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世界一美しい会社「ブルネオ・クチネリ」 人間主義的経営/服に託して哲学を売る

世界一美しい会社と言われる「ブルネオ・クリネリ」社。

イタリアのソロメオ村。人口わずか500人ほどの小さな村にある。
2019年の売り上げは、日本円で770億。営業利益は105億円。キャッシュフローは、145億円。

創業当初から、「人間の尊厳を守ること」を経営の目標に掲げ、ブルーカラー、ホワイトカラーの区別なく、世界水準を上回る給与を支給。

会社の収益は、若者に技術を身につけさせるための有給で無償の職人学校の運営、劇場、図書館、公園、農園など、村の文化や自然保護の整備に投資している。

この会社には、多くの人間が、そして多くの企業が忘れてしまった大切なものが詰まっている。

テクノロジーが発達、グローバル化が進む今だからこそ、「正しい経営」を行うブルネオ・クチネリの経営哲学に触れてみることは、会社の存在意義や自身の働く意義を考え直し、正しい道へ軌道修正してくれるに違いない。

ブルネオ・クチネリとは?

1953年カステル・リゴーネ(ペルージャ市)の農家に生まれる。
1978年色鮮やかなカシミヤセーターを製造する小さな会社を立ち上げた。
当初から「経済的倫理的な側面における人間の尊厳」を守る労働という理想を掲げる。1982年以来、ソロメオ村は彼の夢を実現する場所となり、人文主義者として、また企業家として、数多くの成功を生みだす工房となる。

3年後、クチネリは村の崩れかけた城を買取り、そこに彼の会社を置く。2000年会社の成長に伴う生産施設増設のためにソロメオ村近郊の工場を買取り、改修。情熱を持ってソロメオ村の修復に取り組み、文化と美と出会いに捧げる「学芸の広場」を建設する。2012年ミラノ証券取引所に上場。同年ソロメオ村に「職人工芸学校」創設。その「人間主義的資本主義」によりイタリア国内外から数々の勲章や権威ある賞を受けている。イタリア共和国労働騎士勲章、ペルージャ大学哲学・人間関係倫理学名誉学位、キール世界経済研究所経済賞、イタリア共和国大十字騎士勲章など。


なぜ、彼の経営が注目されるのか?

ブルネオ・クチネリは、「人間のための資本主義」、人間の尊厳と自然との調和を事業の目的に掲げている。倫理的にも、経済的にも人間の尊厳を追求すること。ソロメオ村で、その目的を実現する。

一方で、経営者が時価総額や規模の拡大に走り、環境を破壊しても見て見ぬふりをし、会社のなかで不祥事やハラスメントが後をたたず、市場経済の仕組みは、ごく一部の投資家や経営者の富の集中に歯止めをかけられなくなっている企業が多い。

《ブルネオ・クチネリの経営哲学》
・人間主義的経営
・適切な利益と分配
・人間の尊厳を重んじる経営
・廃棄ではなくケア
・自然を壊さない
・美を大切にすること
・年輪を重ねたひとやものと未来の世代をつなぐこと
・愛のある豊かさ
・偉大なものは簡素である
・正しい労働
・正しい経営

《経営理念・思想》
消費者と生産者の双方にとって価値のある手作りの製品、美しい労働環境のほか、リラックスできる快適な休息時間、手作業の価値が隅々まで行き渡った会社の文化の形成。

誇りとともに穏やかに生きていくためには、互いを尊敬し、事実を重んじる人間関係と、経済的に十分な所得が欠かせない。

創造性を生む静かな職場環境が必要。
倫理、尊厳、道徳と一体化した利益を生み出すこと。
利益と贈与の均衡に実体を与えることが重要。

高度な手仕事と職人技に支えられたイタリアらしい服、最高級の市場セグメントに的を絞り、高価ではあるが価格以上の価値を持つ製品を作る。

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クリネリ社が世に提供している価値は、最高級のカシミヤコレクションという商品自体ではなく、稼いだお金の大きさでもない。

クリネリ社は、事業やお金とは、もうひとつ別の指標である「経営」という行為によって、世の中に価値を提供している。

事業を立ち上げたきっかけ

田舎町から都会へ引っ越した際、父親が受けた侮辱がきっかけだった。
「貧しいからという理由で、人の尊厳は傷つけられてはいけない」
という強い決意が芽生えた。

人間の価値を尊重し、人間の価値を信じ、天の創造物である自然を傷めず、可能な限り自然への負荷を小さくする。そのように生産されたものこそ価値があると考えた。

人間主義的経営

①ソロメオ村の再生
さまざまなインスピレーションを生み出す存在として、この村の中世の古城を購入し、事務所とした。

②職人学校の設立
伝統技術は、継承者が少なく、いつか途絶えてしまうかもしれない。そんな不安を少しでも克服するために、職人学校を開く。

若者に簡素さと情熱を持って考える力と伝統技術を継承して現代に活かす能力を身につけさせるためには、工房を持つ学校が必要だった。

学校では、理論だけでなく実践も教え、生徒たちが技術の習得と同時に幾分か稼ぐことができるようにする。将来的には、村にある小さな建物を再利用してさまざまな作業を行うことで、村を活性化させたいとも考えた。
教師は、経験豊富で知恵や人間味がある人物ばかりだ。学生はそんな教師から、技術だけでなく、職人としての誇りと心技体が調和した人間倫理を学ぶ。

③廃棄ではなくケア
廃棄するのではなく、大切にする。天から与えられたものをいたずらに消費せず、適度に使うこと。

人間は2つの大きな課題:幸福を求める精神の苦悩と、良い環境を守るために大地の産物をうまく使うこと。


④劇場の設立
ソロメオに古代ギリシャのアッティカ性精神を再興しつつ、現実に暮らしている村の生活を活気あるものにしたいという想いから、劇場を設立した。

その他、公園、図書館も設立している。

本書から抜粋


「心は頭脳より強い」
「心ある小道だけ、わたしは進む」
「喜びは安らぎから生まれる」
「読書の目的は、自分以外の魂の声をきくこと」
「本は裏切らない」
「本は生命の記録」
「本を読むことで知性の花が開く」
「価値観は、語られることなしに育たない」
「判断するのではなく、観察」
「人間の価値を尊重し、人間の価値を信じる」
「誇りを感じて穏やかにいきていくためには、違いを敬い、真実を重んじる人間関係と十分な所得が必要」
「倫理、尊厳、道徳と一体化した利益をうみだすこと」
「利益と贈与の均衡」
「ラグジュアリーとは、希少性と期待感」
「人はみな思いを持っている」
「ことば(知恵)は生き続ける」
「共感、やさしさ、愛情は人間の現象として最高」
「受け継いだ遺産を大切に保護する」
「出逢いは恐れではない」
「すべての人間は、人として一体である」
「自然の状態を伸ばす教育を」

まとめ

クリネリの考える経営とは、
物をつくり、売り、お金を稼ぐことではなく、
人間と、自然と、過去から授かり、未来へ引き継ぐべき資産を大切に保護し、管理すること。

経営とは、会社の所有する資産を取り扱う仕事ではなく、
人間と会社の所属する世界、自分と自分以外のあらゆるもの、家族や友人や見も知らぬ他人、亡くなった人たちやこれから生まれてくるひとたち、動物や植物、水や空気、人間に創り出せるもの、出せないものも、時間も空間も超えたありとあらゆるものと対話し、そのももの関係をはかり、関係をバランスよく管理し、保護し、育んでいくこと。

取引や交換ではなく、与えることによって、関係を保護し管理することによって価値を生み出す。

「与えるために生きるものは価値ある物である」ーセネカ
(贈与は経営の本質)


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