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ハムスターに感化される売れない芸人の話 13.脱走

1匹いなくなった。
ケージをひっくり返し、隅から隅まで探しても、昨日より1匹減っている。

一昨日も1匹減っていた。
一番古株のジャンガリアンハムスター。
この時は1匹減っていることに気付くよりも先に、
ベッドの横をうろちょろしているのに気付いた。
好奇心旺盛で、見つかっちまったかと悔しそうな顔をする。

今朝いなくなったのは、
2週間前に我が家で生まれた、
ロボロフスキーハムスター。
臆病なので人間に自ら近づくことは殆ど無い。
自力歩行は最近可能になったばかり。
どこかで飢えてうずくまっているかもしれない。
足元に気を付け探しているが、
まだ見つかっていない。

ネットでは、
お腹が空いたのか自ら帰ってきたり、
気付かず踏みつけてしまったり、
忘れかけた半年後に生きて姿を現したり、
天に召された姿で発見されたり、
様々な脱走体験談が載っているが、
心は安まらない。

脱走はしばしば不満への抵抗として描写される。
脱走した先には
自由が待っていると知っているからだ。
以前の不自由と比較した自由を求めて走る。
自由を知っているから、
不自由への抵抗として、
走る。

我が家で生まれたハムスターは、
外の世界を知らない。
僕の部屋の中という外すら知らない。
だから抵抗ではない、
今回は冒険だ。
だからどうか急がず、ゆっくりと歩いて欲しい。
僕が追いつけるくらいのスピードで
冒険を続けてほしい。

コロナ禍で、
姿勢が悪くなる人が増えているらしい。
ワイドショーは少しでも上を向いて、
姿勢を正して、体調を整えましょうと騒ぐ。

希望と絶望で下を向く僕は、抵抗するしかない。


本当に申し訳ない。

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