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“任期付き”の暴力性(心理職の場合)

「職業というのは本来は愛の行為であるべきなんだ。便宜的な結婚みたいなものじゃなくて」村上春樹『日々移動する腎臓のかたちをした石』(『東京奇譚集』新潮社,2005)

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

昨年の10月に招待論文2本の締め切りがあってワークライフバランスぶっ壊れていたんですが、なんとか持ち直しました。どちらも校正は終わっているので、あとは発行と掲載を待つのみ。今年度は査読付論文が書けなかったけど論文2本はなんとかかたちにできたし、ご縁があって新しい仕事(珍しく楽しい仕事)にも着手しているので、まあ良しとします。

12月は三代目J Soul Brothersの京セラドームで登坂さん(臣ちゃんなどとは畏れ多くて呼べない)の美しさに圧倒されたり、『劇場版呪術廻戦0』の完成度の高さに圧倒されたり、なんだかんだで楽しく過ごしていました。

研究は想像以上に進んでいません。やばいですね。

サブカル臨床とは関係ないんですが、最近、つかここ10年くらいずっともやもやしていることがあるので、備忘録的に(現実逃避的に)書き留めておきたいと思います。そんなことしている場合じゃないのにな。

心理職(臨床心理士・公認心理師)の方々に聞いてみたいのですが、『任期』って…どう…どう考えておられますかね…

とある心理職の求人事情

ご存じの方も多いと思いますが、2013年の改正労働契約法により、有期労働契約が反復更新されて通算で5年を超えたときは、労働者からの申込みにより、期間の定めのない無期労働契約へと転換できる「5年ルール」というのができたんですよね。

そしていわゆる「2018年問題」が生じたわけです。これに伴い使用者は、雇用者に対して進んで有期契約から無期契約へと転換していくか、もしくは5年ルールを回避するために予め更新期間を5年未満とする有期契約を結ぶようになりました

本来非正規雇用者の安定を目指したはずの改正労働契約法の主旨・目的に反してた使われ方がされるようになったわけですね。

私はといえば、任期付きの仕事に嫌気がさして心身ともにボロボロになりながら就活をして、なんとか(ある程度は)安定した希望の職に就けたという経緯があります。

病院とかスクールカウンセラーで任期付きってあんまり見ない気がするんですけど、私が働いてたとある領域(ぼかしててすみません、上記の有料記事には書いてるんですが、わかる人にはわかるかなと思って)って、圧倒的に任期付きが多いんですよね。

今も惰性で常にJrecinと学会HPの求人チェックしちゃうんですけど(就活苦しんだひとあるある)、2021年の1年間に学会HPに出てた求人の内訳ってこんな感じでした。

任期付:80%
非常勤:54%
常勤無期:12%(うちアカポスじゃないもの:5%)
常勤有期:33%

公募出てるの、8割任期付きなんですよ。

ちなみに日本心理臨床学会職能委員会(2018)が出してる統計だと、会員全体で 常勤無期:42.4%、常勤有期:11.9%、非常勤:36.9% だそうです。まあこの上記の求人の数値には、既に常勤無期で働いている人々の数は含まれないわけですが。

単純に考えて、新しくこの領域で常勤無期を狙おうと思うと業界の上位12%じゃなきゃ難しいし、博士号なくてアカポスが無理なら5%弱しかないし、地域とか考えると選択肢もっと狭まるし、…とか考えると、…無理ゲーじゃね…?

語られない任期付きの問題


でも、なんかもう界隈で当然みたいになっているんですよね、任期付きの求人が。任期付きであることに感覚が麻痺してしまっている感じ。だってみんな(8割が)そうしているから。

そんで、誰もそんな話パブリックにはしていないんです。飲み屋で愚痴ったり、親しいひと同士では「任期付きはつらいよ」くらいは話すかもしれない。けど私個人の話で言えば、たっかい学費払って大学院出た自分が無職になるかもしれないことがどれだけ惨めで苦しいかなんて、家族や個人セラピーの分析家以外には話せなかったです。

なぜ任期付きの問題は語られないのか。「そんなの最初からわかってたことじゃん」というのが大きいのではないかと思います。つか応募要領にも書いてあったことだし。嫌なら病院とか公務員とか、任期のない職目指せば良かったんじゃない?

これって、かなり暴力的でグロテスクな話なんじゃないでしょうか。

5年間(あるいは3年間)だけ雇います、けど、その先のことは自己責任でお願いします」って、なんていうか、やばくないですか。いや、確かにあえて任期付きで働きたいってひともいると思いますよ。キャリアがまだ定まってない若いひととか、あるいはひとところでずっと働くのが苦手なひととか。他はちょっとわからないけど、任期付きの方が都合が良いと感じるひともいると思います。

けど、40代50代になってもその感覚のままでいられるんだろうか。40代50代で任期が切れたとき、他の心理職と競って、今と同等の条件の職に就けるんだろうか。かつて30代半ばだった私は不安で仕方なかったです。

雇用が安定していないことに関して、当時はそこまで明確に意識していなかったけど、今思えば様々な陰性感情がありました。仕事を頑張っても昇給するわけではなく、休めばその分収入は減りましたし、環境に慣れてきた頃に辞めないといけない虚しさもありました。任期で辞めさせられる自分もたいがいしんどいのに、ケースでクライエントにそれを伝えなくてはならず、動揺するクライエントの姿に罪悪感を膨らませていました。

ハローワークで働く職員さんが非正規、みたいな話をよく聞いてましたけど、心理職でも似たようなこと、結構あるんじゃないですかね。

たぶん、任期があることは心理職に負荷を与えているし、その負荷は何らかのかたちでクライエントにも影響しているのではないかと思います。おそらくは、良くないかたちで。

けど、そうした負の側面はほとんど公では語られず、見て見ぬふりされ、任期付きの求人が出され続けています。

気取って冒頭に村上春樹引用してますけど、任期付きの職業ってなんなんですかね。「向こう5年は楽しく付き合いたいと思ってる、けど…結婚する気はないから」みたいな感じ??クズやん。

じゃあどうすんのって話

ここまで考えてきて、私も明確な方針とか改善策があるわけではないので申し訳ないのですが、とりあえずは語っていくことかな、と。任期付きの心理職がどんな辛い思いしてるのかとか、それがケースにどう影響しているのか、とか。ここにこんな問題があるよ!って言ってくとこから始めるしかないのかなと思います。

もしくはもう、任期はなくならないものと割り切って「任期付き心理職の働き方」というモデルを作ることですかね。任期付きカウンセラーはこんな風に働いてますよっていう。「5年目はもう最終年度だし、新しくインテーク入れないでください!あと就活もあるので急に休んだりします」とか、そういうのが周知されてるとまだ楽かも。でも一人職場とかだと辞める直前までインテークせなあかんわけで・・・クライエントにも迷惑な話ですよね。

今後は、任期とか外的環境に左右されない「開業」って選択肢が増えていくのかなと思ったりもします(既に増えてる気もする)。最近はオンラインのプラットフォームに登録して週末プチ開業とかするカウンセラーも増えていますし、私自身も関心はあります。ただ、現実の実績や人脈がないのに「開業」してみても、自分のやりたい仕事ができるかわからんし・・・まあぼちぼち考えていきたいと思います。





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