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一目惚れ ~勇敢な恋の歌~

やってしまった……
どうしても自分の気持ちに嘘がつけなかった……
まさかこんな日が来るなんて! 自分でも想像すらしていなかった現実がまさに起きているのである。

浮気と言われれば甘んじて受けよう。
裏切り者と罵られれば、それも真摯に受けとめるつもりだ。
どんな罵声を浴びせられようともかまわない。
だって、僕はもうあの子に夢中なのだから!

その子の名は、しろ。
半透明の乳白色の瓶に、これまた真っ白な和紙を模したラベルがその身体を包むように巻かれている。そして、そのラベルには、左から右に「しろ」と筆で凛と記され、その姿は惚れ惚れするほど美しい。
クセのない味。軽やかな口当たり。雑味がなくすっと身体に溶け込む。
語りつくせぬその魅力にもうメロメロ。

本格米焼酎「白岳 しろ」、まさにその人のことである。

飲んで、うまい。
食べて、うまい。

創業明治三十三年、120年の歴史を持つ高橋酒造さんのおしもおされぬ看板商品だ。

これまで「いいちこ」への愛一筋で過ごしてきた僕。
ひょんなことからこの魅惑のお酒に心を奪われてしまったのだが、いやはや、大変なことになってしまった。もはやこのお酒以外まったく目に入らない、いや喉を通らないほどの惚れっぷり。
こういうのを「恋は盲目」というのだろうとひとり思いを巡らせてみたりして。
ホント、懲りない性格である。

さて、なぜこのお酒の虜になってしまったのか。
あるラジオ番組がきっかけだった。
東京FMのスカイロケットカンパニー。みなさんはご存知だろうか。
まだ聴いたことのないという方は騙されたと思って一度は聴いてほしい。
何がいいって、DJのスキルの高さとハートの熱さ!
マンボウやしろさんと浜崎美保さんの二人が繰り広げる世界観は別格だ。
笑いあり、涙あり、時に深く考えさせられることあり、そして何よりリスナーを大切にするスタンスが素晴らしいのである。
さらに、浜崎美保さんの声は「ミルキーボイス」と称されるほどの素敵な声色とくる。
きっとその声を聴けば誰もがメロメロヘロヘロのファンになること間違いなしだ。
月曜日から木曜日の17:00~20:00までの3時間。
コロナ禍で気分が滅入っている時も、仕事で疲れ切った帰り道も、どれだけ笑顔にしてもらったことか。
もうこの番組なしでは生きていけない! ってくらいのファンになってしまった。

そんなスカイロケットカンパニー(通称、スカロケ)のコーナーの一つのスポンサーだったのが高橋酒造さんだった。そう、僕が一目惚れしたあの子の生みの親。
その高橋酒造さんが、番組で「白岳 しろ」をベースにつくった新商品の「金ハイ」と「銀ハイ」を紹介していたことが、恋のきっかけだったわけである。
のどごし、のみ味の良さ、それらの魅力をミルキーボイスが余すところなく伝えるのだが、それはもう言霊に近い感覚。気持ちはどんどん揺さぶられていったのである。
それでも僕には「いいちこ」が……
そんな葛藤が胸の中に生まれていた。

その日から3か月……
スーパーやコンビニで「白岳 しろ」を見ては気になり。ちらちら。
でも、どこか手にとる自信もなく。やっぱり安全安心の「いいちこ」に手を伸ばし。
まるで、声をかけるでもなく傍を通り過ぎる片思い男子のそれに近い。
そんな日々を過ごしながら、またいつものように白い美しい瓶を見ていると……
なぜかその日は違ったのだ。
なんというか、ぐっと引き寄せられるというのか、いや、どちらかというと向こうから僕を呼んでいるような、そんな感覚になったのだ。
「いいちこ」の前に立ち、また「白岳 しろ」に引き返し。
そんなことを何度も繰り返すこと5回……
ついに心を決めた! こうなったら善は急げである。
気持ちが揺らぐ前にそそくさとレジに行へ!
こうしてようやく「白岳 しろ」を手に入れたのである。

そんな「白岳 しろ」、その魅力は味だけではない。
高橋酒造さんの酒造りへのスタンスだ。自然を敬い、自然と共に生きてきた歴史そのものが酒造りの魂であり姿勢となっているのだ。

彼らのホームページにこんなことが書いてある。

―焼酎造りで、人ができることはほんのひとにぎり。-

明治三十三年から120年。日本三大急流と言われる球磨川とともに米を作り、酒を造ってきた彼らだからこそ知る自然の偉大さ。
どんな腕いい杜氏でも水だけはつくれないというほど、人間のできること、自然にしかできないことを知り尽くした酒造りへのスタンス。自然への愛がたっぷり込められていると感じてならない。
こんな姿勢で造られたお酒は幸せだと感じる。そして、そのお酒をいただくことのできる僕たちもまた幸せだと思う。

そんな大自然とともに歩んできた高橋酒造さんだが、時としてその大自然からの試練も受けとめる。記憶に新しい令和2年7月に起きた熊本豪雨災害である。「白岳 しろ」を含め数々の銘酒を育んできた球磨川は氾濫。100年に一度と言われるほどの大災害は高橋酒造さんの本社がある人吉市の市街地まで被害を及ぼした。幸いにも高橋酒造の従業員の方で犠牲になられた方はいなかったそうだが、酒造りに関わる方の中には、きっと近しい方を失った方もいらっしゃったのではないかと思う。

それでも自然と向き合い続ける。
自然の恵みを分け与えられるということは、また、自然からの試練を受けるということなのかもしれない。そうやって120年も造りつづけてきたのだと思うと、今、目の前にあるこのお酒を一滴として無駄にすることはできないと思う。

どんなに便利な世の中になろうとも、僕たちは自然の中で生きている。
これは地球で生活する以上、不変の事実だろう。
だからこそ、自然を感じ、自然と共に生きていることを忘れてはならない。
人間が自然を凌駕するなんていう驕った考えで物事に向き合えば、摂理は歪んでしまう。
僕たちは決して失ってはならない。
いつも自然がそばにいるから生きていけるのだということを。

僕が恋した「白岳 しろ」は、忘れかけていた自然への畏敬の念を思い出せてくれただけでなく、そうやって築き上げてきた歴史の尊さも教えてくれた。

のんでものまれるな。

その言葉には、一滴までも無駄にせず、自然の恵みを堪能するのだという先人の教えが込められているような気がする。

出逢いに偶然はない。すべては必然である。

僕たちに今できること。それは日々の出逢いに感謝し、ありがたく受けとることなのかもしれない。

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