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ハムスターに感化される売れない芸人の話 9.十九日目と一日目

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生まれてから十九日が経った。
引き取りたいと手を挙げてくれていた方との連絡が進む。

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生まれてから数時間が経った。
父親がどうも育児の邪魔にしかなっていないようで、別ケージに隔離。
夫婦揃って育児をするパターンを観察したかったが、どうもうまくはいかない。


予想はしていた。
交尾のシーンを捉えていなかっただけで妊娠の兆候は確認できていた。
今朝、赤黒い塊が幾つか四散しているのを発見。


我が家で二事例目の出産だ。


2人目の母親はとても体が弱かった。
3匹同時に購入したロボロフスキーの中で比べても一際小さく、
飼育しているペットの中では唯一、
しっかりとした体調不良に陥った。

毛並みは悪くなり目ヤニだらけ、餌も水も摂れずうずくまっていた。
他の2匹に特に異常はない。
病気なのかいじめられたのか、
何が起きているのか分からなかったので、
別ケージに移し様子を見ることにした。

とにかく救いの手を差し伸べたかった。
消化に良いとされるりんごのすり身や、好物のフード、水。
しかし、何を近付けてもそっぽを向かれた。
部屋を適温にして、餌と水を置いて、清潔な環境を保つ。
他に何も出来ることは無かった。
衰弱し、ボロボロになった体を丸め、
差し伸べる手を掴めない姿は、
死を覚悟させるのに充分だった。


僕が寝て起きたら、彼女はピンピンしていた。
午前中は水を飲み、午後は餌をむしゃむしゃ食べていたので元のケージに戻した。
何もなかったかのように滑車を回す。
なんだったんだあれは。 

母親になって数時間。
今は差し伸べられた無数の手を、
しっかりと包み温めている。
死を覚悟させた姿は、
しっかりと生の覚悟を伝えてくれている。

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