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ラストリエフ伯爵の栄光と退屈

 世に名高きラストリエフ伯爵と僕が出会った時の話をしようか。もう十年は前のことだが、きっと伯は今でも長い白髪をなびかせ、変わらぬ美貌で黒に沈んだ夜を駆けているのだろう。

 僕が旅行でグラシニアの首都、ハールヴェルを訪ねた時のことだ。時刻は午後四時。僕は中世の面影を残す灰色の街並みにいささか興奮した大学生で、伯はたまさかその辺のくすんだ酒場でジンを煽っていた。

 普段なら出会わなかったはずのふたりだ。僕にだって危機管理の気持ちはある。ただその時は、その、だって憧れるだろ、夕日に照らされたファンタジー映画まんまの赤い紋章風の看板と店構え、挙句の果てには『咆哮せる獅子』亭だなんて名前!

 後で聞いたところによると、伯も全くの気まぐれで夕刻から酒を口にしたくなり、その店を選んだのだそうだ。高貴な伯には珍しい選択で、だからこそ僕らは出会い——巻き込まれた。

 『連続四肢増殖事件』にね。

【続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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