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日本酒が飲める店にみんなで行きたい訳ではない

好きな酒の種類で言えば、ビール、ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキー、泡盛、カクテル…。私は割と何でも飲める。

一番を聞かれたら日本酒党だけど、だからと言って「アイツは日本酒が好きだから日本酒の置いてるお店を選んであげよう」という配慮は要らない。

風呂屋さんの近くのスタンドバー

お店を選ぶ人が「俺は一番コレが飲みたいんや!」というものを推してくれたら、私も美味しくいただけるので、そうして欲しい話。

安定性で言えばウイスキー

日本酒好きを公言しているけれど、家に専用冷蔵庫があるほどのガチ勢ではない。そんな私が家で晩酌する時には、缶ビールかウイスキーの方が多い。

私の好みで点数を付けると、気軽に買い求められる缶ビール・ウイスキーともに常に80点は取れる。オーセンティックなバーでちゃんと入れてもらうと90点を超えることもあるけれど、おうちで作ったハイボールもそこまで悪くはならない。常に80点はとれる。

秩父で熟成されたイチローズモルトウイスキー

※この点数は私の主観であり、当然あなたの点数とは違う。あなたの点数を参考に教えていただけるとフムフムするし、手に入る範囲のオススメは試してみるので、推しは歓迎。

一方の日本酒は、本当に美味しいものは95点を超えるけれど、油断すると60点、50点まで下がってしまう。その原因は、保管の状態が良くなかったり、開封して時間が経ってしまったりして、味が落ちてしまうことにある。

晩酌用に買った東長@佐賀

家で四合瓶の日本酒を開けることもあるけれど、開封すると一気に飲み切らねばと焦ってしまう。気が向いた時に少しだけ晩酌をするのに、日本酒は少しハードルがある。

火入酒と生酒で区別するなら

日本酒を分類するなら、特定名称酒もあれば、原料や製法や味わいなど、切り口は無数にある。取り扱いの観点だけで言えば、日本酒は火入しているか否かに分けられる。

火入れによる加熱殺菌で長期保存ができるようになり、品質が安定するようになる。なんと、室町時代初期に書かれた「御酒之日記」には、すでに火入れの技術が確立されていたことが記されているというから驚き。

今代司@新潟で見学した火入釜

火入酒は常温で扱えるので気を遣わなくてよい。私評価で、開けたてで85点を超える火入酒もある。飲み始めた一升瓶を野菜室に入れてチビチビ晩酌しても、最後まで70点台はキープできる。

でも、最高点を叩き出すのは生酒だろう。脳は本能的にナマに快感を得るように出来ているのかもしれない。知らんけど。私評価で言っても、95点を超えるのは最高の状態で出された生酒である。

信州亀齢 真里ラベル

書籍「風の森を醸す」によると、生酒の持つ舌や口に含んだ時の立体感、とろみ、粘性などのテクスチャー豊かな部分を楽しんで欲しいという想いで、風の森は生酒にこだわっているのだとか。

開栓から数日で味が変化するのも生酒の面白さではある。でも、5℃に保てる専用冷蔵庫をもってしても、1ヵ月は持たない。保管状態が悪いとなおさらで急降下で50点以下まで下がる。

だから、日本酒の生酒に対しては特に「どこの銘柄やブランドだから美味しい」とは断言できない。途中の卸、流通、小売すべてが噛み合っていなければ美味しくは飲めないからである。

日本酒の経験経済

「モノからコトへ」を持ち出すのも今更感はあるけれど、それでもやっぱり日本酒を飲むと「経験経済」を感じる。

プロダクト(モノ)そのものに価値が込められているという従来の考え方から、モノを利用して得られる経験(コト)に価値があるというパラダイムシフトを扱う。解説は適当な記事にまかせる。

どんな状況でもそこそこの日本酒が楽しめるプロダクトとして、「カップ酒」「パック酒」がある。既にコモディティと化しており、わざわざ有難がって買おうとは思わない。旅先で気軽なお土産として買うことはある。

長久@和歌山

私が割高でも飲みたい日本酒は生酒であることが多い。でも、新政、而今、飛露喜、…といった銘柄が有名なお酒さえ手に入れば済む訳ではない。

ファンの間では有名な飛露喜@福島

口に運んで「うまい!」という体験になるように、製造、流通、小売、保管すべての工程で噛み合ったサービスでなければならない。そうやって初めて次のステージにゆける。

飛露喜で有名な廣木酒造が地元民向けにつくった泉川の純米吟醸

味わいの違いを楽しむ要素(Entertainment)や、入手困難なお酒を手に入れて飲む特別感(Escape)もある。

同じく廣木酒造が地元向けに造る菊泉川吟醸

それだけではなく、原料や製法がどのように味わいとつながるのかを学ぶ要素(Education)や、杜氏さんの生きざまや神がかり的な酒造りを味わう要素(Esthetic)もある。経験価値の4Eが揃う。

日本酒の店選び話に戻って

高尚な味わい方はさておき、お店で美味しい日本酒を飲もうとした時に、情報として足りないことが多い。

どんなスペックの日本酒が置いているのかは、お品書きを見れば大体わかる。「日本酒」としか書いていない場合は読み取れないけれど、それなりという判断はつく。

十四代で有名な高木酒造が地元向けに造る朝日鷹

例えばスペックが「銘柄○○の特別純米」だと判明したとして、「いつ開栓したの?」「どうやって保管しているの?」なんてことは知る術がない。味わいにとってすごく大切であるにも関わらず。

目で追える情報としては、ボトルを見せてもらえれば一升瓶か四合瓶かはわかる。見えるところに冷蔵庫があれば、野菜と一緒に冷やしている訳ではないことはわかる。それをウリにしているお店は見せていることも多い。

スタンド心白@大阪本町の冷蔵庫

開栓してどのくらい経つのかは、お客さんがどのくらい入って、そのうちの何割くらいが日本酒で、これくらい回転するはずだから新鮮かな?とフェルミ推定するしかない。

状態がどうあれ美味しければ何でもいいんだけど、問題は「イマイチだなぁ」と感じた場合にある。プロダクトとして口に合わないのか、ポテンシャルを発揮しきれていないのか判断がつかない。

入手困難な花陽浴@埼玉

もし後者で「〇〇という銘柄はイマイチ」という判断を下すとすれば、造り手に気の毒すぎる。だから、お店選びにはこだわりたい。一方で、店を選んでくれる人に自分のこだわりを押し付けるのは「ややこしい奴」が過ぎる。

冒頭の結論通り、お店を選ぶ人が「俺は一番コレが飲みたいんや!」というものを推してくれたらいい。方向性は違ったとしても、私は「好き」の原動力を信じている。ぜひ推して欲しい。

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