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佐々木さとる⇄斑山羊
2024年3月14日 18:31
石が好き、と言ったな秀才の君がそう口にしたせいでもう諦めるほかはなかろう、と皆んなでがっかりしたのを知らないだろうゆく手につづく曲がりくねった長い道、いや途切れてしまう細い道、いや高みへとつづく一筋の道を登れ火口を探り、海溝へ挑んで求めよ未知の石を手に入れよ君が聞くのは惑星の出自の物語抱きしめようとした幼なじみを黴の湿地に置き去りにしたまま……峠への急な坂をお
2024年3月1日 00:15
下りながら着くかも知れない底のことを気にかけながら慎重に足をはこぶ上りながらどこかで途切れてはいないかと気をもみながら両足に力がはいる歩みをすすめればどんなに低いところへでもずっと高く遠い頂にさえたどり着ける地核に向く重力ベクトルを踏み板で細分すれば外の見てみたい光景へと自力で近づいてゆける魂の残り香と寂しみの重さを忘れてしまわないように、また階段の手
2024年1月23日 23:55
この駅を出るともう店がないからもう少し買い足しておこう、と言ってJ氏は売店に寄る。板チョコはエネルギー補給にも使えるし、包み紙の銀紙があとで役に立つからな、ほら五枚買えたぞ、と満足そうに品を受け取る。すぐに山の方へと歩き始める。向こうの橋の袂から沢を登るんだ、と指でさしつつ先を急ぐので慌ててついて行った。J氏は近所に住んでいる。親子ほど年が離れているものの子どものいないせいか、いろいろなことを
2023年12月1日 15:03
お彼岸には一族が集まることになっている。と、言っても集まるのはせいぜい十余人。立ち居が不自由になってきた伯父伯母は年を追うごとに減って、とうとう一人になってしまった母は車椅子で参加する。齢百と言われればそうとも見える老人もいる。幾人かの若い人は、どこの誰かもう判らない。菩提寺の奥に墓所がある。並んでいる墓石には、苔生したのも雨風に徹底的に丸められたのもある。殆んどの世話は寺男に任せているのだが、
2021年2月15日 10:25
〈先に行って、あとからすぐ追いかけるから〉 振り返る仲間に〈気にしないで〉と声をかける一緒にトレイル・ランニングしている途中で急に左手の指が重くなって遅れはじめるたかが指一本のことだから無視するつもりだったがますます重くなって、みるみる走れなくなった歩くのも徐々に難しくなって誤魔化せなくなった走り去る仲間の背に向かって大声を出す〈大丈夫だから、皆んなお先にどうぞ〉巨大化して仔犬
2021年2月7日 16:48
かなり離れた町から越してきて線路にほど近いアパートに住みついた少しの本とレコードしかない部屋にも朝日が射し込んで、風が吹き抜けたネオンを少し含んだ夜もやってきたいつものレコードに針を落とすだけで十分、楽しかったし一日中窓の外を眺めているたったそれだけで、どこか心がおどった画材を貸し借りしたり眠らずに製作を続けてもみたが大したものはあらわれなかった書きとめてはみたもののあ
2021年1月31日 07:38
「コーヒーをお願いします」「カフェ・オ・レをお願いします」五秒の間 空を見てから 「はい」三秒の間 にっこりと、笑うマスターにオーダーを伝えていつものようにこぼさずに 運ぶそう、いい調子 いい感じギャルソンもマダムも 見ていますがんばらない がんばらないこれでも力を合わせて 見ていますゆっくりゆっくりやって来た来た 「はい どうぞ」「どうも、ありがとう」