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チチカカ湖で足るを知る

「ゆたかさ」について考える時、いつも思い出す光景。

それは10年ちょっと前、ペルーを一人で旅した時のこと。
往復のチケットだけ取って、2週間の行き当たりばったりの旅。

クスコの街並みもマチュピチュもナスカの地上絵もそれはそれは素晴らしかった。でも一番印象に残っているのは、最初は行く予定すらなかったチチカカ湖だ。

旅の初日のリマで出会った女の子がアレキパ出身で、案内するから是非おいでよと言ってくれたのだが、クスコ→アレキパは1日で移動するにはあまりにも遠すぎる。それで、途中のプーノというチチカカ湖のある街へ寄ってみようと思い立った。

ノーマークだったガイドブックのプーノのページを開くと、チチカカ湖にはウロス島という藁でできた人工の浮島があるらしい。俄然興味が湧いてきた。

プーノの街に着くと、早速日帰りのウロス島ツアーを申し込んだ。穏やかな湖をしばらく進むと、藁でできた小さい家が見えてきた。

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大きめの島に上陸する。藁が敷き詰められた足元はふかふかと柔らかく、踏み出すたびに沈み込むような感じ。ツアー参加者と円になって座ると、島の人が小さい模型を使って島の生活について説明してくれた。
「離婚すると島を真っ二つに切ってバイバイするんですよ〜」と笑って言っていたが、鉄板ウロス島ジョークなのか本当なのかはわからない。

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説明の後、ガイドさんと一緒に島を歩いて見学した。浮島には所々大小さまざまな穴があり、魚を釣ったり、キープしたりしているそうだ。小さい売店もあり、お菓子やジュースも普通に売られていた。教会や病院、学校もホテルもあるそうで、もちろん全て藁でできている。

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いくつかの家の屋根には、ソーラーパネルが設置されていて、電気も使えるようだった。伝統とハイテクが融合していておもしろいなと思った。当時は私もスマホなんか持っていなかったけど、今ならWi-Fiも飛んでいるのかもしれない。

その後、藁でできた船に乗せてもらい、島の周りをクルージング。船は意外と丈夫で、水がしみてくることもなく、思いのほか快適な乗り心地だった。
途中、小さい女の子が1人で漕ぐ船とすれ違った。見事なオール捌きでスイスイと進む。とてもたくましてかっこよくて、思わず見惚れてしまった。

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その後、もう一度島に上陸した。そこでは、カラフルな民族衣装を着た女の人たちがご飯の支度をしながらお土産物を売っていた。
小さい質素な藁の家に住み、お土産物を売り、魚を釣って食べる。オシャレなカフェもデパートもない島。でも、彼らに悲壮感は感じなかった。

彼らと全く同じ生活は、私には絶対にできない。それでも、ない物を欲しがって暮らすより、あるもので満足する暮らしっていいなと、その時はじめて思った。

当時は「断捨離」や「ミニマリスト」なんて言葉は定着していなかったし、そんな暮らしぶりがあることすら知らなかった。

「今、価値観が変わる体験をしている」

ウロス島のふかふかの藁の上を歩きながら、そう感じた。
私は結局、その次の日もウロス島のツアーに参加した。

振り返ると、当時の私は何も考えず物を買っていた。無駄遣いしているつもりはなかったが、ポリシーだとか、自分の価値観に照らし合わせて物を買うことをしてこなかった。

安いから、流行りのデザインだから、あれば便利だからと、適当な理由をつけて物を買い、物で溢れた部屋で生活していた。幸せになりたくて物を買っているはずなのに、多くの物に囲まれた私は果たして本当に幸せなのだろうか。物が与えてくれる幸せは、とうに享受しきっているのではないだろうか。

ペルーから帰って、私は少しずつ少しずつ物を減らしていった。日本に一時帰国した際には、実家の私物を片付けた。ミニマリストには遠く及ばないし、目指しているわけでもないが、この10年で私物は半分以下に減った。

もちろん物欲がなくなったわけではないが、手放す辛さを思うと、今使っている物が寿命を迎えてからでいいやと思える。

買う時はよく吟味する。色やデザインが今の自分にフィットするか、お手入れがめんどくさくないか、本当に気に入っているか。
これ「で」いい、じゃなく、これ「が」いい、と思える物を買うことで、麻痺していた物が与えてくれる喜びが蘇ってきた。

買い物に使っていた時間、掃除や片付けの時間が大幅に減り、
物を買わないので、お金にも余裕ができた。
旅をしたり、おいしいものを食べたり、舞台やコンサートを見に行ったり。
物を買うよりもずっと楽しく、心躍ることにさらにお金を使えるようになった。
そうして作った楽しい思い出は、減らないし汚れもしないし、くたびれることもかさばることもない。ずっとずっと大切なままだ。

生活は質素になったが、私の人生はずいぶんと「ゆたか」になった。

チチカカ湖で見た光景は、今でも私の価値観や物との付き合い方に影響を与えている。

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