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ハムスターに感化される売れない芸人の話 17.死と隣り合わせ

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飼育しているハムスターが亡くなった。

ロボロフスキーハムスターの雌を6匹同じケージ内で飼っていた。
全員で身を寄せ合い寝ているところに餌交換をしようと僕の手が伸びると、
いつものように皆慌てて散っていく。
しかし1匹見当たらなかった。
5匹の温もりが残った床材を少し除けると、
白く固い亡骸が生の終わりを教えてくれた。

寝ているだけなんじゃないか、
なんてよくある感想は少しも脳を過らなかった。
臆病なロボロフスキーハムスターだ、
僕の手の中で眠りに落ちるなんてことは無く、
一生懸命滑車の裏に逃げて、恐る恐る近づいてみてはまた逃げるせわしない奴らだ。
奇麗な亡骸だったが、
手の中で動じない様は
はっきりと死を伝えてくれた。

メメという名前で呼んでいた。
ロボロフスキーハムスターを3匹購入した際に、
一番小柄で、はっきりと雌と分かるから、女々、というような由来があった気がする。
一昨年の冬に痩せ細り、
体毛は荒れて、
水も飲んでくれないような状態に陥った。
死を覚悟したが回復してくれた。
翌春には元気な子供たちを産んだ。
小さい体で出産を耐え、
自分より大きく育て上げた。
最近は腫瘍が腹を染め、
遊び道具に血痕を確認していた。
ずっと死と隣り合わせだった。

ケージに残された5匹には何も変化はない。
いつものようにずっと寝てるし、
手を伸ばすと慌てて散って、
恐る恐る近づいてはまた逃げて、
夜中はずっと滑車を鳴らす。
何も変わらない。


彼らはもう何も覚えていないかもしれない。
ただ、最後まで寄り添い、
5匹が死と隣り合わせで過ごした時間が確かに存在していた。
亡骸に死後の冷たさを感じることは無かった。

どうか安らかに。

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