つい口を出してしまう。それも小姑のように、ねちっこく嫌らしい言い方をしてしまう。

元来、自分は割と大雑把で適当な性格なのだが、こんな時だけA型の細かいところが出てしまう。

次第に、診療所内の雰囲気も悪くなって行った。

そして、そんなある日の診療中に事件は起こった。

【こぼれ酒事件勃発】

その日は、小さな虫歯がある患者さんの治療をしていた。虫歯を取り除き、歯を削った部分に入れる小さな金属の詰め物を作る型取りをし、詰め物が出来上がる次回の診療まで仮の蓋をするのだが、この仮蓋は粉と液を混ぜて作る。

ダッペングラスという、おちょこを小さくしたようなガラス容器2つに、粉と液をそれぞれ入れて用意するのだが、歯科助手Hさんはダッペングラスに溢れんばかりに

なみなみ

と液を入れて持ってきた。

そう、まるで『よろこんで!』系の元気な居酒屋で日本酒を頼んだ時、グラスから下の枡に溢れさせて入れる、あの感じに。

それをみて僕はイラッとしてしまった。

(もう1ヶ月も経つというのに、この子は一体全体、今までアシストについて何をみてきたんだ。この小さなインレーの仮封にこの量の液が要るわけないだろう!なぜ、そんな簡単な事もわからないんだ!)

そして、それを実際に言葉にしてしまった

『あのなぁHさん、こんなたくさん液いらんやろ。もう1ヶ月も経つんやで。液もタダちゃうんやし、良い加減覚えてや!』

と、少しキツイ口調で言ってしまった。

今ならこんな事でイラッとしないし、したとしても絶対こんな言い方はしないだろう。

この時はもちろん自分自身の若さ、未熟さというのもあっただろうが、何より当初の計画通り患者さんが来ず、

『借金が返せるのだろうか?資金繰りがショートして、莫大な借金を背負い閉院になるかも、、、』

という、焦りと苛立ちがなせる業だった。

まさに『貧すれば鈍する』

彼女にそんな自分のイライラをぶつけてしまった。

そして、その言葉を聞いた彼女の顔はみるみる曇り、そしてこう言った、、、。

〜続く


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