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今日も今日とて、お母さん。-空前絶後の大つわり編-

私、完全につわりナメてた。

人それぞれなんだろうけど、私の場合は、まず水が飲めなくなった。それから、口の中はいつも砂と十円玉を舐めてるような味がしていて、単純に24時間気持ち悪かった
それに加え、急に自分の家を臭く感じるようになってしまい、洗剤の匂いも、冷蔵庫から調味料に至るまで、とにかくあらゆる匂いを受け付けなくなってしまった。もう自分の鼻を封鎖するしか方法がなく、一言で言えば「地獄」みたいな感じだった


ちょっと想像してみてほしい。
明けても暮れても口の中に砂と十円玉を詰め込まれ、喉が渇いても滑った生臭い液体しか飲むことを許されず、謎の刺激臭が充満した部屋で生活することを。
地獄以外のなにものでもないだろうよ。

私が何をしたって言うんだ!
こんな仕打ち、ひどすぎる!
お腹すいた!でも何も食べたくない!嘘!鍋焼きうどんなら食べれそう!嘘!やっぱり食べれないサブウェイなら食べれる!違うサンドイッチじゃなくてサブウェイ!!!!!


そのとき食べたサブウェイ


文字にすると、ただのめんどくせぇわがままなギャルみたいに見えるけれど、実際あのときの私はめんどくせぇわがままなギャルだった。

匂いに関しては、本当に、本当に辛かったのだ。
今までそんなに気にならなかったものの匂いを100倍強く感じ取るようになってしまった鼻で生きていくことは、本当に過酷だった。
大好きだった料理もてんでできない。だって料理っていろんな匂いがするから。
お風呂やトイレの掃除、洗濯だってできない。なぜって排水溝も洗剤も匂いがあるから。
気分転換に買い物に行くことすらできない。スーパーも本屋も雑貨屋も、モノがあるところにはもれなく匂いがあるから。

世界は匂いに満ちすぎていた。


当時の日記に「世界が匂いに満ちすぎている。無臭の世界へ行きたい」と、か細い文字で書かれていた。「よく頑張ったね…」と私はその文字をそっと優しく撫でた。
耐え難い刺激臭の中(ほんとはそんな匂いしない)、切迫流産ということもあって、私は自分の匂いがついた布団を被って寝てることしかできなかった。自分と夫の匂いだけは大丈夫だったのがせめてもの救いだった。(自分やパートナーの匂いがダメになる人もいるそう)

食事に関しては、まったく食べられなくなるということはなく、食べられることは食べられる。だけど食べられるものは限られている、という感じで、なんともわがままな状態だった。
そんな中、私が好んで食べていたのは、鍋焼きうどん(普通のうどんは食べられず、コープの冷凍鍋焼きうどん限定)、ケチャップご飯、焼きそば。酸っぱいものとか全然食べたくなかった。


だけど今食べられると思ったものも、さて目の前に出されたら全然食べられなくなってる、なんていうこともざらにあった。なんて奴だ。その都度お伺いを立ててくれていた夫はもちろんのこと、この間ずっと助けてくれた実家の両親には本当に迷惑をかけたし、感謝している。

仕事も辞め、家事もろくにできず、臭い・気持ち悪いを繰り返し、真夏に鍋焼きうどんしか食べられないと言う人間になってしまったことが申し訳ない。
いつも不安げで笑顔も少ない、わがまま言い放題である自分に嫌気がさす。

ずっと欲しかった、赤ちゃんが来てくれたというのに。
ずっとなりたかった、お母さんになれるというのに。

わかってる、わかってるんだけどうまくできない。つわりで苦しんでる人はいっぱいいるし、私より大変な人もいっぱいいるのに、私は…私は…。

今までなんともなかったのに、子を宿した途端に変化した身体や心。その変化に戸惑っていたとき、病院で助産師さんに言われた「今は自分のことだけ考えていればいいからね」という言葉に、私はとても救われた。

もちろん家族はなんども同じような言葉をかけてくれた。
「無理しないで」
「なんでも言っていいから」
「何もしなくていいから休んでて」
「今は自分のことと、お腹の子のことを第一に考えよう」
家族は優しいから、私のことを気遣ってこう言ってくれている。でも他の人から見たら私は甘やかされてるように見えるだろうし、もしかしたら家族も実はそう思ってるかもしれない。私はわがままで、ダメな奴なんだ… 。

単純に心配し、支えようとしてくれていた家族の優しさも、素直に受け入れられない精神状態。

そんなときだったからこそ、第三者から言われた「自分のことだけ考えていればいい」という言葉にはとても救われた。
あぁ私は世の中的に今はこうしてて良いと言われる存在なんだ、私のわがままはわがままじゃないのかもしれない、だって身内じゃない世間様がそう言ってるんだもの!と、自分を肯定してあげることができたのだ。

他人からの声が必要なときも、人間ありますわな。


これを読んでくれている人の中に、もしつわりで辛い思いをしている人、これからつわりで辛い思いをするかもしれない人がいたら、世間の声として伝えておきたい。

今は自分のことだけ考えればいいからね!
気持ち悪いも辛いも悲しいも怖いも、思って当然!言って当然!
「つわりは必ず終わるから」っていう言葉がちっとも支えにならない気持ちもよくわかるよ!今辛いんだもんね。毎日24時間気持ち悪いししんどいなんて、辛すぎるよね。
えらい!!!本当にえらいよ!!!


そしてこれを読んでくれている人の中に、つわりで辛い思いをしている人の側にいる人がいたら伝えたい。

弱音も愚痴も不機嫌も全部受け止めて、とにかく優しく接してあげてお願い。


妊娠もつわりも、病気じゃないとは言うけどさ、わかってるよ、わかってるんだけど、だからこそ弱音を吐けなかったり、弱音を吐く自分に情けなくなったりしてしまう。
身体も辛いし、心も不安定。今ならわかる。弱って当たり前の状態なんだよね。


献身的な夫のサポートと、強力な助っ人(実家の両親)の支えにより、めんどくせぇわがままギャルと化した私も、妊娠10週目頃にはだんだんと普通の30代女性に戻ることができた。
ただ、いつまでも家の匂いが克服できなかった私の頭には、最終手段、「引越し」の文字がちらちらと、チラつき始めてしまっていたのでした…。


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