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[詩]写真

かなり離れた町から越してきて
線路にほど近いアパートに住みついた
少しの本とレコードしかない部屋にも
朝日が射し込んで、風が吹き抜けた
ネオンを少し含んだ夜もやってきた
いつものレコードに針を落とすだけで
十分、楽しかったし
一日中窓の外を眺めている
たったそれだけで、どこか心がおどった

画材を貸し借りしたり
眠らずに製作を続けてもみたが
大したものはあらわれなかった
書きとめてはみたものの
あとで読むほどの言葉に
出会うこともなかった

しばらくすると
その辺り一帯が再開発されて
一枚の更地のようになり
線路も地下に潜ってしまった

辺りのざわめきが少なくなって
住宅が行儀よく建ち並んでみると
かつての見なれた顔も足取りも
もう、見かけなくなってしまった

そのアパートのことは
写真一枚さえも残っていないから
こうして
あの時の見ていたままを描いておいて
すっかり耄碌したころに
眺めてやろう、と思っている

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