農業

農業革命は史上最大の詐欺だった!? 小麦によって家畜化されたサピエンスの真実/「サピエンス全史」思索日記Vol.3

サピエンス全史」を読んで咀嚼していく思索日記シリーズ、Vol.3!
意外と毎週楽しく書けています。題材の本が面白すぎるからかもしれないですね。

上巻、第5章の農業革命の話。

10000年ほど前、いくつかの動植物種の生命を操作することに、サピエンスは没頭するようになりました。

何の話かお分かりでしょうか?
そう、農業革命です。

農業革命と聞くと、僕はビジネス界隈でよく耳にするイノヴェイティブな逸話を思い出してしまいます。

「狩猟採集が当たり前の人々のなかに、あるとき種を土に埋めると植物が育つことに気がついた者がいた。彼は植物を自ら育てることで遠くまで狩りや採集に行かなくてすむと思い、土いじりに熱中した。周りの者はみな彼を頭が狂ったおかしな奴だと嘲笑い、相手にしなかった。1年後、彼は大量の食料を手にした」

...こんなニュアンスの逸話ですね。
要は「革新的なテクノロジーは最初は多くの人に理解されないので、世界を変えたければ笑われてナンボだ」といった、アントレプレナーシップ溢れるメッセージが込められているわけです。僕も何度か例えで使ったことがあります。

農業というイノヴェイションのおかげで人々が幸せになったということですね。

早速ですが、今回の思索日記Vol.3では、
農業革命は史上最大の詐欺だった件について整理していきます。第5章の前半部分に該当するかと思います。

上述した、イノヴェイティブな一人が農業で世界を救った的な話ですが、僕はもうたぶん二度と使いません(笑)。真実を知ってしまったのです。


小麦によって家畜化されてしまった、私たちサピエンス

まずは、最も衝撃的な部分を抜粋してみましょう。

農業革命は、安楽に暮らせる新しい時代の到来を告げるにはほど遠く、農耕民は狩猟採集民よりも一般に困難で、満足度の低い生活を余儀なくされた。狩猟採集民は、もっと刺激的で多様な時間を送り、餓えや病気の危険が小さかった。(第5章 P107,L8)

人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い休暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。(第5章 P107,L11)

農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。(第5章 P107,L14)

「史上最大の詐欺」とは穏やかじゃありませんね...
ではいったい誰に嵌められたというのでしょうか?

それは「小麦(など)」だと、著者は話を展開していきます。

※フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com),photo ELFA

では、それは誰の責任だったのか? 王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。(第5章 P107,P15)

このにわかには信じがたい話には動かし難い根拠がありまして、それは「小麦の立場から農業革命を見る」ことによって理解できてしまうのです。


小麦が全世界で繁殖できたのはサピエンスのおかげ

小麦の立場に立って考えてみると、小麦はサピエンスによって栽培されることで驚くほど繁殖したことがわかります。
今や世界全体の小麦は225万km2(日本国土の約6倍)の広さの地表を埋め尽くされており、どうやらその大成功の要因は、朝から晩まで小麦の世話ばかりしていたサピエンスにあるようなのです。

10000年前、小麦はただの野生の草にすぎず、中東の狭い範囲に生える、多くの植物の一つだった。ところがほんの数千年のうちに、突然小麦は世界中で生育するまでになった。生存と繁殖という、進化の基本的基準に照らすと、小麦は植物のうちでも地球の歴史上で指折りの成功を収めた。(第5章 P107,L18)

サピエンスは大変な苦労をして、小麦の大成功に手を貸すことになります

<農作業の重労働>
サピエンスの身体はリンゴの木に登ったり獣を追いかけたりするのに適した進化をしていたため、農作業の重労働には適していませんでした。この頃の人類の骨格を調べると、椎間板ヘルニアや関節炎に悩まされていたことがわかります。

<経済的安心がなくなった>
狩猟採集民は何十種類の多くの食材に頼っていたので、食料の備蓄がなくても生きていけたのですが、一方で農耕社会はその殆どを小麦やジャガイモといった単一の主要食材だけに依存していたので、天候や災害などで食材が十分に確保できないときは、何百万という単位で餓死する者が出てしまいます。

<人類同士の暴力が増えた>
農耕民は土地や食材など多くを保有するようになったので、人類同士の争いが増えてしまったと言われています。狩猟採集民は負けそうな戦いからは逃げて別の場所で生きればいいのですが、農耕民は全てを投げ打ってでも畑を守らなければいけません。
単純な農耕社会では、暴力は男性の死因の25%を占めていたという研究も多いそうです。

では、いったいどうしてサピエンスはここまでして小麦の世話に没頭したのでしょうか?
大変な想いばかりしていたようですし、僕ならサッサと小麦栽培なんてやめて狩猟採集に戻ってしまう気がします。何か見返りをもらっていないと説明できないと思いませんか?

なぜサピエンスは、小麦のお世話にここまで没頭したのか?

この最もな疑問に対して、本書ではふたたび衝撃的な回答がなされます。

それでは、いったいぜんたい小麦は(〜略〜)脳こ民に何を提供したのか?
じつは、個々の人々には何も提供しなかった。だが、ホモ・サピエンスという種全体には、授けたものがあった。小麦を栽培すれば、単位面積当たりの土地からはるかに多くの食物が得られ、そのおかげでホモ・サピエンスは指数関数的に数を増やせたのだ。(第5章 P111,L15)

つまり、「個々の人々を見たときに、農業は何のメリットもないのですが、ホモ・サピエンスという種全体で見ると、個体数を増やし繁殖するという意味でこの上ないメリットがあった」というのです。

農業革命によって、小麦もサピエンスも個体数を増やし繁殖できたのは事実ですが、

ですが...

それでも私たちは納得できる説明ではないですよね?
私たちひとりひとりが生きるときに、人類が存続するために自らの命を投げ出したりするでしょうか?
(思わずMr.Childrenの「HERO」という歌の出だしを思い出してしまう世代です)

実はその通りで、誰も人類全体の未来のために農業を選んだわけではなかったのです。
そこには、現代にも通じる恐るべき「贅沢の罠」がありました。

その罠についてはまた次回。そして、小麦に家畜化されたサピエンスですが、今後はサピエンスが家畜化した動物達についても触れていきたいと思います。

つづくのです!

※サムネイル画像 フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com),photo 宮﨑大輔




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