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【光る君へ】第3話感想

大河ドラマの序盤の回での楽しみに、「若年期の主人公に記録らしい記録が乏しいとき、主人公と史実の結び付きをいかに補強するか?」という課題への演出上の取り組みがあります。例えば『青天を衝け』の際には、幼い日の渋沢栄一が、獄に繋がれた高島秋帆と窓越しに会話してそこから国づくりへの動機を得たというストーリーが挟まっていました。場合によってはトンデモなことになってしまう一方で、今回は面白かったです。

内裏では円融天皇の体調や動向が取り沙汰され、師貞親王の即位がいよいよ現実味を帯びてきました。師貞親王の後継として、円融天皇は自分の子である懐仁親王の立太子を望んでおり、その祖父・兼家はここに自分と天皇の利害の一致を見ます。兼家は自身の政敵である左大臣・源雅信が即位後の師貞親王に自分の娘・倫子を入内させて権力を握るのではと警戒し、その思惑を受けた為時が、血縁を活かしてまひろを倫子の元へ送り込むのでした。
史実の紫式部はのちに、この倫子と道長の間に生まれて一条天皇の后となる彰子に仕えることになります。その出仕のきっかけとして、紫式部と倫子の親戚関係が指摘されているのですが、ドラマではそんなまひろと倫子の出会いを、前述のこの政情の中に持ってきたか...!と感嘆する思いです。

おまけに、ここでのまひろの振る舞いも個人的にはポイントが高いです。「偏つぎ」なる遊びの中で、まひろは女性らしからぬ漢字の知識を披露し、周囲の女の子たちを面食らわせてしまいます。実際の紫式部も、漢文の素養があることで女房達の間では肩身の狭い思いをしたようで、ここでの場面はそれをそのまま予表するものでした。倫子だけはまひろを無邪気にほめていますが、あれが本心なのかはもうちょっと様子を見たいところです。

一方、当初まひろは為時からの命令を代筆に行けずに家でくすぶっている自分への気遣いだと思っていたようで、自分が為時に利用されているのだと知って動揺してしまいます。「倫子様のお気に入りになれるよう努めます」という言葉に、為時が「(娘が決して言わなそうなことを)言わせてしまった…!」という表情が絶妙でした。為時の元を去ったまひろが、母の琵琶を見つめる様子には切なくなってしまいます。



深窓の令嬢・倫子をめぐって

倫子の遊び相手となっている女の子たちは、まひろと違って文学的素養には乏しく(あるいは乏しい振りをしている?)、おっとりとしています。のちに倫子と道長の娘である彰子に仕える女房達は、彰子のライバルとなる定子の女房に比べると機転や教養に乏しく控え目だったようで、『紫式部日記』ではそんな同僚たちの様子への紫式部の批判がつづられています。一世代ずれるものの、紫式部が目に映る女房の多くもまた、今回出てきたようなおっとりした顔ぶれだったのかなと想像しました。

雅信が倫子を嫁がせない様子を兼家はいぶかしんでいましたが、当の雅信は特に嫁ぎ先の算段を立てているようではないので、その実は単なる娘可愛さゆえのように見えます。倫子は後に道長の妻となる女性で、たしか雅信は彼女を帝の后妃にすることを考えて道長に倫子を嫁がせることをためらっていたように記憶していますが、どうするのでしょうか。

動き出す兼家の子供たち

今回、兼家の子供たちがより印象的な立ち回りを見せているなと思います。

町でとらえられた道長は自宅に戻るも咎められ、その従者であった百舌彦の立場が危うくなってしまいます。道長は詮子に兼家への取り成しを頼みますが、家での姉の政治的立場を察知し動く道長の姿に、将来の政治家の片鱗のような頼もしさが感じられました。

また、ふたりの長兄・道隆とその一家が東三条殿を訪れています。道隆の娘・定子が懐仁親王と遊んでいる様子を見ると、自分の実家に皇子がいることを好機として、そこに娘の定子を近づけたい道隆の意思が介在しているように思えてきます。のちに仲良し夫婦となるふたりの将来が思われてほほえましいような、その結末を想像して悲しいような気持になります。
このときに貴子が定子を見て語った「何事にも動じない心」は詮子にも響くようなものでした。道隆夫婦がうまくいっていることといい、詮子はどういう思いで聞いていたのかなと思いましたが、詮子の表情はその後確認できませんでした。
因みにその詮子はというと、市井の女性(まひろ)に思いを寄せている道長に向って「身分の卑しい女など、所詮いっときの慰み者」という言葉を放っています。当時の価値観らしいといえばそうだとは思う反面、ドラマでの詮子のように「当代の価値観に翻弄される側」として描かれる人物からこうした言葉が自然に出てくると、よりリアルでうすら寒い心地がします。

また、道長の次兄の道兼は兼家の意向も会って実資に接近します。第1回のインパクトがすごいのであまり気づけませんでしたが、道兼を演じる玉置さんの声が柔らかく優しくて、父に気に入られたい繊細な貴公子像が出ていました。既に存分に発揮されている粗暴さとの二面性が良い味出していると思います。

実資について

前回から存在感をさらに強めた存在として気になったのが実資です。平安時代を今に伝える貴重な文献となる『小右記』を残した彼らしく几帳面、そして一本筋の通った実直な性格がよく出ているなと思います。そしてそういった気質と矛盾なく—―というよりそういった気質から生まれてくるつかみどころのなさがユーモラスで、この怪演ぶりが癖になります。
ちなみに実資の装束のお腹の部分からは紙束がはみ出ています。あれこそが、『小右記』の基になるメモ帳か何かなのでしょうか。

鋭い実資は円融天皇の体調悪化の原因を毒物に求めますが、道兼の根回しがあったおかげか(表向きは)何もやましいことが見つかりませんでした。怪しまれた女房たちの実資への視線や心の声が不気味で面白かったです。でもきっと、男女の公的な関りの薄かったこの時代ですから、公卿から見た女房達はこんな感じだったのかもしれません(特に、道長・公任・斉信のような若くて遊んでいる世代でもなければ余計に)。

その他

◆公任による流麗な漢籍の暗唱を観ると、同じくNHKで町田氏の演じているイエナガ先生を思い出します。公任は漢文をはじめとする諸芸に秀でた人物で、今回もその点で完璧な貴公子として描かれる一方、そこにキャスティングされた町田さんが見せるであろう一ひねりが楽しみです。

◆為時の家に複数の家人がいますね。為時の家運が再び上向いてきていることが感じられます。

◆今回の「謎の男」は、散楽の一人である直秀のことを指しのだと思うのですが彼は一体何者なのでしょう。道長の日記『御堂関白記』には彼の郎党の名前が出てくることがあるので、のちにその一員になったりするのかな…と予想してみます。

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