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さもないごちそう 「お好み焼き風」

 昔から父の帰りは遅く、家族がそろって夕飯を食べるのは週末だけだった。そういうことが関係してるのかしてないのかわからないけれど、土日は決まってお鍋やすき焼きなど、みんなでなにかを囲んで食べるメニューが多かった。うちの家庭は、カセットコンロとホットプレートの稼働率がかなり高い家庭なのではないかと思う。ほとんど毎週末どちらかがテーブルに鎮座している。ハンバーグやカレー、焼き魚や煮物、そういったものは自然と「平日に食べるもの」という認識に、今もなってしまっている。

 ホットプレートを使用するメニューの中でもっとも多いのは、お好み焼きだ。食べ盛りのときは信じられないくらい大きいなお好み焼きをぺろっと食べ、その後に焼きそばを作り、そちらもてんこ盛り食べていた。高校生のときは、ソースとマヨネーズを混ぜた味がこの世のありとあらゆる味の中で一番好きだった。

 少し前まで、私は陶芸のアトリエで働いていた。器を作る場所だったからか、みんなで食べ物の話をすることも多かった。昼食の時間とおやつの時間をとても大切にしていて、アトリエの器を使って食事をしたり、コーヒーを飲んだりしていた。食べることが大好きな人たちがたくさんいた。
 そのアトリエである日、「関西人の家にはソースが何種類もあるらしい」という話になった。はじめは「へぇー、そうなんだ」くらいな気持ちで話を聞いていたのだけれど、自分の家に常備してあるソースの種類が、その場にいた人たちの中でぶっちぎりに多かったとき、自分が関西人の子であったことを思い出した。

 両親はともに京都出身。だけど私が生まれる前に東京へ越してきたため、私自身は東京生まれ東京育ちだ。それでも家での共通語は京都弁だし、味覚や、郷土愛的ソウルな部分には京都のそれらが私にもしっかり染み付いている。
 お好み焼きに対する熱量は、大阪の人に比べたら全然低いに決まってる。でもソースの一件から察するに、東京の人の中ではわりと高い方なのだと思う。そもそも、お好み焼きを家の夕飯で食べることがない、という人ばかりだった。それにはかなり驚いた。だってうちでは少なくとも、月に2回はお好み焼きが登場する。
 擦った長芋に卵と粉末だしを入れ、小麦粉で生地のかたさを調節する。キャベツと天かすは焼く直前に生地に混ぜ、ホットプレートで焼く。豚肉をみちみちに並べるのが私は好き。
 簡単で美味しいお好み焼きだけど、これをもっと簡単にした「お好み焼き風」というメニューも我が家ではよく登場する。長芋も小麦粉も使わない、お好み焼き「みたいな」料理だ。
 刻んだキャベツを熱したフライパンに敷き詰め、溶き卵を上からかける。その上に甘辛に味付けした豚肉をのせ、するっと大皿に移し替えたら、ラップをしてレンジでチン。つなぎは卵だけ。おたふくソースとマヨネーズをかけたらできあがり。お好み焼き味が食べたい、けどホットプレートを出すのも面倒だし長芋を擦るのもめんどくさい。そんなときに手軽に作れて、且つお好み焼きよりも(たぶん)カロリーが低い優秀メニューだ。

 ご当地グルメがあるように、それぞれのご家庭グルメももちろんあるはず。この「お好み焼き風」なるものも、我が家のご家庭グルメのひとつだ。自分のうちでは当たり前に食べているものも、誰かにとっては食べたことないものだったりする。相手が知らなければ教えてあげる、自分が知らなければ教えてもらう。そんな風にレシピが広がり増えていくから、誰かとごはんの話をするのは楽しくてやめられない。


〈お好み焼き風〉
キャベツ たまご 豚肉(細切れ)
醤油 砂糖 みりん おたふくソース マヨネーズ

一、 キャベツを刻む。千切りでもなんでもいい。熱したフライパンに敷き詰める。
二、 溶き卵をキャベツの上からまわしかける。
三、 甘辛く味付けした豚肉をのせる。ある程度かたまったらお皿に移す。四、 ラップをしてレンジでチン。キャベツがしなっとして卵が固まれば大丈夫。
五、 ソースとマヨネーズをかける。鰹節、九条ネギをちらしてもおいしい。

*レンジでチンの工程が面倒くさければ、フライパンに蓋をして蒸し焼きにしちゃえば、いける。

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