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自分の部下を「プロデュース」する(その2)

私はパーソルチャレンジを「日本の障害者雇用の成功モデルにする」ために私たちの取組みを出来るだけ多くの人に知ってもらいたいと考え、年に1回行われる社員総会で「一年で最もいい仕事をした個人・グループを表彰するイベント」で毎年私たちの取組みをプレゼンし続けることを目標に定めました。

ある年、私は男性スタッフのMさんの取組みを企画にしたいと考えました。
Mさんは前職で特例子会社の立上げを行った経験を持っていました。また知的障害のあるスタッフのマネジメント経験があったためパーソルチャレンジでも知的障害者チームのリーダーをお願いしました。

Mさんは口数が少なくて、どちらかと言えば自己主張することは苦手なタイプでした。彼は私が導入を進めていた生産管理の考え方に強い共感を示してくれており、どうしたら現場作業の品質と生産性が向上するか考え続け実践していました。

Mさんの担当するチームの主な仕事は書類やチラシの封入、封緘といった軽作業と名刺データの入力、清掃が主な内容でした。この仕事は労働集約型の仕事で人の能力が生産性に直結しました。(もちろんOCRやAIによる文字認識機能の向上などで生産性が上がることはありますが、その場合は人が行う仕事自体が無くなるので、それは生産性向上ではなく「代替手段の導入」となるため、この場合は考えないこととします)

絶え間ない改善

ところがMさんは入社してから毎日「改善ポイント」を見つけてはそれを実行に移していきました。例えば事前準備の仕方や、書類の置き方、書類の方向、指示の出し方。また入力スピード向上のための訓練方法や、整理整頓の仕方、マニュアルの作り方など、ほんの些細なことで1ミリの改善かもしれませんが、何かできることはないかを毎日考え導入していきました。そして2年が経ったときに彼が現場で改善した数が400を超えました。

私はこのすさまじい改善の蓄積に度肝を抜かれました。普通に考えて封入、封緘や名刺入力、清掃業務において400個の改善ポイントを見つけそれを実践することが出来るか?と思いました。

そしてMさんが行った改善の中でも私が最も感動を覚えたのが、
「紙のカウント作業」についてでした。

「コロンブスの卵」的改善

主要な業務の一つに「複数の書類を一つにセットして資料を作り上げる」という作業がありました。決して難しい作業ではありませんでしたが、毎回数百~数千セット。多い時には一万を超えるセットを作る場合もありました。しかし、この仕事には一つ落とし決定的な落とし穴がありました。
それは

「人間は数を数え間違える」

ということです。
どんなに正確に行ったとしても紙が二枚くっついていたとか、一枚入れ損なったとか、カウントを間違えたとか、何十、何百と作業を行えばミスは必ず起こります。
それをWチェック、多い時にはトリプルチェックを行うことで、出来る限りミスを少なくすることを目指していました。しかしそれでもミスはなくならず、お客様からクレームが来ることが度々ありました。しかし、これ以外に精緻に行う方法がないということで、これまで人力で努力し続けていました。

しかしMさんはこのチェックを何度も行うのはコストがかかりすぎると考え、どうしたらこのチェックをシングルチェック(作業したスタッフ個人だけのチェック)で済ますことが出来るかを考え続けました。

そして彼はあるとき

「数えるから間違えるんだ」
「だったら数えなければいい」

と考えました。
彼は作業の開始時に、

完成品の書類のセットの重さを計りました。
A4用紙1枚の重さは約4gです。つまり10枚の書類セットの場合40gということです。そして作業スタッフに計量器を購入し、一つのセットが出来るたびに重さを計ってもらいました。もし40gピッタリならOK、それ以外の数字になれば枚数が違っている可能性が高いということです。

このやり方は驚くほどのミス率軽減につながりました。知的障害のあるスタッフが行う作業において、シングルチェックのみでミス率はほぼ0になりました。

つまりMさんは

「数える」という行動を「計る」に変えたことで驚くような「改善」を実現したのです。


私はこの考え方の転換に感動を覚えました。まさに「コロンブスの卵」のような発想だと思いました。
私は「これスゴイよ、これで今年の社員総会に挑戦しようよ!!」とMさんに持ちかけました。ところがMさんはこの「計るの改善」も「400個の改善」も自分ではスゴイとは思っておらず

「はぁ、こんなので良いんでしょうか?」

という反応でした。
私はここからのMさんのプレゼンストーリーを一緒に考え始めました。

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