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「バンコクかるた大会」で3年越しのリベンジ

3年前から学生に百人一首を教えている。
きっかけは学生が「ちはやふる」を見て、百人一首やりたい!と言ってきたこと。

散らし取りしかしたことがなかったので、教師仲間に源平戦のやり方を教えてもらい、練習に付き合ってもらった。
何か目標があった方がいいと、毎年12月に行われる「バンコクかるた大会」に軽い気持ちで2人でエントリーした。

当日会場に入ってびっくり。出場者はバンコクの日本人学校のちびっこ達だった。あとはご家族でエントリーしているお母さんが数名。
大人だけのチームは私たちだけ。ちびっこの中におばさん2人。あまりの恥ずかしさに背中を丸め、縮こまって開始を待つ。

1回戦は3回別のチームと戦い、2勝以上で2回戦へ行ける。

初戦は幼稚園生2人と低学年1人のチームと当たった。
さすがに勝つわ!ちょっと手加減するかと思いつつ試合開始。

瞬殺。あっさり負けた。ほぼ決まり字で勝負あり。むしろ手加減してほしい。
「大人なのに遅いね〜」と無邪気な笑顔でマウントを取ってくる。
あまりにも早く勝負がついたので子ども達とお話しすると、毎晩家族で練習していて、「パパとママより早く取れるよ!」とドヤ顔。決まり字も全部暗記しているそうだ。恐れ入りました。

2回戦は姉妹+お母さんのチームに僅差で勝ったものの、3回戦で小4の3人組にこてんぱんにされて、結局2回戦には進めなかった。
子ども相手でも負けるとやっぱり悔しい。

この「バンコクかるた大会」は日本人の部とタイ人の部があり、
私は次の年に学生を出場させるべく、百人一首を授業で扱うことを決めた。
必ずや学生にリベンジしてもらおう!

これが2016年の話である。

2017年

まずは2年生に源平戦を教える。

私の学校は2年生の学期休みに”five languages camp”があり、英語、中国語、フランス語、ドイツ語、日本語コースの学生が1泊2日で色々なアクティビティーをする。私はそのアクティビティーの一環として、源平戦を教えることにした。

「ゐ、ゑ」の読み方、「けふ」「にほい」など歴史的仮名遣い、濁点は書かれていないなど、取り札の注意を軽く説明して、源平戦をやってみた。難しいかな?と思ったが、予想に反してエキサイトしている。

読み上げは「百首読み上げ」というアプリを使った。学生たちは、初めて聞く独特の節回しに「お坊さんのお経みたい」と笑っていた。

3年生は、源平戦の前に百人一首の成り立ちや内容にも触れた。そもそも百人一首のリクエストはこのクラスの学生からだ。ちょうど教科書に百人一首に関する読解もある。

クイズ形式でなるべく興味を持ってもらえるように、読解とも絡めながら授業を進めた。

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ

この歌の意味を説明して、恋の終わりにどうするか学生に聞いてみた。
写真や連絡先を消す、泣く、グチる、やけ食い、寝る、引きずる。人それぞれで面白い。「恋人がいたことがないからわかりません!」という子もいた。
1000年以上昔の人も私たちと同じように恋に悩んだり苦しんだりしたんだね。人間ってあんまり変わってないかもね。そんなことを学生と話した。

源平戦も楽しかったようで、後日、自分でダウンロードしてかるたを作り、昼休みや放課後遊ぶ学生もいて微笑ましかった。

さて、その年の12月。学内予選で勝った4チームを出したが、全て2回戦には進めず。リベンジは持ち越しとなった。

2018年

この年もキャンプで2年生に源平戦を教えた。
このクラスは興味がある人は少ないだろうと思っていたが、半分以上が私も出たいと手を上げてくれて驚いた。
日本語は全く得意じゃないし、アニメもマンガも興味ない。「ちはやふる」も知らないという学生もいて嬉しかった。

「ちはやふる」というフィルターを通さずとも、百人一首それ自体で興味を引ける魅力的なものなんだと新たな発見だった。
百人一首は難しい、古くさい、きっと興味がない、と決め付けていたのは私だったんだな。

3年生にも、前年同様百人一首の内容を教えた。源平戦は経験済みなので、熱心に話を聞き、色々質問もしてくれた。歌の内容にも興味を持ってくれたようだ。

この年は早く申し込み、8チーム出場した。
当日応援に行くと、「百人一首やりたい」とリクエストしてくれた元教え子もいた。大学は音楽専攻だが、かるただけは好きで続けているそうで感激した。教師冥利に尽きる。

結果は2チーム2回戦に進めたものの入賞できず。リベンジはなかなか遠い。

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2019年

この年は、前期にタイの大学主催のかるた大会も開催され、そこで2番になった。いいスタート!リベンジに期待がかかる。

12月のバンコクかるた大会は、応援には行けなかったが、
次の週教室に入ると、「先生!3番になった!」と賞状を見せてくれた。

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悲願の入賞。やっとリベンジが果たされた。
副賞で日本の文房具や本ももらったそうで、学生達もすごく喜んでいた。

おわりに

百人一首なんて受験に関係ないし、テストにも出ない。やる必要なんかない、ただの「余白」に過ぎない。
それでもこの「余白」こそ、後々青春を彩る思い出になったり、日本語との接点になったりするのだと感じている。

今年はコロナのせいでキャンプがない。かるた大会は3密の巣窟だし、きっとないだろう。余白が削られることが残念でならないが、どうにか今年もやれる方法を模索したい。

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