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27歳の記録 中

そして私は、公務員試験の受験を決意した。
なぜ公務員なのかというと、その時在籍していた職場の“人材交流“というシステムで区役所に出向していたが、それは正式な公務員ではなかったために出向者としての劣等感や疎外感を感じていたので、その感覚の解消と共に、自分の仕事に誇りを持てると考えたからだ。

もちろん、今の職場や仕事が劣っているという気持ちはなかったが、区役所で働いている時に感じた周囲の職員への尊敬の気持ちや憧れを、感心で終わらせるのではなく、自分もそうなりたいという目標にしたいと思った。
また、とても安易だが、公務員になることによってこれまで自分には関係ないと思っていた競争社会や階級社会に一方足を踏み入れ、社会人としての新たなプライドを持つことができるのではないかと考えた。
そうすることで、少し自分に自信が持てると思った。

それからの日々は、通勤電車もお昼休憩も夕食後もとにかく、歩いている時と、寝ている時以外勉強していた。
自分でもこんなに熱量を持って取り組めると思わなかったので驚いたが、自分の人生やこれからの自信に大きく影響することだという自覚と、目標に向かって自分の足で歩けている感覚がとても嬉しかったから頑張れたのだと思う。

マッチングアプリで出会った彼とも順調で、勉強も応援してくれていた。
試験は9月上旬だったので夏は追い込みの時期だったが、7月の私の誕生日は唯一の楽しみだった。
彼は同い年で仕事も順調だったし、将来のことも考えていたから様々な期待を膨らませていた当日、灼熱の渋谷を練り歩いた挙句、ドア全開で外気と同じ温度の素朴なお店でチェーンの居酒屋みたいなチョコペンプレートができた時はびっくりした。
それでも、日常のささやかな幸せを大切にする彼らしいと思った、、。
お店を出て、10歩程歩いたところで、無地の茶色い紙袋を渡された時は流石に、えっ今!?と思ったが、照れているのだろうと思い受け取った。
近くのベンチに並んで座り、中の包みを開けると“ブロッコリーレボリューション“と書かれた単行本が一冊入っていた。
プレゼントは、値段よりも気持ちだという概念、彼らしいと思った、、、。

その後は試験が近づき、彼と会う頻度は減った。
試験1ヶ月前、「話したいことがあるから少し会えない?」
と言われたので、勉強時間を割いて仕事終わりに下北駅で待ち合わせをした。
それから、どのルートを歩いたのか覚えていないが、2時間程ぶっ通しで歩き、知らない公園のベンチで、“移住したい。移住体験に申し込んだ。仕事は年内に辞めるつもり。“という話を聞いて、私は強がっていたとも思うが、とっても冷静に話を聞きながら、“今までありがとう“と言って別れた。
正直心から愛していたと言えば嘘になるが、別れは悲しいし落ち込んだ。そして“またゼロから始めないと・・・“という焦りを感じた。
しかし、とりあえず今の私には公務員試験の合格という明確な目標があるので、今は全てのエネルギーをそれに注力しようと思った。
「27歳、試験1ヶ月前に彼氏に振られた」という事実、辛いを通り越して“もう何が何でも受かってやる“という糧になってくれて良かったし、そんな自分のメンタルが愛しく思えて嬉しかった。


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