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英国の若者が気候変動、生物多様性解決に関心が高い背景にはどんなストーリーがあるのか

イギリスの環境教育は、近年幼少期から始まり、学校教育カリキュラムに組み込まれています。学校により具体的な年齢から環境教育が始まるタイミングは異なりますが、以下に一般的なガイドラインをご紹介します。

環境教育はイギリスの幼稚園や初等学校(プライマリースクール)から始まります。環境に関連するアクティビティや教材が取り入れられ、子供たちは自然に触れる機会や基本的な環境教育を受けます。年齢に合わせて段階的に設計されており、基本的な環境教育を提供します。以下は、子どもたちが学ぶことができる環境トピックとアクティビティの一例です。
①自然の観察: 子どもたちは自然界を観察し、植物や動物の特徴を学びます。キューガーデンや近隣の庭園でのフィールドトリップでは、植物の種類、鳥の観察、昆虫の探索などが含まれます。
②リサイクルと廃棄物: リサイクルと廃棄物の分別について学び、環境への影響を理解します。
③気象と季節: 季節や気象の変化に関する学習が行われます。
④地理と場所: 地理的なトピックに触れ、地球上の異なる場所や地形について学びます。地図を使って場所を特定し、地球上の文化や環境の多様性を探求します。
⑤持続可能な生活: 環境にやさしい習慣や持続可能な生活についての教育が行われ、水の節約、電力の効率的な使用、環境に優しい交通手段の選択などが取り上げられます。
⑥生物多様性: 種の多様性について学び、動植物に関する基本的な知識を習得します。チェルシーフラワーショーなどへ授業の一環で行くプライマリースクールもあり、園芸について学ぶほか、London Zooなどへ行き、生物多様性の重要性を学びます。

チェルシーフラワーショーは環境教育の場としても活用されており、キャサリン妃は子どもたちの質問に答えたり、自然や環境に関する知識を共有し、持続可能な生活についてお話しされています


中等教育(セカンダリースクール)では、より詳細な環境科学や持続可能性に関するトピックが学習されます。以下は、英国のセカンダリースクールにおける環境問題について学ぶ一般的な内容です。
①環境科学: 生態系、気候変動、生物多様性、大気汚染、水資源、廃棄物管理など、基本的な環境科学の概念や原則について学びます。生態系の構造と機能、生態系の保護、持続可能な資源管理などが含まれます。
②持続可能性: 持続可能な開発の原則や目標に焦点を当て、経済、社会、環境の側面から持続可能性を考えます。資源の持続可能な利用、エネルギー効率、再生可能エネルギー、環境への配慮、社会的責任などが学習の一部となります。
③環境政策と法律: 英国および国際的な環境政策、法律、規制について学びます。環境保護の法律、政府の環境政策、国際的な環境合意などに関する基本的な知識を獲得します。
④環境問題の認識: 学習者は環境問題に関する認識を高め、環境への配慮を促進するために、環境問題に関連するニュース、現代の問題、持続可能なライフスタイルについても学びます。
⑤実践的なプロジェクト: 生徒には実際のプロジェクトや実験を通じて、環境問題に取り組む機会が提供されることがあります。例えば、リサイクルプログラムの設立、エネルギーコンサーベーションの実践、地元の環境保護活動への参加などがあります。

環境問題についての学習の深さは、学校によっても異なりますが、一部の学校では、環境科学や持続可能性に関する専門のコースやプログラムを提供しており、関心のある生徒が学べるようになっています。


大学では、環境学、環境科学、持続可能性に関する学士号や修士号のプログラムが提供されており、より高度な環境教育を受ける機会があります。大学での環境学習は専門的なスキルや知識を提供し、環境問題に取り組む専門家を養成します。

以下に、英国で環境に関連する学科が有名な大学をご紹介します。
①オックスフォード大学(University of Oxford): オックスフォード大学は世界的に有名な大学で、環境科学、環境政策、持続可能性、サステイナブルファイナンスに関する多くの研究機会を提供しています。オックスフォード大学の環境研究センターや環境学科は高い評価を受けています。
②ケンブリッジ大学(University of Cambridge): ケンブリッジ大学も世界的な名門大学で、環境関連の学科や研究プログラムが充実しています。環境科学、持続可能性、環境政策に関する研究が行われています。社会人向けのサステイナブルリーダーシップのコースも人気です。
③インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London): インペリアル・カレッジ・ロンドンは科学技術分野で高い評価を受ける大学で、環境科学、エネルギー学、気候変動学に関する研究が盛んです。
④ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics and Political Science): LSEは社会科学分野で有名であり、環境政策、環境経済学、持続可能性に関連する学科があります。
⑤インペリアル・カレッジ・ロンドン(University of Edinburgh): エディンバラ大学はスコットランドに位置し、環境科学、環境法、気候変動学に関するプログラムがあります。

イギリスの学校システムでは、環境に関する教育が幅広い年齢層に提供されており、生徒たちが自然に環境問題に対する理解を深める機会を提供しています。これらの環境教育や、博物館などでも環境問題のトピックスが充実し、周囲とディスカッションする機会の多い英国では、「若者は気候変動や生物多様性の解決に強い関心がある」「(会社は)真剣に対応しないと、優秀な人を採用することができない」と話題になることが多くなってきています。では、この背景には教育以外にどのような動きと特徴があるのでしょうか。今日は、この点について、英国の王立国際問題研究所で開催された会議の内容を中心にお話します。


英国では40歳を境にソーシャルメディア中心か否かが分かれている

一つには、英国では、概ね40歳を境に、世界の動きをどうやって把握し、追っていくのかについて、リサーチする習慣が違う点があげられます。40歳以下では圧倒的にソーシャルメディアで、40歳を超えるとソーシャルメディアも使うものの、新聞や本も読むそうです。

ソーシャルメディアでは、気候変動、生物多様性の解決に向けた関心は非常に高く、一人で世界中の何億人もフォロワーがいて世界に情報発信する能力を持った人たちも発信しています。数億人のフォロワーがいる人が15人集まった英国での勉強会の講師Solitaire Townsendさんの話では、彼らが発信しているメインのトピックスは様々であるものの、気候変動や生物多様性の最新情報を学び、それぞれの得意な話題に馴染む内容を発信しています。例えば、料理の分野のインフルエンサーは、破棄されそうな残り物で料理を作って見せたりもしているそう。そういった若いインフルエンサーの発信内容には、一部の新聞や本になるような気候変動への懐疑論も、アマゾンの開発を容認するような論調もないそうです。

逆に、ソーシャルメディア40歳以上の人は、こういった懐疑論、アマゾンを開発しようという記事に触れるケースが比較的多いようで、どんな情報に多く触れているかが、考え方や行動にも影響しているのです。


Young climate leaders meet with UN Secretary General António Guterres

サイエンス・ファクトより心に刺さる「ストーリー」

この現実を理解した上で、気候変動と生物多様性の解決を前進させるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

一つには、ストーリー(物語性)の重要性を考えて、それぞれのセグメントにあったストーリーを作り、配信することです。ストーリーの人を動かす力はとても強く、いわゆるファクトを突きつけられるよりも強力と言われています。ただ、その力が強い分、諸刃の剣とも言えます。

映画になぞらえて考えるストーリーの作り方を6つご紹介します。

「フランケンシュタイン・ストーリー」


よくあるストーリーの筆頭は危機の物語で、映画になぞらえて「フランケンシュタイン・ストーリー」と呼びます。これには大きく2つの展開があり、まず
①人間がモンスター(フランケンシュタイン)を作り、
②モンスターが人間を滅ぼす、
というストーリーです。
これは、失望し無力感を訴える若者の増加原因と分析されています。欧州では若者の14%がこのストーリーで気候変動と生物多様性を理解していると言われ、気候変動のことを考えた挙句、自分の運命はもう終わったと捉える若者もいて、大きな問題とされています。

「アイアンマン・ストーリー」

次に多いのは、同じく映画の「アイアンマン・ストーリー」です。ロバート・ダウニー・ジュニア主催の映画です。これは、危機的な状況に対して、自分とは違うスーパーヒーローが、どこかから現れて、かっこよく解決してくれるというストーリーです。具体的には、温暖化ガスを空気中から吸収して地中に全部埋めてしまう、といった文脈です。
このストーリーの問題点は、行動を促さないことです。スーパーヒーローは本当に来るのでしょうか。間に合うのでしょうか。

「イート・プレイ・ラブストーリー」

同じく多いのは、これも映画になぞらえて「食べて・祈って・恋して(イート・プレイ・ラブ)ストーリー」です。ジュリア・ロバーツ主演の映画です。このストーリーでは、質素な、自然に囲まれた、ヨガをしてゆっくり過ごすような生活をして、ライフスタイルの大幅な変更を強います。
好きな人は好きですが、負担に思う人には、夏を扇風機で過ごす、冬に暖房を入れない、車に乗らないなど、大きな変革を強います。

「ハンガー・ゲーム・ストーリー」

同じく映画を元にした「ハンガー・ゲーム・ストーリー」もよく知られています。これはジェニファー・ローレンス主演の若者に大人気の映画で、意識の高い若者が怒りをもって権力者に立ち向かい、困難の末に難題を克服するストーリーです。この映画は実は、実際に、気候変動の対策の遅れに怒る若者にロール・モデルを示そうという意図で製作されたそうです。

主に、これら4つのストーリーの作り方で、今世の中の若者は気候変動や生物多様性の様々な課題を理解していることがわかっています。

さて、この現在主流のアプローチは、十分に若者に届き、興味を喚起し、行動を促すことができているのでしょうか。
足りないと言われているのは、以下のような二つのストーリーの作り方です。

「冒険ストーリー」


インディアナ・ジョーンズ・シリーズのような、ロード・オブ・ザ・リングのような、様々な困難が待ち受けていてスリル満点な中、真剣に、華麗に、時にコミカルに乗り越えていくというストーリー。

「ベネフィット・ストーリー」

脱炭素した世界がどのような魅力を持ったところで、その中の生活はどのようなものなのか。新しく生まれる課題でさえ眩しく見えるような世界。鉄腕アトムやスタートレックのような、なんとなく明るく幸せなSF映画のストーリーです。

感情や心を直接動かすストーリーは社会も動かしている

このようにストーリーを作れば良いという考え方はよく知られており、人の心にどう響くのかも研究されています。某石油会社は一社で年間150億円を使い、化石燃料は良い、というストーリーを展開するキャンペーンを計画しているそうです。このように企業も、それが将来の地球環境によくないことは分かりながらも自分の置かれている立場に立ち、自分たちが有利になるようなストーリーを作っています。

物語が人々の心をつかむ力の例として、アメリカ南北戦争の最中、エイブラハム・リンカーンが作家ハリエット・ビーチャー・ストウと会ったときに、彼は「あなたがこの大きな戦争を始めたのね」と言ったそう。これは、ストウの「アンクル・トムの小屋」が、19世紀の奴隷制度廃止運動において大きな影響を持っていたことを示しています。実際に、「アンクル・トムの小屋」は19世紀で最も売れた本で、奴隷制度廃止運動のための物語的な支えとなっていました。これらの歴史上のお話からも人が逸話や物語を証拠やデータよりも信じる傾向があることがわかるかと思います。物語と事実が競合する場面において、物語がより多くの場合に勝るのは、それが人々の感情や心を直接動かしているためなのです。

COP28では若者の声も重視


アブダビの宮殿で行われたプレCOPには若者たちが多数出席


COP28が11月下旬から始まります。開催国がアラブ首長国連邦、議長が国営石油企業の社長ということもあって、悲観論も聞こえてきますが、逆に内情を知り尽くした専門家の対応に期待する声も出てきています。一方で、ウクライナ情勢、パレスチナ情勢は世界を分断し、経済を停滞させ、気候変動対策か経済対策かといった二者択一的な対応を求める声も多いのが実態です。

今年は若者の声を聞くことを今まで以上に大切にしているようにも感じています。COP前の重要な最後の気候閣僚会合であるアブダビでのプレCOPでは、初めて大規模な若者代表団が出席しました。

シャンマ・アル・マズルイさんは1993年生まれですが
Minister of State for Youth Affairs 。世界で一番若い大臣です

COP28議長国は、プレCOPを含む2023年を通じてのすべての主要な気候政策議論に若者や子どもたちに参加してもらうことで透明性高め、オープンな対話に努めています。
COP28 ユース気候チャンピオンは、Her Excellency Shamma Al Mazrui。彼女が中心となりCOPを前にハイレベルの円卓会議を開催しました。UNFCCCのYOUNGO、深刻な気候影響を受けたコミュニティの青少年をCOPに連れてくる役割を果たしているCOP28国際青少年気候代表プログラム、COP28アラブ首長国連邦代表など、さまざまな人たちが集まり、世界中の若者と子どもたちの要求を代表する、COP28グローバル・ユース・ステートメントについて議論しました。

グローバル・ユース・ステートメントは、YOUNGOが作成する年次声明で、150カ国以上の世界中の児童・青少年団体、個人や団体からの洞察、期待、政策提案をまとめたものです。

今年、グローバル・ユース声明は、若者の要求を交渉プロセスに組み込む効果を高めるため、例年のようにCOP中盤ではなく、COP前の段階で提出されたことも画期的です。
COP28議長国は、国際的な気候変動政策立案において若者の視点を中心に据え、将来のCOPのモデルとなることを目指しているそうです。

アブダビ:アブダビの首長国の宮殿で開催されたイベントは、世界中から集まった数十万人の若い気候変動指導者の願望と要求を明らかにし、COP28の舞台を整えました。
https://www.cop28.com/youth-international-delegates

COP28の開会式にはチャールズ国王も登壇


気候変動、生物多様性の解決に向けた最高機関であるCOP。COP28では、チャールズ国王(King Charles)が気候サミットの開会式に出席し、世界の指導者たちの前で開会の挨拶を行うことになりました。これは、王位に就いてからの気候危機に関する初の主要なスピーチとなります。

リズ・トラス首相の下で、チャールズ国王はダウニング街が即位後まもない時期には適切ではないとしたため、前年のサミットへの参加を控えることに同意しましたが、国王は参加できなかったことに失望していたそう。代わりに、バッキンガム宮殿で、主要な専門家を対象とした事前サミットのレセプションを主催したのです。

今回、11月30日から12月1日のアラブ首長国連邦滞在中、国王は地域の指導者たちとの会合を持つそうです。


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