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#92 もしもマルティン・ルターが Facebook を使っていたら、きっと喜ぶと思うよ 〜教養とユーモア〜

アメリカ人は、格言が好きだ。本人たちは自覚していないかもしれないが、理由は歴史的にはっきりしている。1522年にマルティン・ルターが聖書のドイツ語訳を完成させて以来、「教会でエライ人の話を聞いて、その通りにする」という行動規範が、「自分で聖書を読んで、自分で考える」に変わったのだ。



格言とプロテスタンティズム

ルターの信条はその後イギリスへ渡り、清教徒革命を経てイギリスからアメリカへと伝わった。伝わる過程でその思想は純化され、プロテスタントを基軸とするアメリカ文化が出来上がった。アメリカの歴代大統領は現職を含めて46人いるが、実はプロテスタントではない大統領は2人しかいない。暗殺されたケネディ元大統領と、現職のバイデン大統領で、二人ともカトリックだ。今日は、そんなプロテスタンティズムと関連の深い話をしてみたい。

同じ分野の大学の教科書を比べると、アメリカの教科書が圧倒的に分厚い。次がヨーロッパで、日本のものが一番薄いだろう。理由は、上の歴史が語っている。アメリカ人はそもそも「エライ人に教えてもらう」ことをよしとしない文化を背負っており、「自分で本を読み、考え、書き、議論する」ことを何より重視する。
 したがって、教科書も基本的には、「大学教授に教えてもらわなくても、独学で最初から学べる」ことを前提として書かれている(アメリカ人はあまりその認識はないかもしれないが)。
 日本の教科書が数ページで済ませている内容に数十ページ費やしているようなこともザラだ。「クドイが、ちゃんと勉強すればちゃんと分かる」が、アメリカ文化の真骨頂だろう。僕は、統計学を日本の大学で学んだ時には全く理解できなかったが、アメリカの教科書を用いてオーストラリアで学んだ時、驚くほどするっと頭に入ってきた。「時間をかけて学べば、誰にでも門戸が開ける」アメリカン・ドリームは、1522年以来のそんな文化の上に花開いたと考えられる。

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上の内容の一部は、ドイツへ来る前に立教大学で講演させて頂いた。AI 技術についての話の中でそんな話をしたので、てっきり無視されるかと思ったが、意外なほど好評で、「あの部分よかったです」という感想をいただき、嬉しかった。


Facebook の格言を

前置きが長くなった。僕はソーシャル・メディアは Facebook だけと決めている。Instagram にはあえて近寄らない。Facebook 上では、主にアメリカ人が主催する、格言を流すサイトがたくさんあり、フォローしている。固い格言だけではなく、実にユーモアと教養に満ちたものが流れてくる。今日はいくつか紹介したい。今後も定期的に紹介しようと思っている。

日々、格言を書き、読んで生活の支えとするのも、上に書いたアメリカ人の気質をよく表している。「エライ人が言うこと」を聞くだけではなく、自分たちで格言を作り、自分が気に入った格言を自分の指針としていこうというのは、プロテスタンティズムの分かりやすい表れだ。ルターが Facebook を使っていたら、きっと喜ぶに違いない。では、最近 Facebook で流れてきた格言から、12個引用して、「その心は?」を説明したい。

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「コップに水が半分入っている」状態を、「まだ半分ある」と考えるか「もう半分しかない」と考えるか、というのはよくある議論だ。それをもじって、「悲観的な人はワインが半分しかないと考える」「楽観的な人は、もう次のボトルを開けている」とした、痛快な酒飲み格言だ🍷

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これは深い。左が「どこで見つけたの?どこにも見つからなかったのに」と、右が持っている Happiness(しあわせ)を見つめている。右は、「自分で作り出したんだよ」と目をくりくりさせている。しあわせはきっと与えてもらうものではなく、自分で作り出すものなのだろう☕️🍩🕯️

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テレビと読書の影に注目しよう。受け身が中心のテレビはテレビの影しかないのに対し、能動的な読書は、影に宇宙や恐竜、童話に出てくるお城が登場する。限られた情報であるテキスト(=本)から、能動的に情報を取り出すことの価値を述べた、とても含蓄のある一枚の絵だ 〜 Adventure awaits..!

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僕の一番のお気に入りはこれ。「プレゼントだよ」「コルク?何に使うの」ときょとんとする一角獣。コルクを角の先につければ、みんなでビーチボールで遊べる。つついて割ってしまうこともない。ダイバーシティの実現には「ちょっとした工夫」が必要なのだろう。

これは肩の力を抜いて楽しめる、ただの言葉遊び。Pyramid は mid なので中央、じゃあ左に置けば Pyraleft、右なら Pyraright らしい……この種の言葉遊び、実は多い。

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これは、多少英語の知識が必要になる。最初のコマで、赤い車が後続車にクラクションを鳴らされている。見ると、赤い車のドライバーは車内で一生懸命「橋の絵」を描いている。道路標識は、“Draw Bridge Ahead" 〜 draw bridge は可動橋のことで、「この先可動橋注意」の意味なのだが、draw は「描く」という意味の動詞でもあるので、「この先の橋の絵を描け」と読み違えてしまった!

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これは絵ではなく写真だ。65歳の誕生日ケーキには、「(華氏の)65(度)は、摂氏では18だ!」とある。「65歳おめでとう、気持ちは18歳!」の意味で、それを摂氏と華氏に関連づけたのがあっぱれだ。上の文言からこれは華氏を使っている国と分かり、アメリカということになる(アメリカ以外にはジャマイカくらいしかない)。ちなみに華氏100度が摂氏38度で、熱中症の恐れがある気温の目安となる。アメリカでは、「気温が3ケタになります(It'll be triple digit hot.)、みなさんご注意を」と呼びかけたりする。

この写真を見せて、「何がどう面白いか、文化的な考察を含めて英語で述べよ」という大学院入試問題を出してみたい。摂氏ー華氏の大まかな計算、未だに華氏を使用している国がほぼアメリカだけであるという知識、なぜ面白いかというユーモアのセンス、そしてそれを表現する語学力、かなり総合的な力が測れる入試問題だ。

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音楽ネタをいくつか。これは、オーケストラに参加したことがある人なら、膝を打つ内容だろう。「楽譜には126(四分音符が1分間に126回打てる速さ=運動会の行進よりちょっと速いくらい)とあるのに、あなた(=指揮者)は145ですっ飛ばしましたよ!」と違反切符を切られている。実は、ただのジョークではない。

練習時間が短い場合、テンポを速くした方が「アラを隠せる」ことは多くの指揮者が知っている。なので、急ぎがちなのだ。でもそんなことをすれば、音楽性が損なわれてしまう。後にいる団員たちの表情を見てほしい、みんな、どことなく微笑んでいる。

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これは、楽しい。思わず声を上げて笑った4コマ漫画。楽譜を読もう。曲名は知らなくても、この曲はおそらく多くの人が知っているだろう。通称「びっくり交響曲」だ。「ドドミミソソミー、ファファレレシシソー……ドドミミソソミー、ドドファ#ファ#ソ」まですごく小さな音で演奏して、次の瞬間、「ジャン!」と鳴る。多くの聴衆はここで目を覚ます。下の動画を、ぜひどうぞ。やはり寝ている猫を連想する人が多いのだろうか。

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次は哲学だ。デカルトの言葉「我思う、ゆえに我あり」が元になっている。英語では、“I think, therefore I am. “ と訳されるが、ラテン語では、屈折接尾辞のおかげで、“Cogito, ergo sum. “ と3語で表せる。パスカルも、“Man is a thinking reed. “(人間は考える葦である)と言った。
 それに対して、上は「考えない人間も存在すると知った時のデカルト」の絵だそうだ。イギリス人なら、この絵だけを見せて、「これは誰の、どんな時の顔でしょう?」と聞いて誰が一番面白い答えを出せるか、競争しそうだ。とても知的で、教養が問われる。これも、大学院入試問題に出してみたい。

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次は政治。オバマ米元大統領の Yes, we can. を思い出して考えてもいいだろう。上の絵では「変化が欲しい人!」と聞いて、全員が手を挙げている。対して下は「じゃあ、自分が変わろうという人!」(あるいは「自分で何かを変えようと思う人!」)と聞くと、誰も手をあげないという風刺画だ。支持することと行動することには大きな差があることを表している。Yes, we can. も、自分が we に入るのには、大きな勇気が必要だ。

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最後は、自分の専門分野から。左は「考えているだけの時のアイディアの姿」、右は「書いている時のアイディアの姿」だ。「書く」という作業が、「書いた結果としての文章」をもたらすだけではなく、書き手の思考をクリアにしてくれることを示している。ChatGPT に頼んで、仮に「完璧な文章」ができてきても、右のように思考が晴れることはおそらくない。人間と AI の分業を、ちゃんと考えたい。これは、僕の研究テーマだ!この絵、今後長く引用させてもらうかもしれない。

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日本語でも、やってみたい

ここに紹介したのは、過去3ヶ月くらいに受け取った Facebook 格言からのダイジェストだ。恥ずかしながら、教養不足で理解できなかった格言も多くある。聖書や文学作品など、「全員が知っている前提」で諸々が語られることの多い欧米文化の奥深さを思い知る。

日本でも、たとえば古事記や万葉集、源氏物語や徒然草から「さらっと引用」あるいは「さらっとパロディ」して、飲み会の席で笑えるような文化を育てたい、とふと思った。

今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️🍩🕯️
(2023年11月27日)



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