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小説「モモコ」【22話】第6章〜3日目:救出計画〜

「さて、モモコちゃんを助けるとは言ったものの、ふたりとも、どうするつもりなのかしら?」

 雉谷は3人分の緑茶を注ぎながら口を開いた。雉谷から自分にまつわる過去を聞かされた昨日と同じように、僕と雉谷、リリカの3人は雉谷病院の畳部屋に集まり、丸机を囲うようにして座っていた。くつろいだ気持ちになりきれない僕は、相変わらず分厚い座布団に正座していた。

「でも、この3人だけで乗り込むってことですよね?」

 僕が不安そうに言うと、リリカが嬉々として答えた。

「そう! この3人でモモコちゃんを助け出すの。映画みたいな話じゃない?」

「あなた、映画は観ないんじゃなかったの」と雉谷が笑った。「2時間じっとしてられないんでしょ?」

 リリカが「それはそれよ」と適当な返事を返す。

「でもそうね、ミンジョンの言うように、この3人でどうにかするしかないわ。警察に頼めない以上、もうそれしかない」

 不安そうな僕と楽しそうなリリカを見比べて面白がるように、雉谷の表情はにやにやしていた。

「私たちの目的はモモコちゃんの救出なんだから、チームメイトは多すぎても見つかりやすくなってしまうでしょ」とリリカが得意げに語った。

「チームメイトって、まるで部活動みたいな感じね」と雉谷が笑う。

 楽観的に語るリリカや雉谷の様子に不安を覚えながらも、その明るさに救われる心地がした。つい昨日まで、モモコを失いひとりで途方に暮れていたのだ。いま味方が2人もいるということだけで奇跡的だった。

「そういえば、ルンバの本名がわかったんだよね。えーと、なんだっけ?」

「犬養ヒトシ、らしいよ。僕も思い出せたわけじゃないからしっくりはきてないけど」

「ふーん。ヒトシね......。あんまり可愛くないなー。やっぱりルンバって呼ぶことにする!」

 リリカの甲高い声が畳部屋に響いて、場の空気と声質のミスマッチが落ち着かない気分を煽るようだった。

「ねえ、ルンバ。さっそくルンバのアイデアを聞かせてよ」

 リリカはそのテンションのまま、本題に斬り込み始めた。

「え、僕の...? そうだな、何よりまずはモモコと連絡をとりたい。計画を練るのはそこからでもいいと思う」

 急な振りに戸惑いながらも、僕は2人に話した。

「頭の良いモモコのことだから、誘拐されたあとも何か脱出方法を考えていると思うんだ。状況を一番よくわかっているモモコの意見をまず聞いたほうがいい。誘拐された子ども頼みの計画なんて情けない気もするけど、僕らにはあまりにも情報が少なすぎるから」

「同感よ。モモコちゃんは自分が誘拐される準備までしていたみたいだし、たぶん何かもう手立てを考えているはずね」

 雉谷が頷きながら言った。

「誘拐される準備? どういうことですか?」

 僕が尋ねると、雉谷は手元のバッグからモモコの保険証を取り出して机の上に置いた。

「エレベーター前でモモコちゃんが誘拐されたとき、その場に保険証だけが落ちてたと言ったわよね。おかしいと思ったの。ふつう、財布とかに大事にしまっておくものよ。財布を落としたならわかるけど、保険証だけ間違って落としてしまうなんて、不自然すぎるわ」

「たしかに」と僕は呟いた。

「そう思って調べてみたの。この保険証は、モモコちゃんからの何かしらのメッセージなんじゃないかと思ってね」

 雉谷はタブレットを取り出すと、目の前でGoogleブラウザを起動した。

「この保険証、ICカードになっていたの。とはいっても、記録されていたのは簡単なテキスト情報だけ。フリーメールのアドレスと、そのパスワードよ」

 雉谷は慣れた手つきでGmailを開き、受信ボックスを僕とリリカに見せてくれた。

「1件、メールが届いているわ!」

 リリカが画面を指差して叫んだ。

「そう、昨日の16時24分に、モモコちゃんからメールが届いている。i_am_momoko@gmail.comというメールアドレスはきっと、自分から送ったことを伝えたいんでしょうね」

件名:わたしの現在地情報
本文:福岡県直方市久次良5丁目5ー4

 メールにはそれだけ情報が記載されていた。

「これって、モモコが誘拐されて監禁されている場所をこのアドレスに送っているってことですよね?」

「そうね。簡単な機器だけど、何らかのGPS装置を持っていて、起動したらこのメールアドレスに届く設計になっているんじゃないかしら。常に同期させておかないのは、ネット回線でまわりバレないためだと思うわ」

「さすがママ! これでモモコちゃんのいる場所がわかったってことよね」

「すごいのはモモコちゃんよ。自分が誘拐されるのを見越して準備をしてたんだから」

 雉谷はそう言ってタブレットを閉じた。

「こちらからモモコのメッセージを送ることはできないんですか?」

「ああ、それね。すでに試したわ」と、僕の質問に雉谷は間髪入れずに返した。

「何回かメールを送ってみたけど返信はないわ。おそらく、送信機能だけがついた簡単な組み込み型プログラムの機器なんでしょうね。スマホが取り上げられたときの緊急用と考えるのが妥当かしら」

 とにかく、これで場所がわかった。いますぐその場所に向かいたいところだが、正面から行けばモモコはいないとシラを切られるだろうし、こっそりと忍び込んで救出するというのも、とても現実的とは思えない。

「そういえばミンジョン。さっきLINEで、いいことを思いついた、って送ってくれたけど、何かいいアイデアがあるの?」

「そうそう! その話をしたかったの!」

 リリカは嬉しそうに語り出した。

「その、なんとか会の導師様、だっけ? ムカつくのよね。だから、殺しちゃおうと思ってるの!」

〜つづく〜

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