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#45 フィンランディアと金子みすゞ

交響詩『フィンランディア』とかけて、金子みすゞと解く
その心は?

実は先週の土曜日から、フィンランドに来ています。フィンランドが生んだ名作曲家シベリウスによる、交響詩『フィンランディア』と、大正末期から昭和初期にかけて活躍した日本の童謡詩人金子みすゞ(みすず)の共通点を、ここフィンランドの地で考えてみたいと思います。



ヘルシンキ、12月6日

2010年の12月6日、当時クラシック音楽関係の仕事をしていた僕は、社長とともにフィンランド代理店を訪ねました。空港でピックアップしてもらい、ヘルシンキ市街へと。そこでの会話です。

先方:お二人さん、今日は何の日か知ってるかい?
 僕:???
先方:フィンランドの独立記念日だよ。街中がお祝いの日に、ミーティングか?

大ミスをやらかした

まずい……訪問先国の祝日をチェックするのは海外ビジネスの基本中の基本なのに、今回はサボっていた……先方に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。先方は続けます。

先方:向こうに見える Government Palace で独立宣言が採択されて、
   きっとフィンランディアが合唱された場所と日だよ。
 僕:フィンランディア……

交響詩『フィンランディア』

フィンランド第2の国歌とも呼ばれ、シベリウスが1899年に作曲した交響詩『フィンランディア』。愛国心をかきたてるからと当時の帝政ロシア政府が演奏禁止にしたほどの曲で、独立17年前の1900年7月2日に、ヘルシンキで初演されました。

クラシックの楽曲は演奏するオーケストラや指揮者によって雰囲気や曲のイメージが変わるものですが、おそらく『フィンランディア』ほどその幅が広い曲もまれではないでしょうか。最初の音符2つだけで、オーケストラの個性が出ます。
 
続きを読みながら、2011年8月のヘルシンキ・ミュージック・センターこけら落とし公演での『フィンランディア』をお聴きください。『フィンランディア』はいろいろな演奏を聞きましたが、これは地元オーケストラによる「世紀の名演奏」だと思います。ではどうぞ再生ボタンを🎵

この曲の特徴は、オーケストラの4要素、つまり弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器が比較的独立して活躍するところです。曲は当時の帝政ロシアの圧政を思わせる重苦しい短調で始まり、次の流れです。

① 低音金管楽器 → 木管楽器 → 弦楽器 → 高音金管楽器+弦楽器

ここで突如テンポが上がり、フィンランド独立を思わせる長調へと変わり、次の流れになります。

② トランペットファンファーレ+打楽器 → ホルンのつなぎ → 弦楽器

さらに、次のコラール部分がいわゆる「第2の国歌」です。上の演奏では合唱も入っていて、とても美しいです。

③コラール:木管楽器+合唱 → この後は ② へ戻り、フィナーレへと向かいます。

フィンランドの独立の物語を描くように、一度単調から長調へと移って華やかな雰囲気になった後は、一度も単調に戻らず曲が終わるのが印象的です。このように、『フィンランディア』はいろいろな楽器が渾然一体と「音を織りなす」のではなく、オーケストラを構成する4要素が比較的独立してフレーズをリレーしていく構成になっているのです。そして全部の楽器が、どこかでちゃんと活躍します。「トライアングルの見せ場」までちゃんとあります!


金子みすゞ『私と小鳥と鈴と』

それでは、金子みすゞの有名な詩、『私と小鳥と鈴と』を引用します。金子みすゞさんの紹介も合わせて載せておきます。

私が両手をひろげても、
お空はちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面を速くは走れない。

私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。

金子みすゞ『私と小鳥と鈴と』
かなづかいと句読点は光村図書版に合わせました

この詩の心は読んでの通り、いろいろな生き物や物は実は比較するのが難しく、それぞれにそれぞれの美しさがあることを表現しています。この詩では人間と動物と物を対比していますが、学校現場では一人一人違って個性のある人間に対してこの思想を持ってほしいという想いで扱われることが多いようです。

*     *     *

オーケストラの話に戻ります。オーケストラの4要素は上の詩の「私・小鳥・鈴」にとても似ています。
 冒頭の重苦しい低音は、トロンボーンとチューバならではの音で、他の楽器には出せません。その後に続く繊細な、ロシア圧政下の民衆の息遣いのような音は、フルートとオーボエ以外に適任はいないでしょう。
 その後の弦楽器部分で一気に風景が広がりますが、あの広がりは広い音域をカバーし人数も多い弦楽器にしか出せない空気感だと思います。その後のファンファーレはトランペットとシンバルにホルンの合いの手が盛り上げますが、この3つの楽器がなくては『フィンランディア』が演奏禁止になるほどの人気を博することはなかったと思います。そして、意味を持つ歌詞を演奏できるのは、人の声だけです。

交響詩『フィンランディア』とかけて、金子みすゞと解く。
その心は?
みんなちがって、みんないい


最後に、フィンランディアの想い出

もし、あの世へ行く時に「音楽は一曲しか持っていけない。それもクラシックのみだ!」と言われたら、僕は迷わず『フィンランディア』を選びます。というのも、この曲は1989年に僕が生まれて初めてオーケストラで演奏した曲だからです。

兵庫県の中高一貫校の吹奏楽部でトランペットを吹いていて、みんなの楽しみだったのは、高校に上がると「女子校と合同演奏ができる」ことでした。コンサートイベントに参加していたいくつかの男子校には吹奏楽部しかありませんでしたが、紅一点の女子校、親和女子高校にはオーケストラ部がありました。
 そこに加わって、『フィンランディア』を演奏したのです。ちなみに当時僕は高校一年生でしたが、その時の親和女子高校の二年上には、デビュー前の藤原紀香さんが在学していました(そんな時代の話です)。

当時の練習内容まではっきり覚えていて、指揮者に特に厳しく言われたのは、最後のテーマ「ミー、レー、ミー、ファー(相対音です)」の「ファの音程に注意!」です。トランペットは普通に吹くとその音が高めに出るので、指で動かせる抜差管を使って音程を合わせました。今でもその部分になると「抜かなきゃ」と体が反応します。『フィンランディア』は僕にとって「青春の曲」です。

*     *     *

フィンランドはそんな、「みんなちがって、みんないい」を体現したような国で、「世界幸福度ランキング」ではデンマークとともに世界トップの常連国です。

World Happiness Report 2023 より
1位がフィンランド、2位がデンマーク
(詳細は画像をクリック)

滞在期間も残り数日になりましたが、そんなことを思いながら、街を歩いてみたいと思います。日本から遠く離れた北欧の地で、34年前と今がつながった、そんな午後でした。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🇫🇮
(2023年8月29日)



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