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しがみついた子泣きじじいも亀のように首を伸ばすとは思わなかった。

 肩に違和感がある。
 けれど、痛くて眠れないわけじゃない。朝、起きた瞬間少し痛む程度だ。
 大丈夫。そう思って朝、部屋を出た。職場についた時点で肩の違和感は痛みと重みに変わっていた。肩に子泣きじじいでもしがみついているのだろうか。

 少し泣きそうになる。
 以前、エッセイで肩が痛いと書いたところ「出来れば肩こり専門の病院に行ったほうがいい」とマジレスされたのを思い出す。
 三十代を超えてから友人たちが立て続けに身体的な問題を抱えていった。僕も三十三歳。良い大人だし、そろそろ身体的な問題にぶつかってもおかしくない。それに、帰ったら妻もいる。

 最近、不機嫌ハラスメントなる単語を見かけた。職場で不機嫌にすることはハラスメントなのでは? というもの。
 不機嫌に対する世の中の目線は厳しくなっている。当然、家庭内で不機嫌でいるのが良いとは世間では言われないだろう。別に世間のために結婚して夫婦をやっているわけではないけれど、まるっきり無視するのも違う。

 泣きたくなるような肩の痛みと重み。それを抱えて部屋に帰って僕は機嫌よく居られるだろうか?
 という問いを前にした時、病院に行こうと決めた。調べたら仕事終わりには間に合わなかったので、早退の相談を上司にした。今の時期、仕事はたいしてない。閑散期なのだ。
 早退を許可してもらい、僕は職場近くの整形外科に電話して予約をした。歩いて十分ほどの場所にあった。WEB問診票なるものに事前に答えておいてくれ、と電話口で言われていたので、回答を打ち込む。LINEのトーク画面のようなフォーマットだった。

 整形外科のクリニックが入っているのは雑居ビルの三階。受付で保険証を渡し、名前を伝える。一瞬、旧姓を伝えそうになる。名字を変えたと実感するのは病院だとネットで見かけたことがあったが、本当にそうなんだと思う。
 待合室の待ち時間は五分ほどだった。

 先生に症状を伝えると、「じゃあまずは、痛いかどうか確認するね」と背中を向けるよう言われた。首の近くから、腕のつけ根など、肩の至るところのツボを押して、痛いか、痛気持ちいいか、痛くないか、を尋ねられた。二箇所だけ痛気持ちいいと答え、あとは痛くないと伝えた。
 もういいよ、と許可され先生に向き直る。

「症状的に君の原因は肩じゃなくて、骨の首の可能性があるね」
 と、一時が万事分かったようなのんびりした雰囲気で先生が言う。

 首の骨か。肩が痛いのに原因は首の骨。体は繋がっているなと改めて実感する。
 首の骨のレントゲンを撮ると言われて別室に連れて行かれ、数パターンの角度で撮影された。写真を撮った後、先生から改めて首の骨の形が変になっていること、骨と骨の隙間が狭くなっていることを説明してもらった。

「リハビリをする必要あるのでまた来る日を決めましょう。今日は首を伸ばすマッサージ機があるのでそれと、電気マッサージもして帰ってください」
 言われるがままに亀のように首を伸ばされ、電気マッサージを受けた。

 早退したけれど、いつもと変わらない時間くらいの電車に乗って姫路へと帰った。
 今日は僕が夕飯を作る日だったが、とくに献立を考えていなかった。帰りに寄ったスーパーでたらの切り身が安かったので、それを購入。たらのホイル焼きと味噌汁を作っているところで妻が帰宅。
 一緒に夕飯を食べている間に肩の話をしたら、原因の話になった。

「いつも姿勢が前かがみだから、それもあるかもね」
 と言われた。確かに本を読むにもパソコンのキーボードを叩くにも前かがみになる。であるとしたら、「改善できなくない?」と僕が言う。
 妻は何を今更という顔で味噌汁を飲んだ。

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