さささ

書いたり描いたりします。

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アルファ・ケンタウリ心中

 目が覚めたのは高度治療カプセルの黄色い液体の中だった。私は私は治療着姿で柑橘の香りに包まれていた。  この手のカプセルに入るのはこれで三度目だ。一度目は学生時代、年増の女と無重力下での縊死を試みた際。二度目はその三年後、夫持ちの女と真空に投身した際。  三度目は……今回は、若い女とだ。クローン再生も済んではいない。私と女は手に手を取り合い、外惑星アースコロニーの海へ入水したのだ。  たまさか隣に掛けたばかりの縁だ。向こうもよもや、こんな合成有機アルコールに

    • 中田上区役所地域安全課『無』対策室の無常

      「おーい、こっちにも『無』があったぞ」  大崎さんが手を振る。そこには空き地があり、伸び放題の雑草が並んでいた。 「『無秩序』ですね」  大崎さんは頷いてペンを走らせる。大規模な無であれば上に報告するし、小規模なら我々査察官が直接有転換してやる——すなわち、この場合は草刈りだ。 「手作業じゃ『無理』だな。業者か」  要対応、と記された紙はファイルにしまわれた。  いつからか『無』が世に蔓延り出した。政府は対応を迫られ、巨額の予算を投入し、つ

      • 恐怖! 感染性美少女!

         美少女に噛まれると美少女になる、そんな現象が蔓延っている。  ただの美少女ではない。肩までの黒髪、肌は白く、唇は艶やかな赤。伏せ目がちの黒い宝石のような瞳、そういうタイプの美少女だ。大抵は白いワンピースを着ている。そして、全員が瓜二つの顔。  この辺りでは、角の酒屋の三橋さんがまずやられた。町外れに配達に出かけた時に、突然飛び出してきた美少女に噛まれたらしい。彼は三日寝込んで、目覚めた時はすっかり美少女になっていた。次にその家族がやられた。気のいいおばさん、やんちゃ

        • ラストリエフ伯爵の栄光と退屈

           世に名高きラストリエフ伯爵と僕が出会った時の話をしようか。もう十年は前のことだが、きっと伯は今でも長い白髪をなびかせ、変わらぬ美貌で黒に沈んだ夜を駆けているのだろう。  僕が旅行でグラシニアの首都、ハールヴェルを訪ねた時のことだ。時刻は午後四時。僕は中世の面影を残す灰色の街並みにいささか興奮した大学生で、伯はたまさかその辺のくすんだ酒場でジンを煽っていた。  普段なら出会わなかったはずのふたりだ。僕にだって危機管理の気持ちはある。ただその時は、その、だって憧れる

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          都市伝説ノ続キノ話

           こないだ串坂の駅前で待ち合わせしてた時のことだよ。あそこの外のやたら広いデッキの端っこで、サークルの知り合いを待ってたんだ。日付は忘れたけど、なんとなく薄く雲がかかって、あんまり明るくはない感じの昼下がりだったな。  知り合いは十分しても現れなくて、メールも来ない。仕方がないから僕は手すりに寄りかかって、雲の感じを見たり、携帯をいじったり、そんな感じでしばらくいたんだ。それでもやっぱり来ないから、もう行くぞ、借りた本は明日返すからなって連絡して、それでひとりで飯でも食おう

          都市伝説ノ続キノ話

          泥濘の夢

           書き物をしようと硯箱を開けたら、中にまた黒い汚泥が入っていたので難儀した。  暫く前のことだ。夕暮れの暗くなりかけた廊下をふらりと歩いていたら、耳につく嫌な湿った音と、足袋が濡れた冷たい感触とがあった。見るとどこから来たものか、黒くぬらぬらと濡れた泥がひとつまみ分ほど、磨かれた廊下に棄てられていたのた。ただの泥ではない。手に取って鼻に近づければ濁った嫌な匂いのする汚泥だ。  心当たりはあった。近くの小さな神社の脇道を行ったところにある緑色の沼は、近頃干上がってき

          泥濘の夢

          「揺れるデイ・アフター・ウォー」が面白かったよという話

          お前らは孤島に築かれた学園都市とか好きか! 好きだ! そんな学園都市を舞台に、おなじみの顔ぶれが楽しく青春しながら暴れるのは好きか! 好きだ!! じゃあそこである日突然学内抗争が起こったら! 最高じゃないですか!!! そういうお話です。 はじめに 朝倉侑生:「(――なんか、ばかみたい)」 朝倉侑生:「(皆、かっこつけてさ。学校でさ、こんな…戦争みたいなこと、して)」 突然ですが私の趣味のひとつはTRPGであります。ことに自分の周りではダブルクロスというシステムが人

          「揺れるデイ・アフター・ウォー」が面白かったよという話

          桜の死んだ日

           浩二の祖母の住んでいた家は、主が亡くなった後もごくこじんまりと綺麗に整えられていた。近くに住む叔母が、時折掃除に来てくれているらしい。ただでさえ少なかった物はいっそう片付けられていて、それが少し寂しかった。  少しの間この家に滞在したいと言い出したのは、数ヶ月前の葬儀の席だ。なんのかのと理由をつけて、毎年この季節に彼が祖母を訪ねていたのは親戚にもよく知られていたし、すぐに許可は下りた。叔母には、浩二ちゃんはお祖母ちゃん子だったものねえ、毎年遊びに来てくれて嬉しいって母さん

          桜の死んだ日