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27歳の記録 下

その後の一週間は無我夢中で勉強し、いよいよ試験当日。
試験会場の大学の校門前にツイッターで有名な講師がいたり、体が大きすぎて講義室の椅子と机の幅が明らかに体に合っていない受験生のおかげで少しリラックスできたが、これまでの努力や犠牲にしてきものがあまりにも大きくプレッシャーとしてのしかかっていたためにとても緊張していた。

午前中の論文はとても手応えがあったので、ひとまず安心してして昼食を摂った。
だが問題が筆記試験だった。当日のプレッシャーと山を張っていた範囲が外れ、散々な結果になった。
もはやヤケクソな気持ちでその後の論文を解いた。

試験後のことはあまりよく覚えていないが、とりあえず帰りの電車内でまたマッチングアプリをダウンロードした。
手慣れた手つきでプロフィールを埋め、自宅に着くまでにはもう何人かとやりとりをしていた。

結果はどうであれ、やっと試験のことを考えなくて良い平和な日常が戻ってきた嬉しさと開放感から、一人旅を計画した。
だが仕事で参加しているプロジェクトが架橋で、一日有休を取ることも難しかったため、金曜後の午後休と土曜日の一泊で千葉に行くことにした。
なぜ日曜日に帰ってくるのかというと、マッチングアプリの最有力候補と日曜日にランチの約束をしていたからだ。

27年生きてきて初めての一人旅はとっても楽しく、刺激的だった。
お茶の間ゲストハウスというゲストハウスに泊まり、その日偶然宿泊していた他の客さんとも、食卓の机を挟んで仲良くなった。
その中でも、同い年くらいの若い男女がとても印象的だった。
2人とも定住せず、車を改装して車中泊をしながら全国を旅していると言っていた。無謀で不安定な生活だと思ったけど、女性が毎日すごく楽しいと言っていた表情に全く嘘がなく、黒髪に白Tシャツにジーンズ、という何にも媚びてないスタイルなのにやけに人を惹きつける明るい印象が彼女の魅力だった。
その時、私もこれからは無駄な武装はせず、ありのままの自分に自信を持って生きていきたいと思ったし、試験に挑めたという自信がその時すでに私の意志を強くしていた。

千葉から帰り、いよいよマッチングアプリの人と初対面の日。
新宿のイタリアンで待ち合わせた。
少し早めに到着すると、前から前髪が後退したおじさんが笑顔で近づいてきたので、やられた・・・と思った。
しかしその後「キョウコさん?」と聞かれたので、一瞬で状況を察し「違います」と答えた。
実は、同じ日の同じ時間に同じ場所で、マッチングアプリ初対面のペアが二組いたようだった。
とても失礼な話だが、おかげでその後登場する私の相手は、前髪さえ後退していなければ良いというくらいにハードルが下がっていた。
しかし、その後登場した彼は、まさに顔・話し方全てがタイプで、テンションが上がった。会話もとても盛り上がり、その後はカフェに移動してまたたくさん話した。
その時彼はお手洗いに行く際に、机にお財布と携帯を置いていった。
なんだその無防備さは…と思ったが、そこに彼が周りに愛され育った日々を垣間見えた気がしたし、その直感は後に間違いでは無かったと実感した。
また、彼はエンタメ業界の最前線にいる人で、仕事内容も私の興味をそそった。それだけでなく、初対面にも関わらず彼は関わる芸能人のモノマネを全力で披露してくれた。その瞬間、私は恋に落ちた。
意気投合したが、さすがに初日だったのでその日は解散することになった。
また会いましょうと連絡先を交換したので、次回がとても楽しみだった。
三日後の平日の朝、突然「会いたいので本日職場の近くまでお迎えに行っても良いですか?」と連絡があり、夕食を食べることになった。
そこで告白され、付き合うことになった。会って、2回目だった。

マッチングアプリで、歴や思い出を重ねてから付き合うイメージもなかったし、インスピレーションで好意を持っていたので、迷わず付き合ったが、後悔無かったし、大正解だった。

一方試験はというと、奇跡的に一次試験が通り、二次試験の面接に進んだ。
彼氏にも試験中であることを伝えると、全力で応援してくれた。
そして、その勢いのまま二次試験を突破し、ついに三次試験も合格し、
晴れて公務員になった。

27歳で人生で一番勉強し、彼氏に振られ、結果一次試験も落ちたと思い、一時はとても深い絶望感を感じたが、その後彼氏ができ、試験にも受かるという急展開を迎えた。
今まではなんとなく予想できる範囲の人生を、無意識に意図的に進んでいたが、自分の予想を超える展開が次々と起こった27歳はきっとこれからも私の人生の分岐点になると思う。
これからの人生もきっと想像通りにはいかないことの方が多いと感じるが、今回感じた高揚感や達成感を感じながら、人生を楽しんでいきたいと思った。


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