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私が夫と夫婦になるまで-最終回-

将来の夢は、お嫁さんになること。そしてお母さんになること。本気でそう思っていた。


私は小さいときから家族と過ごす時間がとても好きだった。お母さんが作ってくれるご飯、お父さんの運転で行くドライブ、お兄ちゃんとするゲームや漫画の話し。みんなで過ごす休日、季節ごとのイベント。家族の中で積み重ねてきた日々のひとつひとつが私にとってかけがえのないもので、自分の人格や哲学、そういったものの基礎となっている。


「将来はこんな仕事がしたい」という夢や目標は、大人になるまではっきりと持てなかったけれど、「家族を作りたい」という思いは子どもの頃からずっと変わらず、強く自分の中にあった。

一人では叶えることができない私の夢を、一緒に叶えようとしてくれる人が現れたことは本当にラッキーで、幸せで、奇跡みたいなことだと今も思っている。
一言で言ってしまえば、うちは「家族愛が強い家庭」になるだろう。
両親は結婚後、父の仕事の都合で京都から東京へ引っ越してきた。まだ幼い兄を連れ、親も親戚も近くにいない、見知らぬ土地で生活を始めることがどれだけ不安で心細かったことだろう。私なんて、想像するだけでも恐ろしい。だからこそ、父と母は「二人でこの家族を作ってきた」という思いが強い。私はそんな二人の愛をたっぷりと浴びてここまで生きてきたのだ。

彼は、そんな私の家族の在り方をネガティブに捉えることはなかったし、それが私の基礎となっていることもよく理解してくれていた。その上で、私と家族になりたいと思ってくれたのだ。家族愛が強すぎる家庭で育った箱入り娘を嫁にもらいたいと思うだなんて、本当に稀な人だと思う。

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2020年2月、彼の国家試験が終わった。彼が2年間頑張ってきたことの結果が出る。そしてその結果次第で、私たちのこれからも変わってくる。二人にとって、それはそれは大きな岐路だった。

数日後、試験の合否がわかる日が来た。ドキドキしながら結果を待っていると、彼から「今からちょっと顔見に行って良い?」という連絡があった。
どうだったんだろう…と不安に思いながらも「待ってる」と返し、私は家でじっと待っていた。
思い返せば、彼は今まで二人の時間をたくさん作ってくれていた。私は彼の試験のためのサポートなんて全然できていなかった。会いたいとか、結婚の話とか、そんなことばかりして彼の時間を奪い、精神的にも追い詰めてしまっていたんじゃないかと、ようやくこのときになって気付き、そのせいで合格できなかったらどうしようと不安になっていた。(気付くのが遅すぎる。本当にあの頃の自分を叱ってやりたい)

彼の車が家の前に到着した。
降りてきた彼の口から、合格という言葉が聞こえたとき、私は心底ホッとした。嬉しい気持ちよりも、ホッとした気持ちのほうが大きかった。これで春から、彼は目指していた仕事に就ける。今までの頑張りが報われたんだ。本当によかったと思った。
「よかったねぇ…おめでとう!」と伝えると、彼は突然車の中からバラの花束を取り出し、それを抱えながら「今まで支えてくれてありがとう。結婚しよう」と私に向かって言ったのだ。


ちょっと何が起こっているのか、一瞬わからなかった。
シャイで、感情をあまり表に出さない彼が、花束を抱え、少し涙目になりながらこちらを見ていた。今起こっていることが、頭の中でうまく繋がらなかった。
目の前で繰り広げられているのはずっと憧れていたあの場面なのに、「彼」と「花束」と「結婚しよう」がすぐに繋がらなくて、一瞬よくわからなくなった。だけどすぐ私の涙は溢れて止まらなくなった。

ああ、プロポーズだ。
私今、好きな人にプロポーズされたんだ。

生まれてはじめて買った、と言って渡してくれたピンクと黄色のバラの花束。まっすぐ私を見てくれている彼の顔。再会したあの日のこと、今日までの時間、そしてこれからの日々。
いろんなことが胸いっぱいに広がり、私は子どものようにわんわん泣いた。わんわん泣きながら、「よろしくお願いします」と言った。たぶんこのときが人生で初めての、本当の嬉し泣きだったと思う。

言葉にすることが苦手な彼が、言葉が欲しい私のために言ってくれた言葉を、私は生涯大切に、心にしまっておこうと思った。


それから私たちは、結婚に向けた準備をひとつひとつ進めていった。
両家への挨拶、結婚式場選び、新居を探して引っ越しの準備。
私たちが結婚準備に取り掛かる頃は、ちょうどコロナがすごく流行りはじめたときだった。そのせいで計画通りに進まないことも、当初の予定とは大きく変わってしまったこともあり、辛い気持ちになる日もたくさんあった。けれどその度、彼は変わらず私にいつも寄り添い、気持ちを整理してくれたし、二人で歩くべき道を手を繋いで歩いてくれた。
そんな彼のおかげで、私たちは2021年1月に入籍をし、新しい家での生活をはじめることができ、5月には結婚式を無事挙げることができた。そして今、2022年2月、私は臨月を迎えている。

お嫁さんになるという夢が叶い、お母さんになるという夢がもうすぐ叶う。
27歳で初めて恋人ができ、その恋もよくわからないままに終わってしまい途方に暮れていた矢先、小中学校の同級生だった男の子が突然目の前に現れ、付き合い、結婚し、夫婦になった。

白馬に乗った王子様がいつか自分のことを迎えに来てくれるなんて、そんなこと思っていなかったと言ったら嘘になる。いい年して、めちゃくちゃそうなる未来を私は信じて待っていた。
そんなこと起こり得ない、自分から捕まえに行くくらいの気持ちじゃなきゃだめだ、と幾度か思ったりもしたけれど、やっぱり信じていたのだ。
誰かが自分を選び、迎えに来てくれることを。
そしてその人と、自分の夢を叶える未来がいつか来ることを。
人からしたら「バカみたい」と思われるかもしれないけれど、私は、自分の信じる気持ちを大切にしてきてよかったと思っている。
「いつか」というのは、人それぞれ来るべきタイミングが違うだろう。でも心の中に「いつか」をずっと大切に持っていれば、その「いつか」は必ずやってくる。
私はこれからもそんなこと考えながら、いつ来るのかはわからない、だけどきっと来る「いつか」の夢を、心に描きながら暮らしていこうと思う。

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