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中田上区役所地域安全課『無』対策室の無常

「おーい、こっちにも『無』があったぞ」

 大崎さんが手を振る。そこには空き地があり、伸び放題の雑草が並んでいた。

「『無秩序』ですね」

 大崎さんは頷いてペンを走らせる。大規模な無であれば上に報告するし、小規模なら我々査察官が直接有転換してやる——すなわち、この場合は草刈りだ。

「手作業じゃ『無理』だな。業者か」

 要対応、と記された紙はファイルにしまわれた。

 いつからか『無』が世に蔓延り出した。政府は対応を迫られ、巨額の予算を投入し、ついでに雇用対策も兼ねて査察官を大量に採用した。『無為』に日々を過ごしていた僕も、今では公務員の資格を有しているというわけだ。

 無意味、無駄、無分別、無責任……様々な『無』を駆逐する、それが僕らの仕事。徹底的に無口・無反応・無愛想・無感動を矯正され、有能で有望な有志として有事に備えるのだ。

 有事とは何か?

 『無限』の襲来だ。

【続く】

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