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ハムとソーセージとオタク趣味が家族の不穏さを拭う。

 5月頃から母親から家族でオンライン会?をしようと提案されていた。去年も一度やって、それなりに盛り上がったのもあって、家族で集まる一つの選択肢にオンラインが追加された感じがあった。
 今回は父親の誕生日と家のローンを払い終わったことのお祝いだった。
 二つ返事でオッケーし、日付も母親の提案日に合わせた。

 ちなみに、オンライン会?としたけれど、オンライで家族が集まることを何と言うのかネットで調べると、「オンライン帰省」とあった。なんとなく、しっくり来ないので家族のオンライン会にした。

 今回は母親からの提案ということもあってか、オンライン会の数日前に母親からクール宅急便が送られてきた。ハムやソーセージの詰め合わせだった。
 母親にお礼のLINEをすると、オンライン会の時にでも、と言うことだった。

 せっかくなら、と当日にカセットコンロと焼肉のプレートをセットした。弟にも同様のものが届いており、オンライン会の間、僕か弟のどちらか(あるいは両方)で、ハムやソーセージの焼ける音が響いた。

 前回はビデオ通話で繋いでいたのだが、途中から両親の画面が固まること増えた。Wi-Fiの調子が悪いようだった。
 仕方なく、音声のみのオンライン会となった。

 内容は父がメインになるのだが、誕生日であり、家のローンを払い終えた、という安心感からなのか、父の中で僕が実家に帰ってくると思っているような発言を滔々と述べはじめた。お酒も回っているのだろうし、気分よく喋っているのだから、受け流しても良い気もした。
 ただ、僕は父の人生の延長線で生きている訳ではないので、改めて実家に帰るつもりはないことを伝えた。

 父は死ぬその瞬間まで、僕を長男として自分の姓を引き継ぎ、あらゆる責任を背負い込む存在として扱うのだろう。
 単純に父は僕に対して、そのような扱い方以外を知らないのだ。
 それは父の不幸だけれど、僕にはどうしようもないことだった。

 正直なことを言えば、父の発言は聞くに堪えない不快な内容も含まれていたのだが、その度に目の前にある焼かれたハムやソーセージが目に入った。
 よく冷えたビールにハムもソーセージもよく合った。

 母が父のその手の発言を予想して、僕と弟にハムとソーセージの詰め合わせを送っていたのだとしたら、やり手の交渉人のようだと思う。

 父が席を空けた時に「コントがはじまる」の話になった。母も弟も見ていて、大絶賛だった。

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「菅田将暉と有村架純が最後にくっつかなかったのが良かった」と母が言い、僕と弟が同意した。
「普通にコントが面白かったよね」
 と弟。
 僕と母が「そうそう!」と頷く。
 父が戻ってきた気配はあったが、口を挟んでは来なかった。

 その流れで、好きな役者の話になって、弟に「一時期、めちゃくちゃ浜辺美波が好きな時期あったよね」と話を振ってみた。
「あったね!」と頷いてから「今となっては、浜辺美波をテレビで見る度に、元カノって感じがするんだよね。更に可愛くなったなって」とよく分からないことを言い出す。
 けれど、面白いので「それで言うなら、僕は橋本環奈かな」と乗っかった。
 母は「じゃあ、私は神木( 隆之介)くんだなぁ」と続くので、父が「なら、わしは広瀬アリス」とオチをつける。

 変な家族だなぁと思いつつ、終わり頃は和やかな空気が戻ってきていて、平和に終わることができた。

 良かった良かったと思いつつ、翌日に「ラストレター」という岩井俊二監督の映画を見た。

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 キャストが松たか子、福山雅治、庵野秀明、神木隆之介、森七菜、広瀬すず……という、とんでもない豪華さで、岩井俊二の映像美とセンスが大爆発の傑作だった。
 集大成と言っても良いてんこ盛り具合で、岩井俊二映画を繰り返し見ていた時期のあった僕としては嬉しい映画だった。

 そして、最後まで見て翌日の家族のオンライン会での元カノ談義というか大喜利で、橋本環奈って言ったけど、広瀬すずって言うべきだったかも知れないな、と悩んだ。本当に意味のない悩みだけれど。

 広瀬すずの透明感というか凄味が「ラストレター」の中心にはあった。話としては少女に対する神聖視なので、受け付けない人はいるだろうなぁと思う。
 僕も多分、あと二、三年経って見ると、酷評してしまう可能性はあるけれど、広瀬すずの演技やたたずまいの凄味は変わらずあって、そのシーンにおいては息を飲んでしまうような気がする。

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