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【リレー小説】明峰島の冒険 後編【月イチ企画】

リレー小説『明峰島の冒険』
今回は最後となる後編です。
前編や中編をまだ読まれていない方は、ぜひ前のお話から読んでみてください。

前編はこちら

中編はこちら


-後編-

 ――トロッコだった。
 木の枠で囲むように作られ、下には車輪が4つ付いている。誰もがトロッコ、と言われて思い浮かべるようなシンプルなトロッコだった。 

 それを見て思案する。

 アキネーターの次はトロッコ問題でもやらせるつもりなのだろうか?
 トロッコの下部から地を這って伸びているレールの先は暗闇だった。少し傾斜がついて下っているのは辛うじて視認できたが先に何があるのかは全くの不明だ。
 隣にいる織もレールの先を見ていたようだが、輝いた瞳を俺に向けてきた。

「お兄ちゃん、これの先にお宝があるんじゃ!」
「いや、待て」

 すでにトロッコへと手をかけて乗り込もうとしている織を一度止める。

「もしかしたら罠かもしれない。うかつに乗らない方がいい」
「えぇー」

 もしも、これが本当にトロッコ問題なのだとすれば、この先に2択の質問があって選んだ方を轢き殺す、もしくは轢いて壊すことになる。現代の日本において、そんな残酷なことはないだろうがここは地図に載っていない島だ。何があってもおかしくないだろう。

「お宝があるかもしれないのにぃ」
「…………」

 ぷっくりと頬を膨らませて不満顔になる織は可愛い。
 それに俺もこの先が気にならないと言ったら嘘になる。由良彦おじさんが連れてきてくれたのだから危ない場所ではないのだろう。しかし、万が一ということもある。織を危険な目には合わせたくない。

 乗るべきか、帰るべきか。

 ぐぬぬ、と考えているとトロッコの左側にある縦に長い穴から足音が聞こえてきた。ゆっくりと姿を現したのは坊主頭に眼鏡をかけた50代くらいの男だった。

「もしかして、挑戦しはる方でっか?」

 にこにこと親近感の抱かせる笑顔と共に濃い関西弁で話しかけてきた男に俺は少し困惑しつつも尋ねる。

「あ、あなたは?」
「私はね、この島で地理を教えている塾講師の村川と言います」
「村川さん」
「そうですぅ」
「あの、このトロッコは何なんですか? あと、挑戦って」
「これはね、この島のアトラクションの一つで、トロッコに乗って行くとこの先で5つの問題出されるんですねぇ。ほんで、それ正解すると豪華な賞品をゲットできますんで、ぜひとも頑張ってください!」

 ぐっと両手を握って説明してくれた村川さんに、織が「おぉ!」と声を上げる。

「豪華賞品だって! お宝だ!」
「挑戦しはりまっか?」
「するする! ね? お兄ちゃん?」
「あ、あぁ」

 完全に乗る気満々になってしまった織の熱意につい頷いてしまう。だが、その前に確認をしなくては、と村川さんに尋ねる。

「村川さん、これって安全なんですよね?」
「もちろんやがな。それで、本日の商品なんですけどね? ものすご~~く、良いものを用意させてもらいました」

 そう言って村川さんはどこからかタブレット端末を取り出して画面をこちらに見せる。

「本日の商品はこちら! 四国は香川県の名産、讃岐うどんのセットになりますぅ。香川県と言えばうどん、これは皆さんも知ってると思うんですけど、じゃあ讃岐うどんって他のうどんとどう違うの?ってことなんですが、これはね、コシだけじゃなくて滑らかでモチモチっとした触感、これが特徴になります。さらに出汁も瀬戸内の海で取れた魚介でとっているのでこれ一つで香川県を制覇できるといっても過言ではない、そんな素敵な商品となっております。ぜひ、お持ち帰りください」

 村川さんの商品説明が終わると、俺は織に手を引かれてトロッコに乗り込んだ。てっきり見た目で床が軋んだり、頼りない印象を抱いていたのだが、思ってよりもしっかりとした作りをしている。床もがっちりしていて、洞窟で作業をするトロッコというよりは遊園地のアトラクションで作られた機械のトロッコのようだった。

 まぁ、ここに来るまでにもアキネーターだったり、木の幹につけられた目立つ印だったりと明らかに人の手が加わっている様子はあった。由良彦おじさんはああ言っていたが、もしかするとテーマパークのようになっているのかもしれない。 
 ほっとしていると、

「ほしたら行きまっせ! ゲームスタート!」

 村川さんの合図とともにトロッコが動き出す。
 傾斜で少しずつ加速していって、トロッコは暗闇の中を駆けていく。

『第一問       香川県の旧国名は?』

 問題文と共に選択肢が左右に出てくる。
 左が「讃岐」で右が「阿波」だ。

「お兄ちゃん、これは」
「あぁ、だって『讃岐うどん』だからな」

 織と二人で顔を見合わせて、二ッと笑い合いながらトロッコの左側に移動する。トロッコがやや左に傾いて、直後に現れた左右に分かれ道を左に曲がった。

「だ、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ」

 さすがにこれは正解だろう。
 不安そうな表情の織の背中をポンと軽く叩く。
 すぐにピンポンピンポーンと正解を知らせる軽快な音が鳴って、織はほっとしたように頬を緩めていた。

 その後、俺たちは何とか4問目までをクリアして最終問題にまでたどり着いた。

『最終問題 香川県にあるサッカーチームはどっち?』

 選択肢は左側が「香川オリーブガイナーズ」、右側が「カマタマーレ讃岐」だった。

「え、お兄ちゃんどうしよう……わかる?」
「いや、ごめん。俺もわからない……」

 正直に言うとサッカーはワールドカップの代表選を見る程度で全く詳しくない。織のいる手前、格好よく答えられたら良かったのだが、適当を言うわけにもいかない。
 俺たちが悩んでいる間もトロッコは進んでいく。分かれ道に行きつくまでに回答を選ばなければならない。適当に選んでも半分の確率で豪華賞品なのだ。

「織、好きな方を選べ!」
「わ、わかった! 右にするっ!」

 織の元気の良い声とともに俺たちはトロッコの右側に移動した。そしてトロッコは分かれ道を右に進んでいく。
 と、少しずつトロッコはスピードを落として行って、やがて目の前に光り輝く宝箱が見えてきた。

「お兄ちゃん!」
「あぁ!」

 ゆっくりとトロッコは宝箱に近づいていき、宝箱がパカッと開いたところで――

「――ッ!」

 俺は目を覚ました。
 カーテン越しに光が差し込んでいないのでまだ朝はやって来ていないのだろう。スマホで時間を確認すると朝の4時を少し過ぎたところだった。

「……変な夢だったな」

 最初に片づけをしていた蔵、あれは本当に祖父母の家のものだった。あまり入ったことはないはずだが、かなり鮮明に描写されていたように思う。そして、宝の地図と明峰島。島にあった謎のアキネーターにトロッコ問題。
思い返してみても、本当に謎の夢だったように思う。

 どうしてこんな夢を見たのだろうか。よく、わからない。

 と、何か気配のようなものを感じて視線を扉に向ける。
 こういう時、兄妹で同じ夢を見るなんて展開を映画やドラマで見たことがあるが、少し待っても妹がやって来る様子はない。

「まぁ、そんなはずないか」

 扉から目を離して、俺は自嘲気味に乾いた笑いを零した。


 ――だって、俺に妹はいないのだから。


リレー小説『明峰島の冒険』完


というわけで、さしす文庫は7月28日(日)に行われる文学フリマ香川に参加します!

場所は高松シンボルタワーの展示場。
入場は無料で、11時から16時まで!
ぜひ来てね!!!


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