閉鎖病棟体験記1-2
■隣人
閉鎖病棟で初めての夜、やはり眠れなくて夜11時に起きてしまった。
「看護師さぁん…看護師さん来てくださいよぉ〜ねぇ」
「看護師さんどこぉ!!ねぇってば!!来いやオラァ!!」
そのような声と同時に扉や配給口のアクリル板を叩く鈍い音が響いた。
私はこの姿の見えない隣人にかなり苛ついていた。
何故こんな仕打ちを受けないといけないのか…
こんな隣人がいる場所に閉じ込められるのか…
湧いてきた怒り。爆発。
「うるせー黙れ××××おまえみたいな××はここから一生出れないんだよ!!」
などと暴言を吐いてしまった。
見かねた看護師さんが部屋に来て話を聞いてくれたのだが、
「隣人さんも体調が悪いからこうなってるだけで本人は悪くないんだよ」
と言った。
わかる。ものすごくわかる。病を憎んで人を憎まずの精神。
しかしこちらにそんな余裕はないわけで…そこで提示されたのが薬の追加。
狂った世界を過ごすにはこちらも狂わなければならいことを痛感した。
トイレの悪臭、壁を這うカナブンのような虫、もう何も感じなかった。
■保護室の外へ
朝7時、朝食の時間だ。パンにジュース、スープにジャム、質素なメニューが並ぶ。
歯が痛くまだ食べられなかったが回復したということをアピールするために無理やり食べたのを覚えている。
まだ身体のすり傷は痛かった。
食事が終わると、ガチャガチャッと厳重な鍵を開ける音がし、看護師さんが入って来た。
少し部屋の外で過ごして良いとのことだった。
廊下に出ると廊下は綺麗だが隣にある保護室は汚く錆びた鉄扉、アクリル板に仕切られた小さな配給口などが見えてなんとも言えない気持ちになった。
保護室がある区画はこんな感じだった。
L字になっていて一番酷い状態のひとが奥に入れられる。
しかし、患者に大差はない。
廊下には棚がありそこに歯ブラシなどの日用品を入れるようにできている。
また談話ゾーンに水とお茶の給湯器、洗面所があった。
■談話ゾーン
廊下を歩いていると掃除をしている人が2名ほどいた。看護助手の人だろうか。
私は談話ゾーンに行く前に看護師さんに夜な夜な叫んでる人のことを尋ねた。
もし会うことがあれば恐ろしいからだ。
そうするその隣人が謝りたいと申し出ているとのこと。
談話ゾーンに着くと日差しが入り込み眩しかった。
小さめのソファーにローテーブルがあり看護師さんを含め4人ほどいる。
看護師さんはかなり屈強な男性で患者のとりとめのない話の相手をしていた。
新聞を読みながら野球がどうとか語っている。
話をしているというより見張っているといった方が正しいだろう。
ソファーの後ろのカラーボックスにはボロボロになったこち亀や古めの雑誌、ジャンプ、コンビニ本と呼ばれるとんでも本や美味しんぼ、将棋セットが置かれている。
談話ゾーンを少し見ていると私は隣人に話しかけられた。
どんな狂った人物かと思ったのだが、小太りで脂っぽい髪に眼鏡、色の白い顔といった大人しそうな人物であった。
昨晩は申し訳ないと言ってきた。
私は気にしてないしこちらも申し訳ないと言ってた。
そして、ソファーに座りこち亀を手に取り読んだ。
こち亀は久しぶりに読んだのが面白かった。
何より一話完結で毒のないストーリーが精神的に楽であった。
この入院でこち亀にはだいぶ助けてもらった。
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