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アルファ・ケンタウリ心中

 目が覚めたのは高度治療カプセルの黄色い液体の中だった。私は私は治療着姿で柑橘の香りに包まれていた。

 この手のカプセルに入るのはこれで三度目だ。一度目は学生時代、年増の女と無重力下での縊死を試みた際。二度目はその三年後、夫持ちの女と真空に投身した際。

 三度目は……今回は、若い女とだ。クローン再生も済んではいない。私と女は手に手を取り合い、外惑星アースコロニーの海へ入水したのだ。

 たまさか隣に掛けたばかりの縁だ。向こうもよもや、こんな合成有機アルコールに胃の腑を焼いた、全身の六割が生体機械の補助で動く男を見初めたわけでもなかろう。私は女の触手が少し湿っているところに好感を覚えたが、それだけだ。

 少し液体が透き通り、治癒の終わりが近づくのを感じる。眼球を左右に動かす。傍に他のカプセルはなかった。私だけがボンヤリと浮かんでいた。

 ああ、ひとり生き残ってしまった、と思った。

【続く】

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